2003年3月12日BBL概要

マネーロンダリング・テロ資金対策と途上国支援の課題
3月12日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「マネーロンダリング・テロ資金対 策と途上国支援の課題」が、約20名の出席を得て行われました。

冒頭、IMF特別金融監督部上級エコノミストの佐々木清隆氏(財務省で9月11日 テロ事件後の本分野での各種取り組みを担当した後、昨年よりIMF事務局に出 向)からのプレゼンテーションを受けて、腐敗・汚職や紛争資金の問題も含 め、出席者間の議論で様々な意見が出されました。

冒頭プレゼンテーション及び出席者からの意見のうち、主要なものは次の通り です(順不同)。

(1) マネーロンダリングは、犯罪や違法行為から得た収益を金融システム を通じて合法化していくという行為を総称している。マネーロンダリング対策 として現在の体制を作る契機は1989年のアルシュ・サミットであり、これを受 けて金融活動作業部会(FATF)がパリのOECDの一部を間借りする形で発足し た。その1つの活動の成果として、1990年に「40の勧告」が出されている。詳 細はFATFのウェブサイトで確認願いたい。
http://www.fatf-gafi.org
マネーロンダリング対策の必要項目の最低基準を設定するとともに、加盟国 (現在31か国・機関)はもちろん加盟国以外の機関・地域でも推進していくこ とがFATFの使命である。刑事法制面での整備、金融機関の役割、国際的な協力 等が盛り込まれている。

(2) テロ資金対策は、この数年米国を中心に脚光を浴びてきている。マ ネーロンダリング対策とテロ資金対策は共通する点もあるが、マネーローンダ リング対策は麻薬取引等違法な犯罪行為による資金を対象とするのに対し、テ ロ資金対策は慈善団体に対する合法な寄付など正常な経済行為からの資金も対 象とする点が異なる。テロ資金対策はテロ対策全般の一部として議論されてお り、議論は国連を中心に行われている。国連テロ資金供与防止条約(既に発 効)や、タリバン関係者に関する安保理決議、9月11日テロ事件を受けた安保 理決議等を基礎としている。

(3) 従来のマネーロンダリング対策とテロ資金対策が合流する形になった のが2001年10月にワシントンで開催されたFATF特別会合で、テロ資金対策特別 勧告が出された。FATFはもともとマネーロンダリング対策のために作られた が、9月11日テロ事件を受け、テロ資金対策と共通する部分があるのでそれも FATFの役割に加えようという合意がG7、FATFメンバー間で出来た。同時に、 40の勧告では対応できない部分があるということで、別途テロ資金対策のため の8つの特別勧告を出すこととなった。従来から言われている問題を焼き直し したという面もあるが、改めて勧告という形にしたものである。

(4) このような流れの中でのIMFの役割は何か。IMFの使命は国際金融シス テムや加盟国の国際収支バランスの安定などであるが、このような観点から も、9月11日テロ事件以前より関心が示されていた。特定加盟国の金融機関が マネーロンダリングで不安定化する可能性がある。BCCI事件のようなスキャン ダルは、金融機関の破綻や一国の金融システムの不安定化、更には世界の金融 システムに波及する。また、特定国のマネーロンダリングのリスクが高いと、 投資する側の金融機関は投資を躊躇したり、内部のリスク管理の観点から本来 の資金フローが行われなくなり、ひいてはマクロ経済の阻害要因になる。

(5) 2001年春頃から、G7蔵相・首脳会合でIMF・世銀に対してマネーロン ダリング対策強化を求める声明が出されるなど、FATFに加えて世銀IMFもマネ ロン認識・対応強化すべきという認識が広まった。4条協議や金融部門アセス メントプログラム(FSAP)、オフショア金融センター(OFC)アセスメント等 の取り組みがテロ事件以前から開始された。

(6) 更に、テロ事件を受けて、テロ資金対策も追加された。FATFのミッ ション拡大と並行して、FATF等と協力し、40+8勧告の遵守状況を評価するた めの基準の策定(昨年10月)や、遵守状況の評価の推進をしている。更に、評 価の結果遵守状況が不十分な途上国に対して技術支援を強化している。

