2004年1月8日BBL概要

民主化支援の課題と展望
NDI中央・西アフリカプログラムの経験から−

1月8日のDC開発フォーラムBBL「民主化支援の課題と展望NDI中央・西アフリカプログラムの経験から」は、National Democratic Institute(NDI)のGregory Houel氏をキックオフスピーカーとしてお迎えして行われました。Houel氏には、中央・西アフリカ地域を中心にNDIの支援活動とその課題などについて語っていただきました。会場でのHouel氏からの意見及びキックオフの後の参加者との議論のハイライトは以下のとおりです。

1. NDIは1987年の米国連邦議会による「米国民主主義基金」(NED)の設立に始まる。アメリカではこの基金を使った民主化支援事業を専門に行うNGOの一つと位置づけられる。連邦政府から独立した団体ではあるが、米国民主党の影響は多少受けている。地域的には世界全域(アジア、旧ソ・東ヨーロッパ、中南米、アフリカ、中東・北アフリカ)で活動を行っている。主な活動分野としては、議会制度、選挙管理、政党支援、市民参加、ガバナンス、治安セクター、女性の政治参加がある。

2. 活動資金の80―85%はUSAID、民主主義基金、国務省からのグラントによってまかなわれる。そのほかの資金源としてはUNDPや他のドナー政府(DfIDなど)がある。確かに、資金面では連邦政府に大きく依存しているが、NDIが政府の外交政策の実施機関となっているわけではない。例えば、最近、ギニアやバルキナファソでは、USAIDの要請を活動方針をめぐる意見の違いを理由に断った。実際、連邦政府の要請を断るケースは少なくなく、連邦政府の言われるままに民主化支援活動を行っているわけではない。

3. USAIDからの要請とは別に、受け入れ国政府の意図もNDIの支援活動開始の決定に大きな影響を及ぼす。NDIの支援活動を「民主化」への意欲の象徴として利用しようという思惑が、受け入れの理由となっており、本質的にはNDIの支援活動を妨害するという国もある。

4. 政党支援はNDIの主な活動分野の一つである。一党制を採っている国では多党制への移行支援の一環として野党への技術協力を行う。一党による政治権力の独裁を終焉させ、開かれた政治制度を構築することが目的である。「中立」はNDIの活動の基本原則ではあるが、こうした活動は、与党側には受け入れ難いもので、しばしば活動の妨害を受ける。「与党・野党両方の支援する」という意図を実際に理解してもらうことは難しい。トゴーでは、中央政府の介入を理由に活動を断念せざる得なかった。

5. 具体的には、党マニフェストの作成、コミュニケーション能力向上、党規約設置などの技術協力を通して政党を政治組織として発展させ、政治問題、政策問題を議論できる政党を複数確立する。多党制への移行支援では、しばしば少数の見込みのある政党を見つけ、その政党を集中的に支援することもある。

6. 中立性確保の一環として独裁政権を支援するということもあるのか。独裁政権をとっている国にはどのようなアプローチを取るべきか。
→ 独裁制・一党支配そのものを支持することはないが、そのような国でも、中央政府への支援は必要であり、国内に何らかのプレゼンスを確保することが大切である。

7. NDIの支援活動の評価はどのようになされるのか。
→ NDIの民主化支援活動が「プロセス重視」であるため、結果評価は難しい問題である。プロセス重視の支援活動では、事業計画はフレキシブルに立てられ、状況に応じて、活動の途中で支援目的や対象などが修正される。実際には、民主化支援の「指標」を使って活動の評価を行う。これは、どちらかというと数量値よりも質的基準による評価方法である。民主化支援においては、なかなか原因・効果の関係がはっきりしないといのは確かである。

8. 20年前、人権を援助の一環としてドナーが支援することはなかなか考えられなかった。現在では、援助政策において人権を考慮しないこと自体が非難される。人権同様に、民主化支援という分野も次第にドナー間で注目を浴びてきているのではないだろうか。

9. 現在の日本を含む主要ドナーの民主化支援での活動を見ると、これこそ今後ますます力を入れていかなければならない分野であると思われる。現在の投入資金レベルを見てみると、民主化支援は決してドナー諸国の優先分野とは言えない。

10. 民主主義の普遍的な定義は存在するのであろうか。普遍的な定義の存在なしでは、支援活動の拡大に限界があるのではないだろうか。

11. 2年前のUNDPの人間開発報告書のメッセージは「人間開発には民主的なガバナンスが必要である。」というものであった。このメッセージは未だに賛否両論のあるものだが、アフリカ諸国の民主化の状況とドナー諸国の民主化支援のレベルを見る限り、一体我々は本当に民主化支援の「術」を身に着けたどうかは疑問である。

12. 新ODA大綱は、重点地域として従来通り「アジア」と設定し、更に「国益」を明確化(何が国益かは不明瞭だが)しているが、何と言っても日本人でアフリカに関し専門家の層が薄いことが懸念される。ODA(以外の資金の流れが極端に少ないことから)全体の10%未満のお金で何ができるのか、どうすればアフリカのより多くの人達が裨益できるのか、真剣に検討する必要がある。

以上の論点をはじめとして、日本は民主化支援の分野でどのような役割を果たしていくべきなのか、関連した政策提言や具体的なアイディアなど、短いものでも結構ですので
info@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。


(コミュニケーション&アウトリーチ担当: 早川元貴)

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