2003年8月12日BBL概要

開発研究の課題を考える
−JBIC開発金融研究所の活動を通して−


8月12日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「開発研究の課題を考える−JBIC開発金融研究所の活動を通して−」をテーマに約20名の出席を得て、JBIC米国事務所にて開催されました。


冒頭に飯島聰氏国際協力銀行開発金融研究所(JBICI)次長/前同行パリ首席駐在員)より、開発金融研究所の活動内容(GDN-Japanを含む)についての説明があった後、JBICパリ首席駐在員としてDACなど国際会議に関わっていた経験を踏まえて、特に日本からの情報発信を強化することで国際会議でのルール作りや議論により主導権を発揮することの必要性について発表がありました。また、本年9月にケニア、タンザニアでJBICが開催予定のアフリカ開発セミナーについて、ペーパー(「貧困削減における雇用創出と経済成長の重要性―アジアの経験から学ぶアフリカへの示唆―」を配布の上、紹介がありました。

【冒頭プレゼンテーション(飯島聰氏)】

1.JBICIの組織・活動内容
(1)旧輸銀と旧基金の系譜を引く。
(2)組織:総務課、開発政策支援班、開発研究グループ、国際交流班、海外投資研究班、国際金融グループ
(3)機能:開発援助、国際金融、海外直接投資に関する調査、研究を実施。業務部門での事業実施、融資判断の関連情報、また開発途上国への政策提言としての活用。調査研究内容の情報発信、他の研究機関等との研究交流活動。

2.JBICI の目指すもの(開発関連)
(1)本来業務たるJBICの資金協力を踏まえつつ、知的側面での貢献を図る
(2)JBICとしての「現場経験」に基づく援助の理論的整理と提言
(3)援助と投資・貿易等他関連分野の関連性を総合的に把握すること
(4)アジアの開発経験の検証(日本の援助、貿易・投資が果たしてきた役割と課題
(5)アジアの開発経験の他地域(アフリカ等)への適用可能性を探ること
(6)広域開発の視点から調査
(7)他援助国・機関の援助政策・動向調査
(8)日本内外の研究関連機関との交流、情報共有・共同研究促進、等

3.最近の活動実績・計画具体例
(1)GDN:当研究所は2001年度よりGDNの日本ハブとしての役割を果たし始めた。開発関連の研究者間情報交換、知識共有化、共同研究活動などの橋渡しを世界と日本の間で行う。本年年次会合は1月にカイロで開催。次回は来年1月にニューデリーで開催予定。JBICは年次会合において分科会開催等で貢献。本年3月には東京で日本ハブの会合も開いた。

(2)SADEP調査(開発政策・事業支援調査):開発政策・事業に係る体系的調査、政策提言を行い、開発政策・事業の効率的形成と実施を図る。96年度より開始。(開発政策支援班が所掌) これまでにインドにおける政策金融の役割、途上国実施機関の組織能力改善、ベトナム都市交通改善策、開発途上国と公共支出管理、紛争と開発とJBICの役割、アジアの高等教育市場の発展と国際化等の調査を実施。2003年度は中南米上下水道分野における民活導入、東アジアのインフラ等の調査を計画。

(3)開発研究:開発援助理論、開発援助機関の動向に係る調査研究などを行う。2001年度より開発研究グループ発足により開始。インフラ整備による貧困緩和効果、アジアにおけるPro-poor Growthとアフリカへの応用、英国援助動向調査などを実施中。2003年度は21世紀の開発援助戦略研究アドバイザリー委員会、貧困分析モデルのインドへの適用調査、フランス・北欧援助動向調査などを計画。またアフリカ開発セミナーのセネガル(6月)ケニア・タンザニア(9月)における開催もJBICの関係部署と連携しつつ実施。

(4)セミナー開催:途上国開発実務関係者を招聘し研修を実施(交流班が担当)。JICA連携セミナーの枠で公的資金協力セミナー、分野別セミナー(プロジェクト評価、公害対策、債務管理、灌漑水管理等)を開催。この他JBIC主催で国際金融セミナー、国際シンポジウムなどを行っている。今年度は初めて在京途上国大使館向けセミナーも行った(7月)。

(5)調査研究関連レポート出版:調査研究成果の情報発信のため、開発金融研究所報(四半期ベース)、各種リサーチペーパー(アドホック)などを出版。また国際協力便覧(年1回)を出版。研究所情報の外部への提供は外部公開HPで行っている他、メール配信サービスの活用も検討中。

【席上の意見交換】

(1)世銀の開発経済・データ部(DEC)に所属しているが、研究成果と実務をお互いどのように生かせば良いのか日々議論がある。両者間に距離があるのが現実だが、縮めるために研究テーマ選択はどうすれば良いのか、また研究内容を実務に反映するにはどうすればよいのか。

→ JBICIとしても考えているところ。調査研究テーマは、現業部門のニーズを出来るだけ吸収し決定するよう図っている。一方で国際的な開発に係る議論の潮流などを見据えつつ、研究所独自で設定すべきテーマもあり、両者をうまくバランスさせていく必要がある。

