2003年2月26日BBL概要

貿易と開発をめぐる最近の動向と日本にとっての意味合い
2月26日、ワシントンDC開発フォーラムBBL「貿易と開発をめぐる最近の 動向と日本にとっての意味合い」が、約20名の出席を得て行われました。

始めに、世界銀行開発経済局貿易チーム・アナリストである大槻恒裕氏より、 貿易と開発をめぐる最近の動向について、世銀の取組の説明を含む形での キックオフ・プレゼンテーションがあり、続いてヴァージニア大学経済学博士課程の 吉野裕氏より、ODA政策としての貿易関連キャパシティービルディング(TCB) について、日本への意味合いを含めプレゼンテーションがありました。 プレゼンテーション後のディスカッションにおいては、貿易関連ODA政策として、 日本はマルチ優先なのかまたマルチ優先でいくべきなのか、TCBの支援政策上の 優先順位、日本にとって貿易をツールとして開発支援政策をとる今日的意義は あるかについて、議論がなされました。

I. キックオフ・プレゼンテーション「貿易と開発をめぐる最近の動向」(世銀・大 槻恒裕氏)

1. 途上国を取り巻く貿易環境と国際機関
(1)途上国に不利な貿易環境(南北問題の顕在化とUNCTADの設立)
(2)GATTと途上国の関心のずれ(一次産品、投資、サービスの除外)
(3)ブレトンウッズ機関の役割と限界

2. WTOの設立と途上国の関心への配慮
(1)WTOの設立と途上国の影響力の向上
(2)交渉範囲の拡張( 一次産品、サービス、投資、知的所有権)
(3)救済措置としての紛争解決機能
(4)ドーハ開発アジェンダと途上国への配慮

3.ドーハ開発アジェンダ
(1)S&D Treatment−特別かつ異なる待遇
(2)先進国の貿易関連開発援助の義務
(3)TRIP協定ー知的所有権に関する協定

4.世銀の自由貿易に対する観点
(1)開発のツールとしての自由貿易(公平重視から効率重視へ)
(2)多面的な開発戦略の一つとしての自由貿易(公平重視と効率重視の並存へ)

5..ドーハ開発アジェンダと世銀のアプローチ
(1)能力開発的アプローチ(WTO協定遵守へのキャパシティービルディング、 国際競争力の強化)
(2)制度的改革アプローチ(開発のための多角的貿易システム、先進国の 通商政策面での譲歩)

6.世界銀行の取り組み
(1)貿易関連融資(輸出信用、交通・港湾インフラ)
(2)能力開発(セミナー、ワークショップ)
(3)政策研究
(4)WTO参加支援(中国、ロシアの参加支援; LDCs−統合フレームワーク(Integrated Framework))

7.シンガポールアジェンダへの取り組み−貿易円滑化
(1)貿易円滑化ー通関手続きの簡略化、行政や規制の透明化、合理化
(2)研究レベルでの貢献(貿易円滑化への優先分野の特定)
(3)貿易円滑化キャパシティービルディング(WTO関連セミナー、ワークショップ)(4)技術協力での貢献(貿易関連インフラ拡充)

II. 「ODA政策としての貿易関連キャパーシティービルディングについての一考察」(ヴァージニア大学・吉野裕 氏)

1.貿易関連キャパシティー・ビルディングとは
(1)WTO/OECDデータベースによる定義
(2)貿易政策規制(TPR)、貿易開発(TD)
(3)二つの狭義・広義:WTO協定関連(狭)と産業育成・強化(広)、 制度行政上のキャパビル(狭)と経済主体・活動のキャパビル(広)

2.貿易とODAの伝統的な関係(グローバルレベル)
(1)マラケシュ以前の限定的な貿易と援助の接点(市場参入の エントリーポイントの紹介、税関システム)
(2)背景(アドホックなままの世界貿易体制、援助とドナー国内産業の 連関性へのタブー視)
(3)結果として、限られた形でのODA事業レベルでの貿易・開発リンケージ。 マクロ経済・経済構造としてのリンケージ。

