From Paris/パリDAC通信第54号


2006年11月26日
対オランダ援助審査からみたDAC 
−その3 「優等生」オランダから学べ!?−

 前号までは、DACの「援助審査」を概観し、その目的・特徴として、被審査国・DACメンバー間の相互学習が挙げられる、とご紹介いたしました。今年、日本・スウェーデンが審査国となって実施した、対オランダ援助審査で、オランダ・DACは、どのような点につき相互学習を行うことができたのでしょうか。今号では、この審査で見えたオランダの援助について、ご紹介します。

4.「援助審査」で見えたオランダの開発への取り組み

「優等生」オランダ
 
A tradition of leadership and commitment to performance」、「a front runner with regard to its ability to adapt to new challenges…」。今回の対オランダ援助審査の報告書に記された、オランダへの評価の一例です(以下、イタリック文字部分は、DACの援助審査報告書からの引用)。外交や援助を行う読者の方々の中には、何故オランダのような国がこのような評価を受けるのか、といった疑問を抱く方もおられるかもしれませんが、事実、DACでは、オランダといえば、イギリス、スウェーデン等に並び、新しい課題に先進的、熱心に取り組んでいるといった評価を受け、優等生としての取扱を受けていることが多いように見えます。

本当に優等生なのか?一体何故こんな評価をうけるのか?以下では、対オランダ援助審査を通じて見えたオランダ援助についてご紹介し、一つ目の疑問点について皆さんと一緒に考えられればと思います。第二の疑問点、何故オランダはこのような評価をDACで受けているのか、については、今回連載シリーズのテーマのひとつ、「DACそのもの」について考えるひとつの題材となりますので、次号以降取り上げたいと思います。

オランダ援助の強み −オランダ援助から学べる(かもしれない)こと−
 では、オランダが優等生といわれるべく理由は何でしょうか。日本の一ODA関係者である著者の目からは、今回の援助審査を通じて見えてきたオランダの援助のうち、主に評価できる点として、以下が挙げられると考えています。

 まず、「among the most generous donors within the DAC」であることは確か。オランダは、絶対額ではDACメンバー国(22カ国)中6位(2005年、50.13億ドル)ですが、対GNI比では、4位の0.82%となっています。オランダ政府は、GNI比でのODA量の維持にコミットしており、事実、97年より政策目標として、ODA予算をGNI0.8%とすることと定めています。実績としては、実に、75年より毎年国連の目標であるGNI比0.7%を超えるODAを拠出しています(同目標を達成したのは、2006年では、DACメンバー国内、オランダを含めて5カ国。)。

 第二に、比較的明確な戦略や目標が掲げられた援助政策を有していると言える点。現時点でのオランダの援助政策は、2003年に採択された「Mutual interests, mutual responsibilities; Dutch development cooperation en route to 2015」。ここでは、例えば、題名に示されるとおりMDGsを重要なreference pointとし、貧困削減を主目的とした援助を展開することが明確に位置づけられています。また、いわゆる援助重点国を36カ国と指定(2003年に51カ国から削減)、支援対象セクターは各国2から3に絞ることが明確に謳われています。特に、この点については、DACメンバー国の多くは、自国の援助規模・キャパシティに鑑みて、援助対象国を絞る必要が認識される場合でも、歴史・政治・経済的背景から困難となる事情を有する中、オランダは、明確なクライテリア(貧困レベル、民主化・ガバナンス向上が見られること、ODAに対するニーズ(他のドナーの動向、一人当たりODA受取額等も考慮)、オランダによる援助の付加価値に加え、政治等含む当該途上国の関係)を掲げ、具体的な数字を示している点、わかりやすく、評価できると思います。

 第三に、現場への権限委譲。ここでは詳しく述べるのが難しいのですが、在外公館には、複数年に亘る国別戦略・計画策定、予算管理(二国間協力のうち、一般財政支援(一部の公館)・人道援助(全公館)を除いたすべての予算を管理)、プロジェクト承認・実施・モニタリング、他ドナー・途上国政府との対話等に関する権限が委譲されている状況にあり、DACの中でも比較的現場への権限委譲が進んだ国とされており、制度上は、一定の条件が揃えば、機動的な援助の実施が可能な環境が備わっているといえます。

