第24回ワークショップ議事録: 11月14日(木)「インフラ開発のソリューションバンクを目指して~ブラジルの道路開発における試み」


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11月14日(木)、世界銀行ラテンアメリカ・カリブ海地域総局交通ユニットでブラジル道路開発案件に従事されている荻田さんをお迎えして、「インフラ開発のソリューションバンクを目指して~ブラジルの道路開発における試み」をテーマにワークショップが開催されました。
【プレゼンター略歴】荻田 聡(おぎた さとし)
世界銀行 ラテンアメリカ・カリブ地域総局 持続可能な開発ネットワーク 交通ユニット
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東京大学工学部卒、東京大学新領域創成科学研究科国際環境協力コース修了。開発コンサルティング企業である株式会社パデコの交通インフラ計画の専門家として東南アジア、南アジア、中東、東欧の15の途上国にてコンサルティング案件に従事。2009年よりハーバードケネディースクール公共政策学修士課程に留学し交通経済とインフラファイナンスを専攻。2011年より現職。ブラジルの交通セクター案件を担当。
1.世界銀行のインフラ案件ポートフォィオ
(1)交通セクターで全セクターの22%を占めている。
(2)交通セクターの内訳は、道路案件65%、鉄道16%となっている。
2.ブラジルの交通問題
(1)交通手段としての道路への依存度が高い(60%)
(2)都市部での過度の交通渋滞・公共交通の過小供給
例:ラッシュ時に地下鉄駅に入るのに40分かかることがあった。
(3)交通セクター開発当局の連携不足
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3.現在のブラジルでの世銀交通案件
(1)州単位での案件が中心で、現在5州にて実施
(2)インフラへの融資とともに各種技術支援も行っている
(3)インフラ案件 = エンジニアリング とは限らない(以下の主要トピック)
4.案件サイクルごとの論点
(1)案件準備
道路分野の案件策定時には、以下2つの便益が重視される。
 移動時間減少(例:交通渋滞で車にいる間は働けないが、会社はそれに対して無駄に給料を払っている)
 燃料使用量減少
以上2点を金額ベースに積算したtransport cost(交通費用)がいかに道路案件実施によって減少するかが案件策定段階において重要な指標。
一方、Tocantins州では、雨季に増水し車が通れなくなる箇所を通行可能にするための橋や排水管の建設を行っているが、田舎においては交通量が少なく(渋滞がないため)交通費用削減効果は低いなどの理由より、transport costをベースとした案件策定は難しい。そのため、コミュニティ参加型アプローチを採用した。具体的には、139ある市長村毎に住民を集めて、事業を優先すべき道路を投票で決定した。参加型アプローチには透明性向上、途上国オーナーシップ向上などが利点として挙げられるが、コミュニティ内の政治的関係などにより事業の必要がないサイトが選定される可能性もある。(これはエンジニアが選ばれたサイトを全て訪問し、必要か否か判断することで対応した)また、会議への出席するための役場までの移動に負担がかかる点も挙げられる。
(2)維持管理
完工後の定期的なメンテナンスは非常に重要なものの、社会から着目されにくいためメンテナンス予算は優先されにくい。PPP(交通量の多い道路対象)やコミュニティ主導(低交通かつ未舗装道路対象)によるメンテナンスといったアプローチが存在するが、中・小交通量の舗装道路には適用できない。。そこで民間企業のパフォーマンスを高めるため、従来のインプット(使用材料、労働者、機械に基づく支払)ベースの契約に代えて、メンテナンスの質に基づいて支払うPerformance-based contract(PBC)を採用している。これにより費用削減や品質向上につながった。一方、契約当初に予期しなかったリスク(例:交通量が増加しメンテナンス費用が増加)が実際に起こった際の費用負担をどうするかという問題もある。これについては、できる限りリスクが少ないと判断される案件でPBCを採用することで対応している。
(3)インパクト評価
案件実施により交通費用が減少することはわかっているが、どれだけ貧困削減に貢献したかを定量的に測定することは難しい。
1) インパクト評価手法においては、Treatment group (受益者グループ)とcontrol group (比較(非受益者)グループ)の差をインパクト(成果)と考える。
2) Tocantins州の案件で実施したインパクト評価によると、案件により向上した成果測定指標は、収入、女子学生の就学率、バス通学率、自家用車使用率、就業機会など様々(統計的有意)。ただし、健康面への影響はみられなかった。
3) インパクト評価の難点:a)優良な非受益者サンプル(control group)抽出の難しさ:Control Groupは受益者グループと可能な限り性質が似ている必要があるが、実際に探し出すのは難しい、b)案件成果が出るまでかかる時間が長い:地元経済に影響を与えるまで5年ほどかかるという研究結果があるものの、5年もたてば近隣で他のプロジェクトも実施され、1案件のインパクトを測定するのはさらに難しくなる。
4) 今後の課題・展望:優良control group選定のための調査、短期で効果がでやすい、人の流れなどの交通行動の変化や、地元ビジネスへの影響を与えたかという視点に評価を絞る。
5.まとめ
(1)世銀の付加価値として、What to do(何を作ればよいかという目的は明確)から How to do(どうやって道路を造っていくか)という視点が求められている。
(2)世銀内での様々なセクターの関与。(教育セクター、環境セクター、公共セクター等)
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【質疑応答】
1.住民の要望と技術的な制約で衝突があったときにどのように対応したのか?
>この案件については、住民集会のつけた結果が優先された。ただ、仮に最優先となった道路でも、エンジニアにより明らかに工事の必要がない(つまり雨季でも車が問題なく通過できる場合)と判断される箇所は却下した。
2.コミュニティベースのメンテナンスについて、コミュニティのインセンティブは何なのか?
>コミュニティと幹線道路を結ぶような死活問題が関わる道であれば、政府の早期対応をあてにならない場合は特にコミュニティ主導で進めるメリットがある。
3.インパクト評価について
インパクト評価によって明らかにある指標が悪化していることが判明した場合、クライアントにどう説明するのか?
>インパクト評価は悪い結果も含めてレポートにまとめて先方政府に説明することになっている。
4.州政府のあるべき姿は?
>迅速な意思決定は重要。一方で世銀案件では自国で定められた手続きではなく世銀のガイドラインに従って手続きを進める必要があるため、それが意思決定速度に影響を与えている可能性はある。また、利害関係省庁が増えるほどその分迅速な意思決定は難しくなる(道路案件を防災と絡めて環境省も交えると案件実施速度は低下する)
5.田舎と都会の道路建設割合はどのように決定しているのか?
>州政府とPro-poor(貧困者の生活向上の視点)で何が必要か議論した上でどのような投資が必要か決定している。
6.インパクト評価のための統一的指標の開発はなされているのか?
>案件ごとに特徴が異なるため、統一的な指標は難しい。長期的な課題の一つ。
7. 案件形成に際して、どれだけ世銀の影響力があるのか?(たとえば、サンパウロとリオのような大都市案件の場合と州の田舎案件の場合で)
>サンパウロなどの大きな州になると、世銀の影響力は地方の州の案件と比べて低下すると言える。連邦政府からは融資は不要といわれている。ただし、技術支援は期待されている。
8.現地政府が維持管理を行うことを案件締結時に融資条件の一つとして約束しているのか?
>ブラジルの道路案件は維持管理そのものの案件が多いのでこのような融資条件はあまりないが、Tocantins州の農村の橋の案件の場合、州政府が市町村に対して維持管理をすることを案件実施の条件として覚書を結んでいる。
ワークショップ終了後は荻田さんを交え、参加者約25名での懇親会が行われました。