第32回ワークショップ議事録:2月12日(木)「アジアのおけるPPPの現状と展望:インフラ投資を可能にする制度構築」

【第32回ワークショップ議事録】

2015年2月12日(木)、世界銀行 Public Private Partnerships Cross Cutting Solutions Area, Public-Private Infrastructure Advisory Facility (PPIAF) インフラ専門官として活躍されている常盤のぞみさんをプレゼンターに迎え、「アジアのおけるPPPの現状と展望:インフラ投資を可能にする制度構築」というテーマで、第32回ワークショップが開催されました。

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【テーマ】「アジアのおけるPPPの現状と展望:インフラ投資を可能にする制度構築」

この数年アジアにおいて、フィリピン、インドネシア、ミャンマー、ベトナムといったASEAN諸国を中心にPPP方式によるインフラ整備が注目を集めています。2010~2020年の11年間におけるアジアのインフラ整備需要として約8兆ドルが必要といわれていますが、これらの旺盛な需要を限りある公的資金のみで賄うことは難しく、この資金ギャップを埋めるため民間投資を活用するPPPが期待されています。そのため各国政府は自助努力や援助機関からの支援を元に関連法整備や案件開拓に力を入れているものの、まだ成功案件は多くないのが現状です。成功案件を得るべく、今後どのようにアジアのPPPは進められていくべきなのでしょうか。今回のプレゼンテーションでは現政権主導により積極的にPPPプログラムを実施しているフィリピンをケースとして、マニラ・ライトレール1号線PPP事業に焦点を当てて、インフラ投資を可能にする制度構築のあり方と今後の課題を紹介します。

 

【プレゼンター略歴】常盤 のぞみ(ときわ のぞみ):世界銀行 Public Private Partnerships Cross Cutting Solutions Area, Public-Private Infrastructure Advisory Facility (PPIAF) インフラ専門官

東アジア・大洋州地域におけるインフラPPP(官民連携)プロジェクト支援業務を担当。主に各国政府に対してインフラセクター向け民間投資促進を目的とした政策立案、調査業務、技術移転といった技術協力案件に従事。金融機関における企業向け融資業務、国際協力機構(JICA)海外投融資課におけるPPPインフラ事業支援業務を経て、2011年世界銀行入行。持続可能な開発局・都市経済金融部にて地方自治体向けファイナンスを担当した後、2012年より現職。イギリスマンチェスター大学にて開発金融修士取得。

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【プレゼンテーション】

1. PPPの定義とプロジェクトサイクル

PPPの定義とは、民間事業者と官公庁の間で提携する長期間の契約のこと。

民間事業者が一定のリスクおよび経営責任を負い公共資産やサービスを提供する。通常の公共事業入札との違いをみると、PPPの特徴がわかりやすい。公共事業入札は、単年契約が多く、事業内容も細かく決められているが、PPPは複数年契約、民間セクターのノウハウ技術の活用を目的とした性能発注が多く、目標だけ決めてプロセスは民間事業者に任せている。PPPは民間資金の活用ができること、入札における競争が高まる、事業の効率やサービスの向上につながることが大きなメリット。

PPP契約の種類は様々だが、①設計、②建設、③資金調達、④運転、⑤維持管理のプロジェクトのプロセスのいくつか、もしくは全てを民間事業者が分担して責任を負う形をとる。民間事業者の報酬体系は、利用者から直接徴収するuser-payと官が民間事業者に対価として料金を支払うgovernment-payの2種類がある。上記のような契約と報酬体系の組み合わせによって、民間事業者が負担するリスクの割合は異なってくる。

PPPのプロジェクトサイクルは、コンセプト策定→プロジェクト準備・審査→案件組成・入札準備(民間のかかわり方の決定、書類の準備)→民間事業者の選定から成る。

 

2. PPAIFの役割

PPAIFは世界銀行内に設置されている各国政府拠出金からなる信託基金で、途上国政府によるPPP事業を実施するための環境整備支援を行っている。私は現在、東アジア大洋州地域のポートフォリオを担当している。PPIAFは大型のPPPや民間投資の促進を目的とするインフラ案件を補完するような小さめのTAを行っているイメージ。具体的には、ポリシーやコンセプト策定、法律策定、キャパシティビルディング、プロジェクトを準備するためのfeasibility確認調査や需要調査。