(2)GDN‐Japanでおこなっている人材の派遣は、国際機関でも適当な人材を探すのは難しい。GDN-Japanではどのようにしているのか。

→人材の派遣については今後の課題でもある。GDN−Japanもいろいろなテーマに基づき適切な人材を確保するためには、さらにネットワークを広げるとともに、実質的に活動してくれる人を確保していかねばならない。最近DCフォーラムでもプレゼンがあった文部科学省のサポートセンターなどの活用も一案と考えている。

(3)IMFでも大学でも、毎日のようにセミナーが開催され、知的貢献が重視されている。JBICでも日本の研究機関を集めて議論する場を多く設けてはどうか。

→ JBICにおいても知的貢献については、業務の中で高いプライオリティーが置かれるようになっている。前述のアフリカ開発セミナーを含め、外部関係者との意見交換の場も増やしている。今後どのような議論の場をさらに作っていくかについては検討していきたい。

(4)また、米国で博士号を取得しても、日本に帰るとなかなか就職先がない。もっと留学した人間を活かすようJBICも採用の面で工夫をしてもらうことができないのか。国際機関や欧米の機関はこの点よく整備されている。

→ 就職の件については、JBICでは留学経験のある人たちも積極的に雇っているが、JBIC職員数削減の状況下、就職の機会の提供自体非常に限られている。他方、プロパーのスタッフのみではマンパワー、ノウハウの観点からも人材が不十分で、例えば、JBICIなどでは博士号を取得している人も含め専門調査員的な形で契約ベースでも雇っている。

(5)そのような情報は外からは見えないので、Association of Academicのような場で情報を流すなど、もっと制度化できないか。

→ 制度化を進め、適切な人材をタイミングよくことは、JBIC自身にとってもメリットがある。ただ制度化は今後の検討事項。採用人数の多いJICAの方が進んでいるのでは。

→ JICAでは関連の就職を希望する人のためのウェブページがある。JICAの場合は20ものオプションがあるが、採用人数が少ない場合はコストパフォーマンスの観点から制約があることも理解できる。

(6)JBICIの外部との連携として、JBIC内の現業部門との連携、日本国内の他機関との連携、海外の機関との連携、の3段階が考えられるが、どの段階を想定しているか。

→ 3段階ともに重要であり、連携強化のために力を入れていかなければならない。JBICの場合の海外機関との連携がに比べてむしろ進んでいる面がある。例えば世銀やADBとは一般の業務に加えて、調査部門でも連携が進みつつある。他方、先進国や途上国の研究機関との連携は近年力入れ始めたところ。日本国内の他機関との連携は、JICA,ジェトロ・アジ研や一部の大学との関係が昔からあるが、連携の幅を広げていくためには、もっとネットワークを充実させていかねばならない。

(7)GDNに関する質問だが、ネットワークには、情報交換というプラスの面と、日本がネットワークをリードする考えに引きずられるリスクというマイナス面がある。後者についてどのように考えるか。

→ 確かにそのようなリスクがあるが、むしろこちらからの情報発信に努力して、議論をリードしていけるよう努めたい。

(8)ワークショップの開催等を通じて、他国の研究者とサブスタンスの議論の場をより多く設定してはいかがか。JBICの人間にも、もっと外国の機関、関係者と活発な議論を展開して欲しい。

→ そのように努めてまいりたい。GDN自体が、ワークショップや国際共同研究を通じて、議論の場を数多く提供しており、その活用を図ることも一つ。

(9)開発金融研究所という名称から大所帯との印象を受ける。JBICの融資業務に関連する分野では高い研究水準を保ってほしいと願うが、その他の分野については、むしろ日本の他の研究機関とネットワークを強めることが望ましいのではないか。また、現在、民間資金の動きが開発に与える影響から目を離せない。マクロ資金移動・金融問題についても取り組んでゆく必要があろう。

→よく留意してJBICIの活動を考えていきたい。少なくともJBICが輸銀と基金が統合して出来た組織であることから、開発と貿易・投資の両者の関連性において、強みを発揮できるところが多々あるのではないかと感じている。またアジアを中心に援助のフィールドを持っており、現場の感覚を活かして調査を出来るところがあると思う。

(10)GDN-Japanのハブ機関として何を目指し、世界にどのような潮流を巻き起こそうとしているのか。

→まさにこれからよく考えていかねばならない課題。GDN-Japanに求められているのは、日本の開発分野の知見を日本全体でたばねて外に向かって情報発信していくことと、途上国研究機関等に対する知的貢献である。GDN年次会合での研究成果の発表、ワークショップや国際共同研究への人材派遣などを通じて貢献を行いつつある。

【当日配布資料】
1.研究所パンフレット
2.刊行物リスト
3.アフリカ開発セミナーのコンセプトペーパー
4.GDN-Japanのパンフレット

【リンク】
GDN−Japan
JBICホームページのGDN−Japanに関するページ

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

(記録:飯島)

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