2003年5月14日BBL概要


アジアにおける金融セクターの課題とIMF、日本等の役割



5月14日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「アジアにおける金融セクターの課題とIMF、日本等の役割」が約20名の出席を得て行われました。

冒頭に玉川雅之氏(IMF通貨金融システム局)より、(1)金融セクター(通 貨金融システム)の特徴と役割、(2)アジアにおける金融セクターの課題、 (3)金融セクター問題の浮上、(4)グローバルスタンダードの形成、 (5)国際開発金融機関の金融セクター問題への関わり、(6)金融セクター に関するIMFの役割変化、(7)日本の役割について、次のアウトラインに 沿ってプレゼンテーションがありました。(司会者からは、プレゼン前に「こ の内容は大学での1年分の講義のテーマだと思うが40分で説明を。」との発言 があり、無事40分で説明を終えました。) http://www.developmentforum.org/records/material/imf_%20asia.doc


これを受けて、出席者間で1時間20分ノンストップの意見交換が行われまし た。主な意見は次の通りです(順不同)。

(1)私は生命保険会社で投資を担当していた。アジアへの投融資とヘッジ ファンドの関連で、日本の民間はアジアに直接投資を出していないとの話が あったが、正に自分の会社はアジア・マーケットにほとんど投資をしていな かった(外貨建て分の1%程度で、香港、シンガポール、タイなど対象国も限 定的)。これは、信用リスクに加えて、資金の回送規正、為替問題が大きいと いう認識があったからだと思う。投融資に関連して、為替あるいは資金流動性 を確保することにより、民間資金をひきつけるというプロジェクトはないの か。そもそも、民間資金の導入に為替問題が障害になっていること自体、十分に認識されているのか。

(2)IMFでは、金融サービス規制緩和、外為規制緩和について、技術協力を 行っている。他方、IMFが先頭に立って金融資本市場の自由化を求めるという 風潮はほとんどなくなっている。この問題については、日本では外為審議会が 議論していると思う。

(3)金融システムの強化・改善が成長や貧困削減に資するとの点について、 成長に及ぼす良い影響はイメージできるが、直接的に、最貧困層に良い影響が あるかという点についてはイメージしにくい。農村地域で商業銀行アクセス改 善という場合に、ギャップを広げるような紀がした。具体的な例は何か。

(4)(上記(3)に対して)タイで、秋の収穫が来る前に、家族が急に病気 になった。30ドルを3ヶ月借りられれば5%の金利払ってもかまわなかったが、 商業銀行からは金を借りられず、結果として娘を都会に売らざるを得なくなっ たというような例が考えられる。貧困層の中でも、自活能力がない人はだめか もしれないが、まだ稼げる人は救える。本件は、貧困層の定義によると思 う。)

(4)(更に別の人から)ご指摘の点は、不平等をどう考えるかという問題で はないかと思う。クズネッツカーブに見られるように、一時的に不平等の度合 いが高まっても、最終的には減っていくので、大きな流れを見れば成長は不平 等の縮小に資すると言えるのではないか。例えば、タイも86-87年を頂点とし て不平等の程度が減少してきた。どの国もそのような経路をたどっていると思 う。

(5)(更に別の人から)ほんの少し金融的な手法を応用すれば、大きな開発 効果が期待できる事例もある。世銀で20数年前にブラジル北東部の電気普及プ ロジェクトを担当した。正規に電気が引かれている家も引かれていない家も あったので、その理由を調べたところ、配電接続のための頭金50ドルが必要な 制度となっており、これを払う余裕がないので隣家から内々電気を引いて高い 料金を払っていた。そこで、電力会社がこの頭金を3年間の延払いにしたとこ ろ、ものすごい勢いで普及が進んだ。

(6)日本の役割について、世銀に勤務していると、国際機関スタッフへの参 加を推進する必要性を切実に感じている。日本人をコンサルタントやスタッフ で採用しようとしても、そのような人が容易に見つからないのが現状である。 例えば、JICAが専門家をリクルートする際、多くの場合は関係省庁(例えば金 融セクターの場合は財務省)に頼ってきたが、このまま続けていて良いのか疑 問に思っている。金融セクターの専門家について、山一證券が倒産して退職し た人を派遣したことはあるが、これは特殊な事例であり、恒常的に人材を供給 できるプールをきちんと作ることが必要だと思う。

