2003年12月3日セミナー概要

枋迫さんのマイクロ・ファイナンスの旅
−元・日本の銀行マンが貧困層を助ける新しいビジネスモデルを始めたわけ−

12月3日、開発フォーラム・国際金融情報センター(JCIF)共催「枋迫さんのマイクロ・ファイナンスの旅:元・日本の銀行マンが貧困層を助ける新しいビジネスモデルを始めたわけ」をテーマに約40名の出席を得て、JCIFワシントン事務所にて開催されました。

冒頭に、枋迫篤昌氏(マイクロファイナンス・インターナショナル・コーポレーション及びミクロマノス社長)よりプレゼンテーションがあり、その後の出席者間の議論で様々な意見が 出されました。

冒頭プレゼンテーション及び出席者からの意見のうち、主要なものは次の通り です(順不同)。

1.なぜマイクロファイナンスをはじめようと思ったか

1976年に東京銀行(当時)に入社後、メキシコ・エクアドル・ペルー・パナマでの駐在は通算 12年に上った。その間で、南米諸国の貧しい人々との交流を通して、先進国からの援助資金が、本当に必要な貧困層に向かっていないことを目にした。地元の人々は、ひどく少ない所得で生活を続けていた。これらの経験は、私が実際に彼らの役に立つ何かをしなくてはならないという決意を与えてくれた。

2. マイクロファイナンスとは何か

マイクロファイナンスとは、20ドルから1000ドル程度の小額ローンを主に新規にビジネスを行おうとする貧しい個人に提供する金融サービスである。途上国でビジネスを始める際には、この小額のファイナンスが非常に大きな違いとなる。マイクロファイナンスは個人を対象とするローンであるためか、よく消費者金融と混同される。しかし、実際には両者の違いは明らかでである。貧困層を対象としたマイクロファイナンスのデフォルト率は2%以下であるのに比べ、消費者ローンのデフォルト率は6〜10%程度にも上る。これはマイクロ
ファイナンスが一生懸命に働いて生活を改善しようとする意欲のある人達へのローンであるのに対し、消費者金融の場合、借り手の目的がそもそも消費であるため返済への切実な意思が薄弱となり、デフォルト率が高くなるからである。またマイクロファイナンスは顧客とFace-to-faceで向かい合い、顧客の信用度を測るのに対し、消費者金融はナンバーズゲームで、クレジットレポートや収入等の計数だけに依存して顧客の顔を見ないで与信判断を行う。このように顧客の信用度判断の手法が格段に異なる事がデフォルト率の大きな差になって現れることとなる。

3. 現在のマイクロファイナンスの弱点とは

途上国向けの資金援助フローの多くは、非効率なものが多い。特にその多くはリサーチやフィージビリテイースタデイーに使用されてしまい、実際に末端の本当に支援を必要としている層に届く資金は極めて少ない。リサーチをするだけでは途上国の生産性の向上に寄与できる訳ではなく、実際に必要な層に必要な手法で資金を届ける方策が必要とされている。現在の政府機関、NPOsを通じての途上国向け資金フローはどちらかというと、対症療法的なものが大半であり、その資金の効率性から見ても懐疑的である。途上国の貧困層に対してそれらの資金が直接向かうことはなく、もっと途上国の地域経済を活発化できるような資金フローが必要である。現在の資金フローにおいては、通常一日1ドル以下で生活をする最貧民層への援助が届けられていないが、国際機関やNPOなどからの資金援助を本当に必要としている人々はこれら最貧民層である。

4.マイクロファイナンスインターナショナルが、これらの問題や貧困問題に対して提供するもの

 ワシントンで長く議論されている開発関連の問題は2つある。一つは、移民の本国送金を如何に効率的にするか、もう一つは、途上国のマイクロファイナンスを如何に活性化して地域経済の生産性を高めるかである。マイクロファイナンス・インターナショナル・コーポレーションのビジネスモデルはこの移民の本国送金を安価なコストで取扱い、その資金の流れを同時に地域経済の活性化に結びつけるという、マイクロファイナンスの世界では初めての試みである。また、Asset Back Commercial Paper等の発行による資金調達等、これまでマイクロファイナンスの世界では導入されていない新金融手法を使って
Private Sectorからのマイクロファイナンスへの資金流入を促進する。開発問題を総合的に解決するにはパッチワークではだめで、問題の上流・中流・下流を総合的に解決するような対応が必要である。マイクロファイナンスインターナショナル(MFIC)では、小額の手数料でリアルタイムに世界中の金融サービスの届かない所にも送金を行える仕組みを提供する。一般の民間送金業者(Western Union等)では$250程度の送金に16〜20%($50)程度の手数料をとっているが、MFICでは金額に拘らず、一律8ドルに抑えている。米国からの本国送金は年間1500億ドルの規模に達しており、米国から南米各国向けは年間300億ドルの規模となっている。南米各国にとってはこの本国送
金の重要性は非常に高くなっており、国によっては米国からの送金がGDPの第二番目に大きな項目となっている。 多くの貧困層は金融サービスへのアクセスを望んでいることに着目し、MFICは新しい方法を取り入れる。そのひとつが上記のフラット手数料制であり、これによってこれまで送金業者に渡っていた巨額の手数料部分が途上国への増加流入資金となる。仮にMFICが現在の民間送金業者が取り扱う南米向け送金年間100億ドルの20%の市場シェアを取ったと仮定すると、手数料の差額だけで年間840百万ドル南米への資金流入が増える。また、インタビュー調査の結果では、米国内で働く移民の多くが送金に関連するマイクロファイナンスを望んでいるため、クレジットカードやプリペイドカード等の付帯サービスも提供していくなど、他の送金業者のできないサービスを提供して集客力を高めていく他にもMFIC経由で送金を行う事により、送金の受取人は、定期的な送金の記録をもとに信用記録が確立されることで地元の金融機関からの口座開設や融資のオファーも受けられるようになるなどのメリットが得られる仕組みとなっている。勿論、この種の金融サービスを行うに際しては、米国の諸規制の遵守が必須であるが、MFICのモデルはすでにこの諸規制遵守のシステムを組み込んでいる。 また、
サービスとコントロールを徹底するために、従来の送金業者のようにリカーショップやロッタリー売り場に同居するのではなく、独自のショップを展開し、他業者との明らかな差別化を行うと共に、Latinosにとって信頼のおける、かつ使いやすい施設を提供する予定である。
 