世銀内でのPPPに対するサポート体制としては、まず、PPAIFはポリシー策定やキャパシティビルディングなど、PPPプロジェクトサイクルの初期段階をサポート。具体的なオペレーションについては、世銀のオペレーションチームと共に支援を実施する。案件組成や入札準備の段階ではIFC PPP Advisory Servicesがtransaction advisorとして関わってくる。案件によってはホスト国政府によりプロジェクトへの資本拠出が必要になり、世界銀行による政府向けローンや他のODA支援(JICAといった二国間援助機関)などが関わってくる。

 

3. アジアにおけるインフラ投資の現状

アジアにおけるインフラ整備に必要な投資額は年間約7500億ドル、2010年から2020年の間に約8兆ドル必要であり、この莫大な額を民間資金なしに賄うのは難しいといわれている。例えば、世銀のアジアへの融資金額は年間に100億から200億ドル程度であり、アジアの各国の国家予算も規模が小さく(例:ベトナム約420億ドル)、需要に見合わないのが現状。このため、民間資金をどうしても活用したいというモチベーションが高く、アジア各国政府はかなりPPPに積極的に働いている。

しかし、民間投資家が準拠する法制度が未整備で、民間投資家からすると、頼れる法律がないことが大きな懸念事項。そのほか、途上国はインフラの使用料金が低く設定されていることが多く、そのままの料金体系では民間事業者の収支が回らないことから、商業的妥当性がある案件が少ないことが問題点として挙げられる。また、政府のキャパシティや経験が不足していることも問題点。

 

4. マニラ・ライトレール1号線PPP事業

アジアでは、ベトナムとインドネシアがPPP関連の法制定に力をいれており、インドネシアでは新たな法律により、財務省がPPPの中心的役割を担うことが決定している。しかし、両国ではまだ新制度の下でのPPP案件はほとんど出ていない。一方、フィリピンは関連法が10年以上前に制定され、PPPセンターという大統領府の下部組織の下で、モニタリングを行っているなど、かなり取組みが進んでいる。現アキノ政権下では、9件のPPPプログラムの選定が完了。今回は、その中でも、マニラ・ライトレール1号線拡幅PPP事業を紹介する。

ライトレールは渋滞が多いマニラにおいては非常に便利な公共交通。現在3線運行されているライトレールのうち、1号線は80年代に運行が始まり、東南アジアのなかで一番古いメトロとされている。速度は決して速くはないが、公共交通の少ないマニラにおいて需要は高い。

今回のPPP事業では、民間事業者が32年間ライトレール1号線の運営、保守ならびに延伸区間の建設を実施することが求められている。本事業の契約の特徴は、Department of Transport and Communications (DOTC) とLight Rail Transit Authority (LRTA)が共同で事業権付与者となっていること。DOTCは運輸システムの計画・規制官庁で、LRTAはライトレール1号線・2号線を保有・運転を行うDOTC傘下の公社。

また事業実施にかかる契約上の責務が多岐にわたり複雑な契約となっている。同事業における政府(DOTC/LRTA)の役割は、例えば、新規車両の調達、新しい車庫の建設、他の線と共通の駅の整備、南に延伸するための用地取得、LRTAの運営・保守スタッフの民間事業者への移転といった、契約書に定められた責務の実行。また、事業期間32年間にわたって、民間事業者が契約に基づいたレベルのサービスを提供しているか管理することが求められる。一方、民間事業者の基本的な責務は、既存路線の運営維持、延伸区間の建設、運営維持。しかしながら事業権付与者の責務は、多岐に渡る上先述のようにjoint-granterにつき、DOTCおよびLRTAそれぞれの役割の分担が曖昧な状況。