(7)(上記(6)に対し)どこかの部局で作戦を持って継続的に取り組まな ければいけない。金融については、金融がある程度わかる一方で英語も出来る 人をベースにしなければいけないので、国際協力銀行(JBIC)や政策投資銀行 (DBJ)のネットワークを使い、それがJICAと協力すればよいのではないか。ま た、もう少し各人が身につけるべき専門性のメニューを考える必要がある。途 上国の金融庁長官レベルの知識から、ごく初歩的な知識まで、様々なレベルの ニーズが存在する。IMFには、そのようなメニューがある。日本でも、各人が 現在どの分野の専門家なのか、そして10年後にはどの分野であれば専門家とし て活躍できるニーズがあるのか、ということをきちんと教えておけば、キャリ ア形成の過程で分野に応じて細分化されていく。そのような発想が日本にな い。例えば、リスク管理について、融資のやり方を教えるという専門分野があ るが、この分野の日本人の専門家が、中央銀行に雇われて融資セミナーの講師をしたり、検査のアドバイザーとして「この銀行の融資はなっていない」と指 摘したり、随分活躍している事例を知っている。

(8)日本では、過去4−5年間に、コミュニティ・カレンシーが生まれている (クーポンにパンチしたり、帳簿に記載する等)。米国内でもコーネルで見ら れる。今のIMFや世銀で研究しているグループがあるか。

(9)(上記(8)に対して)本問題については、タウンゼント教授が第一人 者である。インド、ウガンダ、タイ等について本分野の研究が進められてい る。日本でも、祖父母の世代では、クーポンにかかなくとも頭の中に貸借関係 がはいっており、どこにも記録されていなくとも貸借が機能している(友人が 病気になると物を贈り、次に自分が病気になると物を贈られる等)。これは、 もっとも素朴な形の金融・融通システムである。このようなインフォーマルな システムは、タイ、ウガンダ等でもかなり良く機能しており、学会でも取り上 げられている。日本やアメリカのコミュニティ・カレンシーは、このような以 前からのシステムを少しフォーマルにしたものだと思っている。

(10)アジア危機後のスタンダードやコード策定の取り組みや技術協力が、 実際の政策改善にどのようなインパクトを与えたかを評価・検証することが必 要と考える。世銀・IMFの金融セクターに詳しい人達は、問題を自ら作り出 し、その解決に取り組むというマッチポンプをして、飯の種を作っているので はないかとの印象を受けている。

(11)(上記(10)に対して)規制ばかり強くし開発につながらないとい うことは起こっていないと思う。スタンダードやコードのメッセージを注意深 く使って各国の文脈にいかに当てはめるかが大事であり、実際には5−6項目く らいしか意味がない。例えば、国によっては、銀行監督を強化するといって も、そもそも検査をしていない、法律がないという段階の国があり、そのレベ ルに応じて対応している。現状は、スタンダードやコードを機械的に実施して いるということになっておらず、またそうなるべきでもない。

(12)IMFにおいて金融セクターの取り組みが強化された一方で、IMFは世銀 の扱っている分野を侵食するのではないという話があった。しかし、世銀から 見ていると、世銀の金融セクターはだんだん弱体化しているように思える。世 銀の金融セクター担当者がどのような悩みを持っているか、率直な意見を伺い たい。

(13)(上記(12)に対して)世銀では80年代にコンディショナリティ等 で金融セクターが脚光を浴びた時期もあったが、ウォルフェンソン総裁の就任 後、先細りになった。カントリーディレクターには効果が直接目に見える (visible)案件を行うよう指示が行き、金融よりも教育や保健をやりたいとい う人の方が多くなった。1999年から2000年頃は、世銀の金融セクターの人は皆 不満を述べていた。しかし、IMFも世銀と一緒にマネーロンだリング、FSAPに 取り組もうという状況になり、世銀内でも徐々に関心が上がりつつある。ま た、世銀はIMFと比較して、債券市場や、小国の株式市場、保険などで強い。

