2003年8月7日BBL概要

イラク復興支援における日本の役割を考える

本8月7日、「イラク復興支援における日本の役割を考える」をテーマとして、JICA米国事務所においてDC開発フォーラムBBLが開催され、30数名が出席しました。同BBLでは、冒頭、JICA米国事務所次長の戸田隆夫氏が、1ヶ月間に亘るイラクへの出張の経験等を踏まえてキックオフを行い、これに基づいて闊達な議論が行われました。キックオフ及び議論の内容については近日中にウェブサイトにて公開されますが、その主なポイントは次のとおりです。

1 キックオフのポイント

(1)対イラク戦争から復興支援の取り組みに至るプロセスにおいては、少なくとも次のような点で誤算が米国にあった。
1)戦争終結のタイミング(低強度紛争が予想以上に継続。)
2)イラク人自身による国造り(予想以上に遅れ、かつ自発的な動きが少ない。)
3)コストパフォーマンス(「空白」を埋めるために多大な労力・コスト(軍駐留経費のみで一週間で10億ドル)を要し、かつそれにも関わらず米国/CPAのパフォーマンスに対して厳しい評価がなされている。)これらの誤算が、復興支援への取り組みを困難なものにしている。

(2)「対イラク復興支援」と言っても、その意味、使い方には、次のような
点で注意を要する。
1)未だ戦争は継続中。単に主要な攻撃終了後の、いわゆる「戦後」復興のみならず、未だ継続している戦争を終結させるための支援と併存しなければならない状況である。
2)単に、今般の戦争前に戻すことでは問題は解決しない。(特に、12年の経済制裁、40年に亘る独裁と計画経済、あるいはそれ以上に亘る暴力と圧政の歴史に鑑みると、「どの時点の状態まで復興するか」という議論は疑問。)
3)戦争と平和という文脈における支援のみならず、長い計画経済から市場経済への移行を支援するという側面もある。これらを踏まえつつ、対イラク復興支援とは、「平和で豊かな国家建設への歩みを自立的に進める、という軌道にイラクを乗せる」ということを目指すものである、ということができる。

(3)イラクの復興支援には、1)「旧」イラク政府、2)CPA (CoalitionProvisional Authority)、3)国連その他援助機関の三者が入り乱れている。特に、本来、復興開発の要となるべき、当該国政府が未だ存在せず、かつ、CPAの体制が不十分な状態において、円滑な復興支援活動が困難な状況にある。例えば保健セクターにおいては、すべての案件はCPAの承認を要する、という主張が、CPAによりなされている。

(4)日本の取り組みについては、次の6点を提言したい。
1)イラクの視点から考え、行動する(外交的アプローチとのカウンターバランスとして必要。また、安全確保の観点からも現地の視点が有効)。
2)日本人のメッセージが直接届く協力を行う。
3)アメリカではできない協力の可能性も追求する。
4)調査や視察を繰り返すのではなく、協力を実施する。
5)政策的な枠組みに則し、現場で決断し、実施する。
6)将来を見通しつつ対話し、長期に亘ってコミットする。

2 キックオフ後の議論のポイント

(1)イラクのみならず、米国内、あるいは日本国内においても、状況が混沌として見えない中で、種々の対応、意思決定を迫られている、という現実がある。その点で、ある程度、調査、視察が重なることはやむを得ない。他方、そのような混沌とした状況において決然と物事を決めていくこと、それに際してのリスクを甘受していくことも必要。

(2)援助の実施の過程で、「イラクの視点」が必要であるというのは理解するが、その前段においては、やはり、外交の視点から援助のオプション及びその是非を同定していく必要がある。(これに対し、途上国の視点と日本外交の視点をそれぞれ併せ持ち、双方から有意義であると認め得るところに、貴重なリソースを重点的に注いでいくべきである、との議論もあり。)

(3)今、日本が進めようとしている協力のひとつに、医療分野において、日本とエジプトが合同してイラクを支援する、というものがあるが、果たして、エジプト人がイラクにおいて歓迎される存在であるのか疑問なしとしない。(これに対し、そもそも、そのような感情が両国間に存在しているという現実が問題であり、そのために、何かを試みるという方向性は評価できる、要は、その趣旨を活かすための方法論の問題であると考える、という意見もあり。)

(4)「下手なサッカー」のように注目を浴びている国に対して重点的に支援を行っていく、ということで良いのではないか。(これに対し、自立に向けての開発のニーズ、援助の吸収力(紛争直後は僅少)、そして、不幸な事態を予防することを目指す援助の効率性(紛争勃発後の支援より効率的?)などの観点から、ポストコンフリクト国に対する中長期的なコミットメントと短期的なそれとのバランスをとっていくべきである、という意見もあり。)

(5)いわゆるポストコンフリクト国における人道・復興支援に関しては、各機関において、そのような支援に長けた経験豊かな人材が育ちつつあるが、日本においても意識的にそのような人材を育成すべきである。(これに対し、人道・復興支援の現場経験なり、実務に長けた人材育成も重要であるが、これに加えて、それぞれの地域・国を、より良く、深く知る人材が不可欠である、これら二つの人材と知見のマッチングによって、より良き対応が可能となる、という意見もあり。)


今回のBBLの意見交換では、上述のように、イラクに関するものから、ポストコンフリクト国に対する支援のあり方の一般論に関するものまで、時間の制約による限界はあるものの、多様な意見が出されました。しかしながら、これに留まることなく、短いものでも結構ですから、更に議論をメーリングリスト上で継続すべく、是非建設的なご意見を中心にinfo@developmentforum.orgまで投稿いただければ幸いです。

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