3.マルチからの新たな関心(90年代以降)
(1)WTOドーハ閣僚会議(2001年)に向けてのプロローグとしての マルチ・レベルでの新たな関心
(2)背景1:ODAの減退と民間開発資金の認知(貿易・投資の役割、モ ンテレー国連開発資金会議)
(3)背景2:経済系国際機関の社会的意識の向上(世銀による貧困撲滅、 PRSP、WTOにおける貿易と環境・社会的側面、途上国支援)
(4)結果として、開発政策における貿易のメインストリーム化、ミクロレベル での貿易・開発リンケージ

4.それに対する日本の対応
(1)WTO基金への拠出(ドーハ開発アジェンダ・グローバル・トラスト・ファンド への拠出(150万スイスフラン・約1億2千万円))
(2)二国間での人材育成(小渕イニシアティブ、小泉イニシアティブ)
(3)戦略的APEC計画(タイ、インドネシア、マレイシア、フィリピンに対する WTO協定実施に関する支援(AD,GATS,TBT,TRIPs 関連等))
(4)アフリカ諸国対象のWTO・JICA共催セミナー シンガポール・イッシュー(貿易円滑化、政府調達、投資、競争等)
(5)JICA「WTO協定実施のためのキャパシティービルディングに関する委員会」報告書

3.貿易関連キャパシティー・ビルディングのドナー側の理由
(1)自国との通商関係の機会創出(民)
(2)世界通商システムの公正性・透明性の確保(民、公)
(3)途上国の制度整備支援(公、民)
(4)自国の消費者保護(公)
(5)開発におけるオーナーシップ確保と自助努力の推進(公)

4.TCBにおけるマルチとバイ
(1)枠組設定・アジェンダ設定としてのマルチの役割
(2)エントリーポイント(二つの入り口・アプローチ):
(イ)グローバル・機構からのアプローチ(WTO協定別の取り組み)
(ロ)実施事業としての国別・開発からのアプローチ(世銀・UNDPなど IFを通じた取り組み、貿易構造改革(多様化)、サプライサイドの 制約の除去(民間セクター開発)、国際競争力強化、環境整備(インフラ))
(3)バイラテラル・バイアスの可能性
(4)マルチ連動型のバイの利益追求の可能性(欧州:コトヌ協定、 日本:戦略的APEC構想)

5.日本としての課題は?

(1)命題:貿易関連キャパシティー・ビルディングを通じて、マルチ、バイ双方の 視点をもちつつ途上国の経済成長支援と国内厚生(産業・消費者)確保両立させる。

(2)イッシュー:
(イ)自由貿易協定、地域戦略の弾力的活用との連動
(ロ)マルチ・グローバル枠組との連携
(ハ)民間企業の利益追求を活用
(ニ)アジア・アフリカ問題の整理(ODA二分論?南南協力支援?)
(ホ)開発支援政策全体の位置づけ(貧困撲滅への取り組みとの関係整理、 民間セクター開発との関係、競技ルールの説明・指導と基礎体力作り支援)
(ヘ)ドナー調整への対応策
(ト)国内消費者と途上国生産者との需要・供給のバランス確保

(3)キー・ポイント :
(イ)体系化されたTCB支援戦略を策定する:ツールボックスの確保 (狭義のTCB、民間セクター開発、インフラ整備、民間投資促進、 PPP、マルチ・リジョナル・バイ、支援形態) 、道具と知恵(ツールを 活用する知識) 、短期的視点と中長期的視点
(ロ)国別・地域別の適用で日本のODAカラーを引き出す:オウナーシップ、 南南協力(アジア・アフリカ協力) 、マルチ枠組:マルチ優先型は迅速な 政策対応が必要。
(ハ)国内・ドナー間調整は枠組を拠り所に :ODA政策と通商政策のバランス
(ニ)自己のキャパビルも忘れずに。

