DC開発フォーラム第228回BBL「貧困をなくすミレニアム開発目標へのアプローチ~その現状と課題」

第228回BBLの議事録が出来ましたので、以下をご覧下さい。配布資料等もこちらのHPからご覧になれます→http://www.devforum.jp/bbl/


第228回DC開発フォーラムBBL2012年5月22日
「貧困をなくすミレニアム開発目標へのアプローチ~その現状と課題」
勝間靖
ジョージ・ワシントン大学エリオット国際情勢スクール客員研究員/
早稲田大学国際学術院教授/早稲田大学グローバル・ヘルス研究所所長
MDGsにまつわる言説は正しいか?
>確かに貧困は削減されてきたが、人口の多いインド・中国をはじめとするBRICs諸国での改善がその背景にある。今後は人口の少ない国にも着目して貧困削減を進めていく必要がある
>MDGsは所得格差の拡大には言及していないのが課題で、今後は中所得国の公平性を伴った成長支援も重要となってくると考えられる
>サブサハラアフリカ・南アジアでのMDGsの進捗状況が良くないと言われるが、その中でもうまくいっている国は存在しており、個々の国の事情(ボトルネック)が軽視されてきた事が見て取れる
近年にとくに注目される論点
>MDGsは量的な目標がメインであったために、質に関する議論が不十分であった。ジェンダーのほか,村落地域・母語・出身民族などによって存在している国内格差を是正するために、Rights-Based Approachに加えて、Equity-Focused Approachで取り組んでいく必要がある
>MDGsの指標達成を優先するため,NGOを介して予防接種ワクチンや蚊帳を配布するなど、これまで即効性のあるものに主に焦点が当てられてきた。その反面,そうした垂直的なアプローチが保健システムの弱体化を招いたケースも存在する。短期的な観点からの成果重視は続くが,今後は長期的な視野で構造的な問題に取り組む必要がある
>MAF (MDGs Acceleration Framework) では、ボトルネック分析手法の標準化により選択と集中に取り組んでいる。公平性や構造的な問題解決とどのようにすり合わせていくかが今後の鍵となる
開発アクターの多様化とMDGs達成のためのグローバルガバナンスの必要性
>住民参加型開発やコミュニティ開発などボトムアップ型の支援の重要性が謳われるものの、トップダウン型の支援になりがちなところがある。MDGsにおける住民やコミュニティの参加をどのように確保していくのかが課題
>世界的な経済協調のための中心的な国際会議の場がG8からG20に代わったように、先進国という枠組みそのものが変化しつつあり、これに伴ってOECD・DACの援助政策も有効性が薄れてきている
>援助の効率化のためにOne UNが進められているが、国連改革もまだまだ途上。他方、個々の機関の良さが失われている側面もある。例えば、これまで人道支援に携わってきた機関が、人道支援の政治化によって、中立的な人道支援をうまく行えないケースも出てきている
>国際連帯税が推進されると、NGOの資金調達がさらに容易になり、NGOセクターの影響力はますます大きくなることが予想される。また,ゲイツ財団やクリントン財団のように、財団が影響力を増してきている。こうした市民社会アクターとの調整はますます重要となってきている
>BoPビジネスの進展によって開発援助における民間セクターの役割も増大している。しかし,国連グローバル・コンパクトなどだけでは,企業の国際開発への参画には十分に対応できてきない.
>世界銀行グループなどの国際開発金融機関とともに、これらのような新たな開発アクターと、国連システムをどのように調整していくかが今後の課題として挙げられる。新たなアクターを長期的な構造問題にどのように巻き込んでいけるかが鍵である
質疑応答
Q. どうしてGood Practiceが共有されづらかったのか?
A. かっては地域レベルで情報が共有されていなかったのが原因の一つとして挙げられる。現在では地域事務所が地域レベルでの情報共有のコーディネーションを行っている。さらに、本部にも現場経験のある人は多かったが、その知識の体系化が進まなかった
Q. 貧困の定義は何か? また、貧困をなくすとはどういう事を指すのか?
A. MDGsでは1日1$未満で暮らす人々を貧困者として定義づけ、人間開発の機会の欠如の撲滅を目標としている。他方,Rights-Based Approachでは、教育を受ける権利など人権が奪われている状況を貧困と考えている。アマルティア・セン教授が提唱するケイパビリティ・アプローチが選択肢の欠如を貧困と捉えるように、貧困の定義のされ方は様々である
Q. 成果が上がりやすい、とはどのように分析されるのか?
A. ボトルネック分析手法が用いられる。例えば妊産婦死亡率を下げるというMDGは,医療施設などコストがかかるし、途上国にはそもそもそのための医療人材が不足している現状もあるので,後回しにされやすい
Q. MDGsの期限である2015年以降に関して、現在どのような動きがあるか?
A. 国際機関の内部では、MDGsの達成に全力を注いでおり、まだ公にできるような議論は始まっていない。基本的にはこれまでの枠組み+αになると考えられるが、リオ+20の結果次第によって持続可能な開発の観点が入ってくると考えられる。また,宣言文書として,「人間の安全保障」という視点が入ってくるかもしれない
Q. 多様な開発アクターの参加が容易となる一方で,国益を巡る争いを誘発しうる経済成長アジェンダであるが、これをどのように評価するか?
A. 関税の問題等はMDGsに既に入っている。MDGsのGoal 8に入れられているパートナーシップの問題などが今後より明示化されていく可能性はある。しかし、MDGsがそもそも1990年代に国際的に合意されていたものの集大成に過ぎない事を考えると、これから2015年までに新たな事柄について合意を形成するのは難しいのではないかと思われる
Q. 国際的な合意事項と二国間援助機関の利害関係をどのように統合していくべきか?
A. モニターしやすい目標に絞って国際的な合意を得るというのが一つの手段として考えられる。多国間援助機関がコア予算の部分でやや長期的な視野を持って支援に当たっている一方で、政治家が地元で有権者に説明できるよう、二国間援助機関の支援が国内政治に左右されるのはある程度仕方がない事だと思われる。MDGsの達成のためには,多国間援助機関のコア予算をしっかり分担することは重要である.
Q. 開発における統計の重要性をどう説得していくか?
A. 途上国であれば、その国の大学など統計のキャパシティがある所をパートナーとして選ぶのが重要である。しかし、MICSやDHSなどサンプリング調査による統計についても十分に活用されていない国もまだ多く、MDGsに関連した統計整備は今後の課題の一つとして挙げられる