 最後に、計画・モニタリング・評価のシステムを整備し、明確な目標を設定し、データ等に基づいた援助の実施・進捗管理・成果把握・事業の効果向上に努めているといえる点。例えば、「Track Record」は、当該国の援助において使用するモダリティを決定するための自前のシステムで、PRSPの質・周辺環境、政治・経済の状況、公共財政管理を含めたガバナンスの状況、ドナー・途上国間の対話の状況について、レーティング・分析を行った上で、使用モダリティの判断が行われるようになっています。DAC等の場では、財政支援と他のモダリティの相互補完性が重要という一般認識が共有されつつも、どういった条件で財政支援を実施したら効果的なのか等、具体的な議論が進んでいない中、(財政支援を一般化させたいという思いが強いからか?)自分たちなりの情報・分析に基づいて援助を展開していこうというオランダの取り組みはある程度参考になるといえるでしょう。

 以上のように、オランダの援助は、明確な政策を策定し、それを実施するための戦略・ツール・環境を整備し、データ等に基づいた援助実施に努めている点が評価できると言えるでしょう。しかし、もちろん、そんなオランダにも、課題・改善すべき点があるのは、もしかしたら途上国の現場で働いている皆さんの方がよくご存知かもしれません。。。

オランダ援助の課題 
 そうです。やはり、今回の援助審査で確認されたことは、オランダは本部での援助政策・戦略立案は充実しているが、現場でそれを実行できていない部分も大きい、という点ではないでしょうか。

 例えば、前述した援助重点国の絞込み。確かに、36カ国が重点国とされ、戦略上の位置づけが上がり、オランダの二国間援助の62%(2005年)がこれらの国に配分されました。しかしながら、オランダの二国間援助予算自体は、援助予算全体の20%にしか及ばない(参考;その他主な予算配分として、20%がNGO、28%が国際機関への拠出となっている)ことを考えると、そのインパクトはかなり限られること、また、オランダの援助全体を見渡すとなおも125カ国に援助が拠出されていること(注;この統計は、たとえ一人の留学生受け入れでもその国へ援助が拠出されているとカウントされるので、多少割り引いて考える必要はあります)、などを考えると、政策はすばらしいが、必ずしも実態が伴っていないという点が指摘できるでしょう。セクターにしても、結局重点分野として絞られた2もしくは3のセクターに加えて、横断的セクターとして、ガバナンス、ジェンダーなどが入ってくるため、結局、実質的な数の削減にはなっていない実態が観察されました。

 更に、より肝心な問題、すなわち、オランダの援助が本当に草の根レベルで効果を上げているか、という点については、援助審査という限られた時間での外部関係者による場では評価が大変難しいのですが、やはりいくつか疑問が残るのは確か(どの国もある程度はそうでしょうが。。。)。援助審査でも、「monitoring grass roots developments and trends while engaging fully in macro policy dialogue」が課題のひとつ、といわれました。例えば、オランダ自身も認めるとおり、財政支援型援助の志向する中結果として途上国は何ができるようになったのか、また、その結果草の根レベルで何が変わったのかといった点について十分な意識が払われていない、SWAPsの中で実施した技術協力プログラムの中で、人材育成のみに傾注しすぎて組織能力の向上が認められず協力の持続可能性に問題がある等々。。。課題は多くありそうです(読者の皆さんの印象はいかがでしょうか。。。)。