(14)(更に別の人から)自分は世銀で金融セクターを担当している。最近 元気があるかという点については、世銀はウォルフェンソン総裁の就任後に急 速に貧困削減に走ったが、1997−98年には金融危機が起こり、すわ大事という ことでそれなりの活動をした。また、IMFがその後世銀と一緒にやろうという ことでFSAPに共同で取り組んでいる。従って、元気はある。ただし、金融と貧 困削減の関連という点については、金融は経済を支える重要な部分として大事 ではあるものの、具体的にどの部局がカバーするか、切り口がたくさんある。 例えば、銀行業務を対象とする分野と、貧困のため銀行にアクセスできない層 に対する分野があり、後者は金融担当部局のみならず各セクター担当部局も見 ている場合が多い。金融担当部局としては、金融独自の見方、すなわち規制を どうするか、監督機関をまとめていくのかばらばらでいいのか、相互連絡をど うするのか、といった観点で知見を提供している。なお、最近は世銀もインフ ラへシフトし始めており、インフラへのファイナンス機能が脚光を浴び始めて いる。

(15)金融機関の資産・負債の回転期間は非常に短く、金融機関が悪くなる ときは、数ヶ月、場合によっては1ヶ月で悪くなる。これに対して、IMF4条 協議は年1回。FSAPは3年に1回しか行わない。これにどう対応するかが課題 である。幸いにして、金融危機が97―8年に発生した後に、コンテンジエン シーファンドが創設されたが、これも、調査団派遣までに1か月、動かし始め るまでに半年程度が必要である。定期的なモニタリングをもっとやるべきであ る。この点につき、IMFはどのように考えているのか。

(16)(上記(15)に対して)IMFにはモニタリングの部局が設置され た。FSAPは数年に1回しか行われないが、年1回の4条協議で状況を把握し、 何かが起きそうであれば、この4条協議の担当部局から行動を取れるように なっている。世銀は調査団派遣までに1か月を要する由だが、IMFは翌日に専 門家を派遣できる体制になっており、このための部局もある。IMFは専門家派 遣がフレンドシップ組織型で一切入札を行っていないため、このような柔軟な 対応が可能となる。これは、IMFと世銀の大きな違いである。

(17)直接金融と間接金融について、国の発展の度合いよって違うとは思う 画、IMFとしてはどちらを促進しているのか。私見では、経済安定化に主眼を 置くということであれば、間接金融が優位だと思う。

(18)(上記(17)に対し)直接金融と間接金融の比較については定説が なく、IMFでも担当者の個性により決まる面も大きい。なお、FSAPが導入され たことにより、IMFは世銀と一緒にやることになり、証券・保険も対象となら ざるを得なくなった。IMFは開発本体までは出来ないが、証券・保険の整合性 を保つという流れがある。以前、アジアでは資本市場育成が熱心に推進された が、当時は債券と株の区別がされていなかったことが問題だと思う。最近、ア ジアでは債券市場整備に関心が高まっているが、プライベート・エクイティも 出てきたので、公開株だけ見ていてもだめである。他方、アフリカにはそもそ も銀行セクターがないところもあり、そこに資本市場を開設しても意味はな い。100か国のうち60か国程度については銀行セクターから強化するのが良い と思うが、資本市場をやりたい国に対しては、IMFとしてサポートできる体制 になっている。

(19)世銀等は、構造調整融資が必要になるまで(危機が発生するまで)対 応をしないで待っている。さもなければコンディショナリティをつけられず、 包括的な改革もできないという哲学のもとに動いているのではないか。世銀等 から見れば、このような発想は実際的である。技術協力融資は、魅力的なもの とならない。従って、何か問題起きているということがわかっても、技術協力 融資は供与されない。他方で、IMFは長期コンサルタント派遣のための基金が ないが、半年から1年間程度一緒に働ける人がいれば望ましい。以上、IMFは金がなく、世銀・IDB・ADBは危機がないと関与できないいうジレンマがあるよう に思う。

(20)(上記(19)に対し)FSAPで問題があることが判明すると、世銀は 融資と関連しない技術協力は行えないので、融資を動かすために半年待ってく ださいということになる。しかし、IDBは技術協力融資の必要がなく、技術協 力を単体で供与できる。世銀も、技術協力を恒常的関与のコストと認識するか は別として、資金を配分してほしい。IMFの派遣できる長期専門家は年間50人 が限界であり、しかも日本の拠出が大きいためアジアに集中配分している。他 のドナーや日本が長期専門家出せば喜ばれると思う。