PPIAFには、本事業および将来のPPP事業の長期的な運営体制を設立するための支援が求められた。これを受け、DOTC及びLRTA間で包括してプロジェクトを運営するためのProject Management Groupの設置を提案。Joint grantors間のコミュニケーションラインの役割も果たす。これまで事業運営を技術的に担ってきたLRTAは今後事業運営を担う民間事業者に対してRegulatorとしての役割を果たすことになるがそのための具体的な手引きが確立されていない。またDOTCおよびLRTA間で更にコミュニケーションを効率的に行う必要がある。そこで、Project Management GroupのトップにProject Directorという二者を束ねるポジションを設置した。またProject Management Groupを通じてConcessionaireもDOTC/LRTAに対して効率的に定期的な報告を行うことが可能となる。。

PPPの制度構築といっても、大きなものから小さなものまであり、このようなプロジェクトレベルでのサポートは非常に大切。今後PPP案件が増える中で、こうしたサポートは増えて行くのでは。また、案件と並行して、制度構築が行われていることと、案件の遂行による政府のキャパシティの向上、成功案件の増加により民間投資家の関心を惹きつけることができるのではないか。

 

【質疑応答】

Q1.LRT事業の運営が民間に移転された後LRTAの事業内容はどう変わるのか?

A1. LRTAのリストラクチャリングプラン策定も依頼されたががかなりセンシティブな問題で、本来的には政府が考えるべきもの。フィリピン政府は、新たなBus Raid Transit (BRT)事業をLRTAが行うことを考えている様子。なお、今回設置したProject Management Groupの役割は、政府の責務をDOTC/LRTAに明確に分類し分類し、32年間事業を存続させる仕組みを作ること。PPIAFでは、事業の開始に備えproject directorをサポートするスペシャリストを派遣することで、プロジェクトの遂行支援を検討している。

 

Q2.PPPの官民の責任分担は不明確だと聞くがアジアではどうか

A2.用地取得については、政府であることが多い。

 

Q3.商業リスクを民間にとらせておらず、運賃の設定は政府がやっているとのことだが、民間に求めているパフォーマンスは、メンテナンスだけか?

A3.メンテナンス、運営保守、建設の3つ。需要リスクは民間事業者が一応とることになっているが、運賃の増減は政府がコントロールするということになっている。2年間に一度、検討委員会において運賃の見直しが行われることになっているが、計画通りに見直しが行われるか民間事業者は懸念している。

 

Q4.PPP遂行の阻害要因は労働組合や政治的勢力だと思うが、本件では、給与水準などにつき元々条項があったのか?例えば、ブラジルでは、4~5年など短めの期間から始めるが、最初から長期のPPPをいきなりやるのがいいのか、短いのから始めたほうがいいのか。

A4.労働組合の反応につき懸念していたが、LRTAの職員の多くが契約社員であるため公務員水準の雇用条件を維持しなければならないというような状況ではない様子。もちろんLRTAの方では頭を悩ませながら対応に当たっている。期間については、国による。フィリピンについては運転保守のみ数年ずつ民間委託するなど少しずつ始めてきた経緯がある。ラオスでは、政府のキャパシティを考えると、長期で行くのは簡単ではないかもしれないが、現在色々な検討がなされている。

 

Q5.このプロジェクトの金額、規模は。どのようにプロジェクトの詳細を決めるのか(車両の選定など)。

A5.車両と基地で420億円くらいの調達コスト割と規模は大きい。JICAからの円借款などで賄っており、プロジェクト全体のコストは600億円くらい。

 

Q6.どういう基準でPPAIFが関わっていくのか。

A6.世銀の職員からアプローチがある(逆もある)が、PPIAFのストラテジーや目的とが合わないと断ることもある。PPIAFのミッションは、PPPを進めるための環境づくり。逆に、政府のほうからアプローチがあることもある。

 

Q7. 環境づくりをされているとのだったが、これまでのノウハウやlessonsに活かしているか、そういう動きがあるか。

A7.ある。新しい事業を作るときには、過去の事業を参照するのが原則。PPPはイギリスから始まっており、他にオーストラリアやカナダでも発展しておりそうした過去の事例をみて、途上国へのアプローチを考える。

 

終了後は、常盤さんを含めた懇親会が行われました。