バックナンバー

第110回「ソールハイム開発援助委員会(DAC)議長の訪日:転換期を迎えたDAC」

第109回「DAC新規加盟の動き」

第108回「2011年:DAC設立50周年」

第107回「50年ぶりに改訂されたDACのマンデート」

第106回「援助構造,開発協力のグローバルガバナンス」

パリDAC通信

2014年3月18日
第111回 開発資金を巡る議論(ODA の譲許性とは)

DAC にとって 2014 年の重要課題は二つ、開発資金を巡る議論と、4 月にメキシコで行われる「効果的な開発協力のためのグローバル・パートナーシップ会合」への対応です。今回は、開発資金についての議論をご紹介します。

DAC加盟国のODAの速報値が発表される毎年4 月上旬は、DACが一年で最も注目される時です。以前は、公表前に数値入手に向けたメディアの過熱取材が常態化していましたが、最近では途上国への資金の流れ全体に占めるODA の量的比重の低下もあってか、メディアの取材活動は静かになりました。発表方法も記者会見からインターネット上へと変わっていますが、ODA 統計の番人という DAC の役割は引き続き健在です。その一方で、この数年、統計の取り方に端を発し、ODA のあり方そのものを巡る議論が DAC 内で起こっています。

発端は、ドイツ、フランス、EU のODAローンの計上方法でした。途上国向けのローンをODAとして計上するためにはいくつかの要件を満たす必要があり、その一つが「譲許的性質を持つ」こと、具体的には「一般的な市場金利を下回る」こととされています。これを「貸し手」(ドナー)から見るか、「借り手」(被援助国)から見るかという議論です。

単純化すると、先進国 A 国はヨーロッパ市場で3%の金利で資金を調達でき、アフリカの B 国は7%で調達できるとします。この金利の差は、2 か国の信用の違いです。A 国が3%で調達した資金を5%で B 国に貸し付ける場合、A 国は2%の利ざやを得、B 国は自力で調達するより2%低い金利で借り入れられます(A 国の利ざや分は別の開発援助に回されます。)。譲許性を「貸し手」の視点から見る国は、このローンの金利は市場金利である3%を下回っておらず、譲許的ではないと考えます。つまり、ローンの原資は市場から調達したもので国民の税金の投入がなく、ODA に該当しないと考えるのです。それに対して、「借り手」の視点から見れば、B 国は自分で調達可能な資金より低い金利で資金を調達でき、このローンは譲許的となります。A 国は税金こそ使っていないものの、自国の信用を途上国に貸していると言えます。

日本の円借款には政府予算が使われており、どちらの視点から見ても十分に譲許的なものです。それに対し、上述の手法は、ODA が生まれた約40年前には想定されていませんでした。ドイツ等はローンに技術協力を組み合わせるなど譲許性を高める工夫を行ってはいますが、いずれにしても、「先進国が国民の税金の一部を途上国に移転する」という単純な構図では捉えきれなくなってきています。

このような統計の問題に端を発し、そもそも現代の開発課題に即したODA とは如何にあるべきかという議論が昨年来DAC で集中的になされています。加えて、ポスト2015年開発目標では、貧困削減に加え、気候変動や治安等、開発に影響する様々な側面が検討されていますが、先進国がODA やその他のツールを活用してこれらの課題に取り組めるよう、インセンティブを与える仕組みを作る重要性が指摘されています。

さらに、今や途上国が受け取る資金において、民間投資、NGO・財団等の資金、送金等の比率が高まっています。また、非DAC諸国の活動も盛んです。クウェート、アラブ首長国連邦等、既にDAC基準に従ってODA統計をとっている国もありますが、中国をはじめとする新興ドナーは、自らの開発協力はODAとは一線を画するものと規定し、額の把握さえ困難です。DAC では、これらの資金をどのように捕捉していくか、技術的な検討と同時に政策的な観点からも議論を進めています。

DAC では、本年末までに「譲許的性質とは何か」について合意することを目指しています。同時に、ポスト2015年開発目標に資する開発資金のあり方を提示したいと考えています。3月上旬にはDAC シニアレベル会合が開かれ、加盟国の政府高官がそれぞれの立場を表明しましたが、考え方が異なる部分も明確になってきており、年末に向けて難しい交渉となりそうです。日本も既に政府部内での議論を本格化させており、今後とも議論に積極的に参画していくつもりです。

(OECD代表部参事官・DAC 副議長 岡野結城子)


2013年12月24日
第110回 ソールハイム開発援助委員会(DAC)議長の訪日:転換期を迎えたDAC

OECD代表部 一等書記官 三田村達宏(2013年12月時点)

