第29回ワークショップ議事録:12月4日(木)「低所得国におけるIMFの役割-モザンビークを例として」


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【第29回ワークショップ議事録】

2014年12月4日(木)、国際通貨基金(IMF)アフリカ局エコノミストとしてご活躍なさっている乾慶一郎さんをプレゼンターに迎え、「低所得国におけるIMFの役割-モザンビークを例として」というテーマで第29回ワークショップが開かれました。

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【テーマ】 「低所得国におけるIMFの役割―モザンビークを例として」

IMFの最近の活動としてニュースでよく取り上げられる事例は、欧州政府債務危機を受けたギリシャなどへの支援や、今年に入って騒乱が続くウクライナへの支援など、どちらかと言えば先進国や中所得国での危機対応が中心ですが、IMFは低所得国の経済発展や開発援助においても重要な役割を果たしています。今回のワークショップでは、そもそもIMFが何を目的としてどのような活動を行っているかについて簡単にご説明いただいた上で、IMFプログラムを実施している低所得国においてIMFが果たす役割や、開発援助を行う世銀や各国ドナーなどとの関係について、乾さんのご担当国の1つであるモザンビークを例として、具体的な政策課題に関する議論を交えつつご紹介いただきます。

 

【プレゼンター略歴】 乾慶一郎(いぬい けいいちろう):国際通貨基金(IMF)アフリカ局 エコノミスト

2006年東京大学法学部卒、財務省入省。理財局・金沢国税局を経て、2009年より国際局において、世界金融危機後の欧米各国との政策調整、G7・G20等の多国間枠組やIMF等国際機関に関する政策立案を担当。2009~2011年、長期在外研究員制度を利用して留学し、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)リスク管理・規制学修士、HEC経営学修士を取得。2013年7月よりIMFに出向し、アフリカ局エコノミストとして、モザンビークの成長見通し等・天然資源セクター、モーリシャスの対外セクター・金融セクターの調査等を担当。

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【プレゼンテーション】

プレゼン資料はこちらより

1. IMFの概要

1944年、ブレトン・ウッズ会議において、世界銀行とともに設立が決定。現在、188か国が加盟している。(北朝鮮やキューバは加盟していない)貿易促進による所得向上、為替の安定、国際収支の不均衡の是正などが目的。組織は大きく機能局と地域局に分かれており、機能局は技術支援や専門分野(マクロ経済、財政等)の調査、地域局は分野横断的に各国を担当する。

IMFの3つの機能は以下のとおり。

(1) サーベイランス

世界経済の成長率見通しに関するWorld Economic Outlook (4月と10月)、Fiscal Monitor、Global Financial Stability Reportなどを発行している。また、Article IV Consultation(IMF’s Articles of Agreement)に基づき、IMF加盟国は毎年1 回IMFの調査を受け入れることになっており、その結果も報告書の形で公開している。

サーベイランスにおけるマクロ経済分析は以下の4つのセクターに分かれている。

Real sector:GDP成長率、物価、雇用

Fiscal sector:政府の財政、収支・債務残高

External sector:貿易収支・経常収支、対外債務

Monetary and financial sector:金融政策、金融セクターの健全性

例:「原油価格の低下が石油輸出国に与える影響」を上記4セクターに基づき説明。
(2) 融資

“一時的な要因”で対外収支が悪化したことにより、貿易決済・債務返済などの支払いが困難となった場合、IMFプログラムを申請し、融資を受けることができる。融資を受ける際には、コンディショナリティ(財政政策、金融政策などに関する条件)が課される。貸付の原資は、加盟国の外貨準備から拠出されたクォータと呼ばれる資金が主にあてられる。SRD (Special Drawing Right ドル、円、ユーロ、ポンドのバスケット)建てで、SDR金利で貸される(なお、低諸国には優遇金利あり)。世界的にみると、融資先となっている国はアフリカに多く、東南アジアはアジア経済危機の経験からIMFに対するスティグマが残っていることなどから、現在IMFの融資を受けている国はない。

 

(3) 技術支援

財政金融政策、経済統計の分野における助言・能力向上

 