III. キックオフ・プレゼンテーション後の席上のディスカッション

1.日本はマルチ優先なのか、またマルチ優先でいくべきなのか?
(1)日本のカラーということで、日本がマルチからはいるということが若干アンビバレントに感じる。日本は国益を追求して良いわけであり、米欧とEUに追従する必要はないにしろ、日本の独自色をWTOでどうのように出せるかが疑問。
(2)同じくマルチ優先というところに引っかかる。通商政策を考えた場合、日星・日墨FTAなど、役所の足並みが揃っておらず、バイでさえも難しいのにどのようマルチができるのかが疑問。バイからのアクセス・アプローチのほうがいいのではと考える。
(3)国民に対する説得力としても、日本の企業の関心がバイのほうが国内との調整という観点からも日本にとってはいいのでは。
(4)マルチ優先、WTOありきという姿勢であれば、WTO自体のクレディビリティの問題にあり、そのクレディビリティーが問われている時である。アメリカはバイで行くということであるが、日本もWTOでもいいが、いつでもバイに変えられるようにするべきなのではないか。
(5)マルチ優先というのは、貿易分野における通商政策としての話であり、日本としてはWTOから入るということ政策をとっている。ひとつ対象範囲として開発政策全般が貿易にもかかわるということでマルチがでてくる。日本はマルチの動向に影響を受けることはあるだろう。
(6)地域ごとの使い分けということで、マルチとバイのミックス加減を使い分けるという方法もある。
(7)費用対効果ということを考えると、規模の生産性のようにマルチであれば費用が少なくて済むとも考えられる。個別ばらばらにTCBを行えば活動の重複からのコストなどが出るわけでもあり、マルチ枠組で入り、分野ごとに使い分けていけばよいであろう。
(8)「市場の失敗」がある場合、特にマルチ枠組が有効に働く。バイはインセンティブが背後にあり、個別のコストとリターンのバランスが必要であるが、逆に普通・企業がやりたくないことをマルチが肩代わりしていくということも考えられる。
(9)CBとして制度を改善するのなら、公共財としての側面があり、民間ではなかなか解決できない。公的・マルチを通じないと完全なる解決はできない問題もある。同時に企業が利益を独占できるような分野であれば、バイの利益と国民の理解もえられやすいわけであり、分野毎ターゲットを選ぶということが必要ではないか。

2.TCBの優先順位は?
(1)日本独自のODAカラーを引き出すということで、TCBしていく上で、具体的に順位付け、アジアもアフリカもというのは難しい。日本としての支援の優先順位をどのように決めていくのかが問題であろう。
(2)日本は地域のリーダーではなくてグローバルのリーダーとしてやっていくのであれば、例えばアジアかアフリカかで優先順位をつけるべきではない。アジアには民間活力を利用してアジアに適した方策、アフリカにはWTO・マルチ枠組を利用したアフリカに適した方策を使い分け、ツールボックスの中身を使い分けた上で、同時進行で進めるべき。その二つの橋渡しになるものは、日本も推進しているアジア・アフリカ協力という形での南南協力で あると思う。

3.日本にとって貿易を開発のなかで活かす意義はあるか?
(1)貿易に関して言うと、自ら貿易の中で位置づけられないということで、現在の日本は難しい位置づけにあろう。実際には生産を中心とした日本の経済構造が生産じゃない方向に向かおうとしているし、例えば中国にODAを出すとみんな大騒ぎするように、日本産業に関する影響はどうこうというディフェンシブな議論になっている。知的所有権が最優先だというようなアメリカとも異なる。日本の経済構造が10年ほど変わりきれないところで、他国に何をできて、そのメリットはなんなのかを定義できていない。地域的にどういう優先順位をするのかなどは今のままでは結論ができない。議論する力さえないのかも知れない。CB以前の問題なのかも知れない。
(2)CBの中で自由貿易の意義というのを広く国民一般に知らしめることが対途上国のTCBで大切とされているが、日本の消費者も同じに貿易に対する意識向上が必要だと思う。しかし、実際にそこまで果たしてやるだけの政府のイニシアティブがあるのかどうかは疑問。
(以上)

当日のプレゼンテーションおよびディスカッションで触れられた諸点をはじめ、 貿易・開発の分野で日本として取り組むべき課題を、あるいはそもそもどの 程度取り組むべきなのかというそもそも論も含め、議論を聞いての感想など、 短いものでも結構ですのでinfo@developmentforum.orgまでご意見をいただければ幸いです。

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