From Paris/パリDAC通信第46号

2006年2月7日
OECDの開発に対する取組み強化

「DACと○○委員会合同会合」。ここ何ヶ月か、OECDの行事予定表で見られる会合名で、「○○」には、貿易、投資、環境などがあてはまります。

パリDAC通信第40号では、「開発の年」とも称された2005年、9月の国連首脳会合に向け、メンバー国及び非メンバー国の経済開発過程における、健全な経済拡大に貢献することを目的の1つに持つOECDとしても、組織一体となって開発に取り組んでいこうという議論の中、OECD閣僚理事会でも「OECD STATEMENT TO THE FOLLOW-UP OF THE UN MILLENNIUM DECLARATION AND MONTERREY CONSENSUS」が採択された動きなどについて紹介しました。年明けて2006年、これらの取組みはどのようにフォローされているのか。今回は、DACと他の委員会の協力強化・その見通し等に関するお話です。

取組み1 「OECD開発に関する枠組み(2007-08年)」ペーパー作成
 昨年末より、途上国の開発、更にグローバルな開発のためには、途上国・ドナー双方のODA以外のリソースを開発に動員すること、ODA以外の分野での取り組みも不可欠、との認識に基づき、開発を担当するDACはもちろん、その他分野別の知見を有する各委員会(例 貿易委員会)も、OECD全体として、開発に対する取組みを強化すべく、各部局の2007-08年の活動を策定・実施する際に参照されるべき共通の戦略として、現在作成されているところです(本年2月中旬ごろ理事会で承認予定)。
 本文書では、1.全ての関係者を包括したグローバリゼーションの育成、成長・貧困削減のための政策改革支援、2.能力開発の支援、グッドガバナンス促進、3.開発資金の動員・効果向上、4.共通のリスクへの対応、を重点分野として掲げ、各関連部署の取組み強化を謳っています。

取組み2 貿易のための開発(Aid for Trade)
 昨年12月末のWTO香港閣僚会合で、途上国の開発に資する貿易を促進するための開発の役割の重要性が議論されたことを受け、本年1月以降、OECD、特にDACと貿易委員会の共同作業で右促進のために貢献するための方策を開始しております。

取組み3 開発のための投資
 途上国の開発促進をするための投資政策のありかた等に関する議論・作業。本件は2003年のOECD閣僚理事会で日本の提案に基づき開始。これまでに、投資委員会を中心に、 投資環境改善のための政策枠組みの研究、ODAと開発のための投資とのシナジー(相乗効果)、等の作業が実施されており、まとめられた成果は本年OECD閣僚理事会に報告される予定。(本件については、次号以降のパリDAC通信で紹介予定。)

取組み4 環境・開発合同大臣会合
 4月4日、DAC・環境委員会主催で実施予定。DACと環境委員会はこれまでにも気候変動等の分野において共同作業の実績があり、環境に配慮した開発の促進等に取り組んできました。今次会合はこれらの成果を基に、両分野関係者の一層の協力強化を議論する予定です。

 さて、以上、OECDにおける最近の主な開発とその他の分野の共同作業の状況のです。確かに、このような開発に関する取組みは、OECDで認知されてきており、例えば開発に自らの委員会の実績を基に貢献しようという意識が直接開発を担当していない委員会の中でも芽生え、具体的な作業が進化している点、評価することができるでしょう。
しかしながら、これらの活動により、実質的にどれだけOECDとしての開発に対する貢献が向上することが期待できるでしょうか。私は、いくつかの要素を検討していくことが必要と考えます(一部は、OECD関係者・当事者の間でも共有されており、現在対応策を議論しています。)。

要素1 OECD全体として実質的に開発に取り組むための体制
(1) 取組み1の作成過程でも関係者が頭を抱えていたのが、OECD全体として実質的に開発に取り組むための体制の欠如。
(2) 2003年、開発への取組み強化のため、DAC、開発センター、サヘル・西アフリカクラブ等を中心とした「開発クラスター」を作り、これらの組織間の協力強化を企図した戦略を作成し、モニタリング・評価を実施してきました。しかしながら、そもそも開発を担当していない、貿易、投資等の他の部局を開発に関する作業にインボルブしていくための体制はなく、例えば「開発クラスター」にはこれらの部局に取組み1のペーパーを強制するマンデートはなかったり、DACと投資委員会が合同で作業を行うといっても、それぞれが作成した文書のコメントを相互に依頼して終わり、といった限界がみられます。