OECD開発援助委員会(DAC)のエリック・ソールハイム議長(国籍:ノルウェー、写真下)が、外務省閣僚級招聘プログラムで、12月に来日しました。

Eric Solheimパリ発のフライトで早朝の東京に到着後、外務省、JICA訪問、日本記者クラブでの記者会見等をこなし、翌日は政策研究大学院大学(GRIPS)における講演会、国会議員や関係者との面談の後、新幹線で東北地方に移動。3日目は、東北の被災地視察、復興状況や防災の取組に関する意見交換、その後、横浜に移動し、横浜市のグリーンシティの取組を視察。中華街で(おそらく)肉まんを頬張った後、日付を跨いで、深夜便で羽田発。

「観光ではないので、日本政府の期待するプログラムを目一杯詰め込んでほしい。Packed, packed schedule OK!」という希望通りの分刻みスケジュールをバックパック姿の議長がエネルギッシュにこなす姿は、普段のパリでの議長の精力的な働き振りと重なります。メールは何時も簡潔明瞭、次のアクションは何?そして皆への感謝の言葉。「!」が多いのも特徴。

★DAC議長とは?
ポジティブ思考のソールハイム議長が2013年1月から務めるDAC議長というのは何をする人か?普段は、ほぼ毎月開催されるDAC会合等で議長役を担い、加盟国の意見集約を行い、またDACの歩く広告塔として、海外にも出張し、国際舞台において開発・途上国問題について発信します。これらを通じて、DACの新しい方向性の提示、加盟国がより良い開発協力を実現できるようリーダーシップを発揮するのが役目です。

ソールハイム議長はもともとノルウェーの有名な政治家で、前政権時代には環境・開発大臣を長く務めており、さらに遡るとスリランカ和平にも関わってきました。そのような経歴もあり、DAC議長としても、環境と開発の統合を通じた持続可能な開発の実現、民間セクター主導の貧困削減、官民連携の促進、脆弱国支援等を特に重視しています。これらはまさに今のDACの優先取組課題でもあります。

DAC
全加盟国他が参加するDAC本会合の様子

★最近のDACの変貌
DACと言えば、アンタイド化、援助協調等に代表される援助効果向上を思い浮かべる方も多いと思います。2003年の援助の調和化に関するローマ・ハイレベル・フォーラム(HLF)に始まり、パリ宣言の援助効果向上5原則(2005年)、アクラ行動計画(2008年)、そして2011年には釜山で4回目のHLFが開催され、効果的な開発協力に関するグローバル・パートナーシップが立ち上げられました。釜山HLFは、援助効果向上の議論、またDAC自身にとっても転換期だったと言えると思います。DACドナーのODA・援助の投入の効率性に焦点を当て、援助の有効性をチェックする議論から、パートナー国の開発・成長にインパクトを与えうる多様なリソースや政策について、DACドナーだけでなく、新興国、市民社会組織、財団、民間セクター等の新しい開発アクターと一緒になって議論する姿勢に変化しています。援助からより広い開発協力への転換ともいえます。

例えば、グローバル化・相互依存がますます進んでいる現状では、先進国の投資・貿易政策などが途上国・新興国の開発に大きく影響することから、OECD内の他委員会においても、開発への影響を検討する必要性が増しており、投資と開発、貿易と開発、税と開発という具合に、DACと他委員会が協力する水平作業が増えています。そこでは、援助効果という援助の手続き論ではなく、より専門的な政策議論にDACが関与していくことが期待されています。

また、閉鎖的な先進国ドナークラブという古いDAC像からも脱却中で、2013年に入って、東欧諸国を中心に5か国の新規加盟が続いたことがその象徴です。新興国や南南協力提供国との関与拡大にも取り組んでおり、本年9月には中国商務部高官や世銀のチーフエコノミストを務めたジャスティン・リン北京大学教授が参加し、中国援助に関するDACセミナーが開催されました。新興国、とりわけ世界経済のエンジンの一役を担っている東南アジア地域との関係強化は、OECD諸国にとって重要なテーマです。

★OECDの新しい方向性:2014年OECD閣僚理事会の議長国日本
来年2014年は、日本のOECD加盟50周年の節目であり、5月のOECD閣僚理事会では議長国の大役を務めます。テーマは、レジリエンス(しなやかな強さ)と東南アジアとの関係強化。大震災からの復興、アベノミクスの順調な足取りを世界にアピールする絶好の機会でもあります。これからのOECD/DACの動きにご注目を!

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