(21)最近の援助は、開発効果という観点から目に見える実績が必要となっ ているが、金融セクターではこれは難しい。そもそも、危機が起こらないのが 成果である。ドナーの側でも、世銀やIMFが水面下で動いて実績を上げている という認識を高めるべきである。

(22)(上記(21)に対して)アジア危機のおかげで金融セクターがグ ローバルイシューに格上げされた。今や次の危機発生を待たなくとも、金融セ クターの重要性は理解されているように思う。うまく説得すれば、財源を調達 できる程度の痛い経験は既にある。あとはどのように各機関自身が金融セク ターの重要性について再認識するかにかかっている。

(23)金融セクターについて、客観的な成果を示すための研究に取り組んで いる。例えば、金融自由化が役立ったのか、規制の強化がどのような影響を及 ぼしたのかについての客観的な研究が出来つつある。ただし、経済成長への影 響を示すためには、少なくとも10年分のデータ蓄積に基づく必要がある。

(24)アフリカについては、世銀は調整融資を通じて恒常的に関与している ので、コンディショナリティを使って管理できる。しかし、ラ米やアジアで世 銀が恒常的に関わっていない国について、危機が発生してから入ってあわてる 場合がある。これに対処するため、世銀上層部は、普段関与がない国について も一定程度の恒常的な関与をしていこうということで、経済セクターワークや FSAPミッション等の技術協力をやろうという動きが見られる。

(25)世銀グループのうち、民間金融支援はIFCに任されている。IFCの業務 のうち、リースや銀行など、半分は資本市場分野のものだと思う。世銀本体か ら見ると、意外とIFCの影が薄いが、世銀と競合している部分もある。

(26)(上記(25)に対し)IFCは面白い動きをしていると思う。政策ア ドバイス機能はウォルフェンソン総裁のもとで世銀に移したため、恒常的アド バイス機能は世銀本体、民間資金はIFCという分担になっている。

(27)日本の役割として、マイクロレンディングが考えられないか。サラ金 各社が蓄積している経験はすさまじいものがある。サラ金のトップ数社をとれ ば、ものすごい技術でノウハウもあり、成功している。非合法的なものでもな い。

(28)(上記(27)に対し)日本のサラ金は、回収が一日でも遅れたら、 訪ねて取り立てている。厳格な融資・回収を行うという基本を守ることに重要 性がある。

(29)世界中で情報がとびかう時に、例えば人口150万人程度の小国が自 国通貨を維持することに意義があるのか。害があって益がないのではないの か。

(30)(上記(29)に対して)大洋州には4つの中央銀行がある。しかし ドル、ユーロ、円どうするかという問題がある。また、中央銀行がある限り自 国通貨を持ちたいという意向もある。

(31)(更に別の人から)ドル化について、東チモールは米ドル、コソボは ユーロを導入した。これは安定効果が大きく、スタートするときに独自通貨に よりハイパーインフレになるという事態を回避できる。他方、コストについて は、米欧との経済構造に差があるかによる。ドルやユーロとリンクすると、対 外競争力がなくなり輸出力がなくなる、実物経済に格差がありすぎると、発展 し始めたときに障害があるので、独自通貨をやったほうがよいのではないか。 まずは安定を達成しないことには発展しないが、その後、発展する際には柔軟 な自国通貨の方が良い。そして、最後にEUのように通貨統合するかという問題 は、また別の問題である。なお、アジアでコモンバスケットが適当かについて も、アジアの通貨が対ドル、対円などで動いてよいのか、逆に柔軟性を失ってよいのかという同様の問題がある。

(32)技術協力のの効果について懐疑的な意見があったが、IMF財政局など は、実際にオペレーションやらないが、常時途上国の担当者の側にいてアドバ イスをする場合が多い。

(33)(上記(32)に対して)昔のように中銀総裁を送るという形態は困 難になっている。実際には、短期ミッションを10日程度派遣して、法律改正等 のアドバイスを行うコンサルタントチーム型の技術協力が多い。

(34)貧困削減との関係、直接金融と間接金融、開発効果、IMFの特殊性 (モニタリング・次の日に人を派遣できる)、世銀の役割、IFC、自国通貨、 為替規制(盲点)、日本の役割(人材、特にメニュー体系)、サラ金など、有 意義な論点が出されたと思う。

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

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