要素2 上記のような体制を作る意思は??
では、OECDが本気で開発に取り組む意思があれば、上記のような体制はすぐに強化できるのではないか?といった疑問があるかもしれません。「開発側からすればそうだが。。。」という答えが他の部局から返ってきそうですが。これはOECDの優先活動をどのように決定していくか、といった議論にも関連し、大変難しい問題といえるでしょう。つまり、これは、国際社会の関心(例 WTO)、OECD事務局のハイレベルの意思、OECDを構成する各国政府の優先アジェンダ、各国政府を構成する各省庁、また国民の関心、。。。。結局様々なレベルの政治的なものを含む多種多様な要素によるところが多い。そこで現実をみると「開発」が優先課題であり、国政を左右するようなOECDメンバーの国はかなり少ないといえるでしょう。(ちなみに本年6月よりメキシコ出身のグリア元財相がOECD事務総長に就任予定。途上国の顔、先進国の顔、両方を持ち合わせたこの国の出身者がOECDをどう機能させていくか、変化があるかもしれません。)
また、一方、他の国際機関との比較優位に照らし、そもそもOECDがやるべきでない、もしくは役割を果たせない分野もあります。OECDでどこまで開発に貢献できるか、すべきか。例えば貿易のための開発の議論でも、OECDに対する期待にこたえることは重要だが、WTOのプロセスにおける他関係機関との重複がないよう、作業すべき、といった点が強調されました。

 (パリDAC通信担当 寺門雅代)


バックナンバー

2006年
1月25日第45回「スケールアップに関する議論−続編−(第2回 DAC・世銀スケールアップ会合)

2005年

12月11日第44回「質問:ブルガリアに派遣されている青年海外協力隊の費用は、『ODA』でしょうか?
       (「DACリスト」改訂)
11月28日第43回「スケールアップに関する議論
11月1日第42回「ODA増額のためにODAを使う?」− ODAに占める開発教育・広報費の割合−
9月18日第41回「OECD/DAC事務局による2010年におけるODA量のシミュレーションと最近のDAC内外におけるホットトピック
9月6日第40回「9月国連総会(首脳会合:World Summit)とOECD/DAC
8月22日第39回「援助効果ハイレベルフォーラム・フォローアップ(その2)
7月22日第38回「パリ援助効果ハイレベルフォーラムフォローアップ
6月27日第37回「オバケODA」を退治せよ?
5月28日第36回「開発援助サポーター倍増作戦−DAC諸国における広報−
5月14日第35回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告とそのフォローアップ(その4 開発成果マネジメント)
4月18日第34回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告(その3 能力開発)
3月19日第33回「パリ援助効果ハイレベルフォーラム報告(その2 パリ宣言と我が国の対応 )
3月4日第32号「パリ援助効果ハイレベルフォーラム
2月5日第31号「Forum on Partnership for More Effective Development Co-operation
1月23日第30号「脆弱な国家(fragile states)における援助効果向上に関するシニアレベルフォーラム
1月11日第29号「DACアウトリーチ戦略(その2)

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12月14日第28号DACシニアレベル会合(SLM)
11月16日第27号「開発援助における評価の方向性
10月29日第26回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その4 調達キャパビル)−
10月15日第25回『ニカラグア通信:現場から見た調和化・アラインメント
10月1日第24回「DACアウトリーチ戦略−対外協力関係の今後−
8月10日第23回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その2 開発成果マネジメント)−」
7月28日第22回「ローマ調和化宣言」のその後−パリ・ハイレベルフォーラムに向けて(その1)−」
7月12日第21回「ODAでCO2排出権を買えるのか?」
6月12日第20号MDGsへの貢献はどう図るべきか?
5月30日第19号「対フランス援助審査」

5月18日第18号「OECD閣僚理事会(5/13-14)」
5月4日第17号 「援助量と援助効果の向上」

4月18日16号「DACハイレベル会合 報告」
4月6日15号「DACハイレベル会合(4/15-16)・予告編」

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