2. モザンビークにおけるIMFの役割

現在、2013年~2016年の3年計画でPolicy Support Instrumentを実施している。IMFの低所得向けプログラムの一つで、融資は行わないが、経済政策に関する数値目標を課して、半年ごとに実施のモニタリングを行うもの。融資を受けないのにIMFに数値目標を課されるメリットは、IMFにモザンビークの経済政策についてお墨付きを与えてもらうことで、世銀や各国ドナーからの援助を活性化するシグナル効果にある。具体的なプログラムのコンディショナリティとしては、数値目標(借入額、マネタリーベース、外貨準備、短期対外債務、対外債務の支払い遅延)、努力目標(政府の歳入、重点分野への支出額)、定性的政策目標が挙げられる。また、技術支援も多く実施している。(プレゼン資料参照)

 

3. モザンビークの今後

2011年から生産開始された石炭が中期的な成長ドライバー。また、鉱業部門のGDPに占める割合は3%程度ながら、今後の経済成長に大きく寄与すると期待されている。天然ガス田も発見され、2020年にはカタール・オーストラリアに次ぐ世界第3位のLNG輸出国になる予定。

一方、「資源の呪い」には留意する必要がある。具他的には、天然ガスの生産開始により、急激な成長、政府収入の大幅な増加が見込まれるが、富を国民全体の豊かさにつなげることができるか、財政の透明性向上(汚職の防止)できるか、オランダ病(*)を防止できるか、などである。また、資源セクターの直接的な雇用創出は限定的であり、今後どう雇用を伸ばしていくかも課題。

(*)天然資源の輸出により自国通貨高を招き、資源セクター以外の製造業などの産業競争力が失われる

IMFは、「ガス生産を開始するまでの最適な財政支出の規模」、「inclusive Growthの実現」に関するリサーチを行っている。

 

【質疑応答・ディスカッション】

 

Q1:サーベイランスの時、インフォーマルセクターはどれだけ考慮する?

A1:インフォーマルセクタは特にデータが入手しにくいという問題があるが、基本的には各国政府が作成したデータをもとにサーベイランスを行う。また、データ作成向上のための技術支援も行っている。

 

Q2:IMFプログラムは申請ベース?

A2:あくまで加盟国からの申請ベースであり、要請がなければIMFはプログラムを実施できない。ただ、IMFプログラムだけが一時的な要因による収支悪化の救済手段ではない。例えば、アジアではチェンマイ・イニシアティブがあり、日本や中国を含む域内で資金を融通して解決することも可能。

 

Q3:社会保障のコンディショナリティはあるか?

A3:IMFは経済全体ばかりみていて、平等な発展について考えていないという批判は以前からあり、近年はInclusive Growthの観点も重視するようになっている。社会保障については、コンディショナリティのうち努力目標の「重点分野への支出額」でサポートしている。

 

Q4 : IMFと財務省での業務との違いは?

A4:IMFの仕事はコンサルティングであり、財務省では日本のために何をするかという当事者の立場として仕事をするという違いがある。

 

Q5:資源からの収入を将来の経済危機や開発のために積み立てる基金はあるか?

A5: 議論には上がっている。しかし、まだ資源収入がそこまで入ってきていない一方、使うべきところ(インフラ)へのお金が足りていない状況である。現状では、財政の透明性の向上を重視すべきであり、今後資源による歳入が増加してきた段階で基金を設けるかどうか検討すべき。

 

Q6:昔はモザンビークの歳入の半分くらいが各ドナーからの援助だった。資源収入で財政状況がよくなれば財政支援の必要はいずれなくなるが、これについてIMFはどう思っているか?

A6:多くのドナーが援助形態を一般的な財政支援からプロジェクトごとの支援へと変えてきている。モザンビークに対しては、これまでのような規模の援助をあてにせずに経済を運営していくようにという立場をとっている。

 

Q7:出張の際の面会相手は?

A7:7割くらい政府関係者(財務省、中央銀行、鉱物資源省、企画開発省など)、他の3割は民間セクター(銀行、資源会社等)。NGOや政治家などにも会う。また、各国の大使館でG19というドナーのグループを作っているが、世銀とIMFもオブザーバーとして参加して、情報交換や調整を行っている。

 

Q8:加盟国が故意にデータを改ざんすることは?

A8:データについては、仮に能力不足でデータに問題がある場合にはIMFが技術支援を提供することなどによって対応している。ただし、故意と判断された場合には違反規定があり、IMF脱退が最大の罰則規定である。

 

終了後は、乾さんを含め20人ほどで、懇親会が行われました。