このMFICの送金システムでは取扱い資金の約20%程度がコンスタントにシステム内に滞留すると想定しており、この無原価資金を使って、従来どこからも貸出資金の資金調達ができない中小のマイクロファイナンス金融機関(MFIs)に対して優先的に資金提供を行っていく。これは、現在の開発援助資金の流れや、民間投資ファンド等の投資が上層部の優秀なMFIに対してのみ行われており、本当のマイクロファイナンスの需要が存在する中小のMFIsには、そのマイクロファイナンス・プログラムをサポートする資金提供がなされていないので、MFICがこれらの層に資金提供を行って、中小のMFIsの競争力を高め、マイクロファイナンスを一層活性化させるためである。このMFICのモデルは従来のマイクロファイナンスの世界には存在しなかったアプローチなので、詳細のオペレーションフローやその他の最新の資金調達など、一般には理解しにくい部分もあるが、MFICが与える社会的、経済的なインパクトは極めて大きいのでご支援をお願いします。

杉原さんからのコメント: かつてジンバブエの日本大使館にて、プロジェクトオフィサーとしてジンバブエのマイクロファイナンス金融機関(MFIs)への資金提供などに関わる仕事をしていた。その経験に基づいて言うと、成功しているMFIsはその国における経済主体・組織・経済セクターとの協力の上で銀行サービスを提供している。つまり我々のような外国人にとって「ローカルの知識」の欠如が不利となる条件となる。というのも、マイクロファイナンスにおいては、ビジネス環境・借り手の信用度・銀行部門の規制・マーケットの条件といったインフォーマルな情報が不可欠だからである。ローカルのビジネス環境はとても変動しやすく、借り手の信用度は周辺のうわさによって査定されうる。担保なしにローンを提供するマイクロファイナンスにおいては、どのような「グループプレッシャー」が機能するか、どのようなインフォーマルなサンクションを与えるか、またデータがないない場合にどのように借り手のパフォーマンスを測るかを理解する必要がある。多くの場合、MFIsの外国人はそれらを理解する上で難題に直面する。それゆえ、他の経済主体と協力することが不可欠であり、それによって失敗を防ぐためのローカルな知識を得ることができる。つまり、成功するMFIsは様々なローカルな経済主体との協力が必要であることを強調いたします。

質問:
・ビジネスモデルを説明してください。

 開発途上国における送金支払いAgentの決済口座を自己のシステム内で保有します。従来の銀行間決済システムとは根本的に異なる方式なので、送金の到着、支払いが瞬時に行えます。米国で送金したその30秒後には受取人が資金を引き出せることになります。途上国の小口金融業者がインターネットでMFICのシステムにアクセスして送金の存在を確認し、送金の受け取り人に支払うに際してMFICの資金プールから当該金融業者の決済口座に資金を移動するので、即時の引き出しが可能となります。

・アメリカにいる送金する側にとってのベネフィットは何ですか。

 手数料が他の業者に比べて安価であることと、銀行手数料が高い、またはソーシャルセキュリティーナンバーなどの制約条件のために、銀行口座を持てずにいる人々に必要な各種のファイナンシャルサービス(Credit Card, Prepaid Card等)を提供します。

・オペレーショナルになるのはいつを予定していますか。

 送金のパイロットプロジェクトは来年の4月を予定しておりますが、貸出業務を開始するには、別途貸し出し用資金を助成金とかGrant等で調達しない限り、送金のシステム内に滞留資金を貸出資金として使えるようになるのには2年ほど必要だと思います。

・これは南米だけでなく世界中に展開できるサービスですか。

とりあえずは南米から始めますが、資金調達がスムーズに行けばすぐにでも世界中に提供できます。 送金のネットワークに加入するのに、加入する金融業者が必要になるのは一台のPC とインターネットに接続できる環境だけですので、従来の送金業者のネットワークに加わる時のような加入者側の 負担は全くありません。

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

(ワシントンDC開発フォーラム・
金融資本市場整備ネットワーク 板垣彰子)

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