(7) マネーロンダリング対策・テロ資金対策の課題として、個人的な見解 は次の通りである。
(イ) 基本的な法制度の整備が必要(刑事・金融・国際協力関連法制など、 異なった政府組織が関与・協力できる枠組みが必要)
(ロ) 法制を運用する組織・機関の整備が必要(捜査機関・司法機関、金融 監督機関、特別金融情報機関(FIU−行政と刑事・司法の橋渡しをする機 関)、各機関での人材の育成)
(ハ) 金融機関における内部管理体制、リスク管理体制の強化が必要(リス クの認識、顧客本人確認の強化(膨大な情報の中から検索することは困難)、 記録保存体制の整備、資産凍結に関する手続き・マニュアルの整備、疑わしい 取引の届出に関する体制の整備、内部監査・外部監査における評価、職員への 研修・意識高揚)
(ニ) 金融監督における監視の強化が必要(関連法制の執行のための行政上 の対応、オフサイト・オンサイトでの評価・チェックの強化、問題事案への行 政上の対応、金融監督機関と司法・捜査機関との協力の強化(人権の問題に関 わる))

(8) 現場での感覚では、マネーロンダリングと開発金融は結びつきが深 い。ナイジェリアやアンゴラなど、アフリカの産油国では、過去数十年間に亘 り石油収入があるにも拘らず、国民の半数以上が貧困に苦しんでいる。腐敗・ 汚職の問題が存在しており、政府として石油収入の管理能力がないのではない か。IFCがオイルメジャーと一緒にやる時でも、reputation riskを勘案して、 収入マネジメントを手伝うなど資金の透明性を高める努力をしている。(腐敗 による資金移転をマネーロンダリングの対象にしてはどうかという議論もある 旨指摘あり。)

(9) 紛争予防についても、資金対策が最近問題になりつつある。アンゴラ などでは、石油収入等が最近まで政府・反政府の双方により内戦に使われてい た。資金は酸素と同様であり、これがなくなれば紛争は続かない。マネーロン ダリング対策やテロ資金対策の手法は紛争予防にも役立つ。世銀の研究グルー プのコリエ部長がペーパーを用意しており、現在最終段階であるが、ウェブサ イトに掲載されている。
http://econ.worldbank.org/prr/CivilWarPRR/

(10) 金融面で国際経済秩序を乱すものに対して3つのブラックリストがあ る。第一に、FATFの非協力国・地域(NCCT)リストである。第二に、金融安定 化フォーラム(FSF)が出したオフショア金融センターに関するブラックリス トであり、対象を3つのランクに分けている。第三にOECDのタックスヘイブン のリストである。この3つを全部を兼ね備えている国もある。

(11) テロ資金対策には政治的側面がある。テロ団体やテロリストの定義 はない。米国のテロリストを指定する際には、外国のテロリストについて、米 国の国益、政府、国民に対する脅威があるか否かを基準にしている。これに対 し、他国は国連安保理決議が必要と主張する。

(12) 日本として出来ることとしては、遵守をするときに多様なルートが あり、米国が唯一のモデルでないという点を説明することではないか。日本型 を主張するということではなく、多様性に対する許容性を広めることである。

(13) 日本では警察・検察など治安の良さを支えてきた要素があるので、 活躍できる部分があると思う。ただし、IMFによる審査に際しても、欧米等か らは、自国の専門家を使って欲しいと売り込んでくるものの、日本には呼びか けてもなかなか人材が見つからない。FATFやIMF・世銀を使えば、グローバル なルール設定や政治的働きかけなどに際してレバレッジが効くので、日本とし ても様々な形で積極的に関与し貢献・活用していくことが望ましい。

*なお、事前に紹介のあった関連資料は次の通りです。
(IMF・世銀共同報告・昨年9月) http://www.imf.org/external/np/mae/aml/2002/eng/092502.htm
(Aninat・IMF副専務理事他による「金融と開発」誌への寄稿・昨年9月) http://www.imf.org/external/pubs/ft/fandd/2002/09/aninat.htm

以上の諸点をはじめ、日本として取り組むべき課題や、議論を聞いての感想など、短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

Top