以上のように、政策が実施できていない、または、草の根での実施状況に注意が払われきっていないという原因のひとつには、やはり、現場で実行する人材が不足もしくは必要なところに配置されていない、という弱点が挙げられるでしょう。オランダには、日本のようにJICA、JBICといった援助実施機関がなく、援助予算のほとんど(80%)を外務省が直接担当しています。オランダによれば、その数約1000名。今回の援助審査では、この数自体を十分と見るかどうかの結論は明確になされませんでしたが(例えば、ある人は、ドナー協調が進み、モダリティも財政支援型に移っている中、必要なマネジメントスタッフは少なくてすむという考え方を示していました)、わが国の状況から見ると、決して十分な数とはいえないと思います。なお、適材適所という問題については、今回援助審査の中で多く指摘された重要な点の一つであり、特に、在外公館での人材の拡充が重要な課題とされました。前述のとおり、権限委譲が進む中、現場の人材が不足しているという点は、かなり憂慮すべき問題といますよね。

(パリDAC通信担当 寺門 雅代)


バックナンバー

2006年

10月19日第53回「対オランダ援助審査からみたDAC − その2 「援助審査」はお手盛り審査?−
10月19日第52回「対オランダ援助審査からみたDAC −その1−
8月5日第51回「協力求む!?「パリ宣言」モニタリング調査の開始
6月13日第50回「続・一般財政支援の効果はいかに?

5月28日第49回「OECD閣僚理事会
5月15日第48回「一般財政支援の効果はいかに?
2月21日第47回「OECDの開発に対する取組み強化(その2)− 投資分野での取組み−
2月7日第46回「OECDの開発に対する取組み強化
1月25日第45回「スケールアップに関する議論−続編−(第2回 DAC・世銀スケールアップ会合)

2005年

12月11日第44回「質問:ブルガリアに派遣されている青年海外協力隊の費用は、『ODA』でしょうか?
       (「DACリスト」改訂)
11月28日第43回「スケールアップに関する議論

11月1日第42回「ODA増額のためにODAを使う?」− ODAに占める開発教育・広報費の割合−
9月18日第41回「OECD/DAC事務局による2010年におけるODA量のシミュレーションと最近のDAC内外におけるホットトピック
9月6日第40回「9月国連総会(首脳会合:World Summit)とOECD/DAC
8月22日第39回「援助効果ハイレベルフォーラム・フォローアップ(その2)
7月22日第38回「パリ援助効果ハイレベルフォーラムフォローアップ
6月27日第37回「オバケODA」を退治せよ?
5月28日第36回「開発援助サポーター倍増作戦−DAC諸国における広報−
5月14日第35回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告とそのフォローアップ(その4 開発成果マネジメント)
4月18日第34回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告(その3 能力開発)
3月19日第33回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告(その2 パリ宣言と我が国の対応 )
3月4日第32号「パリ援助効果ハイレベルフォーラム
2月5日第31号「Forum on Partnership for More Effective Development Co-operation
1月23日第30号「脆弱な国家(fragile states)における援助効果向上に関するシニアレベルフォーラム
1月11日第29号「DACアウトリーチ戦略(その2)

2004年

12月14日第28号DACシニアレベル会合(SLM)
11月16日第27号「開発援助における評価の方向性
10月29日第26回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その4 調達キャパビル)−
10月15日第25回『ニカラグア通信:現場から見た調和化・アラインメント
10月1日第24回「DACアウトリーチ戦略−対外協力関係の今後−
8月10日第23回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その2 開発成果マネジメント)−」
7月28日第22回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その1)−」
7月12日第21回「ODAでCO2排出権を買えるのか?」
6月12日第20号MDGsへの貢献はどう図るべきか?
5月30日第19号「対フランス援助審査」

5月18日第18号「OECD閣僚理事会(5/13-14)」
5月4日第17号 「援助量と援助効果の向上」

4月18日16号「DACハイレベル会合 報告」
4月6日15号「DACハイレベル会合(4/15-16)・予告編」
3月14号

2003年

12月13号
10/11月12号
7月21日11号

7月7日10号
6月22日9号
6月9日8号
5月5日7号
4月28日第6号
4月17日第5号
4月7日第4号
3月31日第3号
3月24日第2号

3月10日第1号

Top