ワシントンDC開発フォーラム
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「NGOとドナーとのパートナーシップを如何に構築すべきか」

−米国の政策と経験から考える−

 2002年5月8日、ワシントンDCにて、政府、実施機関、世銀グループ・米州開銀・IMF、企業、NGO、シンクタンク・大学、メディア等の経済協力関係者約30名が、NGOとドナーのパートナーシップを如何に構築すべきかについて、昼食を交え個人の資格で意見交換を行ったところ、概要は次の通りです。

【ポイント】

  • 米国のUSAIDは1970年代から意図的にNGOを育成した。その特徴としては、国際協力のアクターとしてNGOを認め、育成し、戦略的にパートナーシップを形成していること、NGO同士が競争する市場を設けてインセンティブを働かせていること、セクター・イシュー・地域別にネットワークNGO等を設立し情報共有を図っていることが挙げられる。他方、その結果生じた問題点として、USAIDの基準・目標の達成にとらわれ現場への配慮に欠けていること、USAIDの予算にとらわれ柔軟性に書けていること、コントラクター化して独自性に乏しいことが挙げられる。
  • 日本のNGO支援策は、NGOとの「連携」・NGOに対する「支援」と、NGOの「キャパシティビルディング」の2つを挙げている。他方、問題点としては、間接費用支援の不足によりNGO事業補助金を積極活用するインセンティブが働かなかったこと、政府内部構造の硬直化により日本と海外のNGO支援の連携が不足したり、省庁間縦割りの弊害により個別の対NGO協議会が行われていることが挙げられる。
  • 米国の政策と経験を踏まえ、日本政府に対しては、(イ)NGOが成長しようと思うインセンティブの構築、(ロ)政府内部でのNGOに対する意識改革、(ハ)政策・制度研究を行う組織・プログラムの設立、(ニ)きめ細かい研修のアレンジ、(ホ)ケースブックの作成、(ヘ)国内NPOと開発NGOの連携、(ト)職業NGOとしての制度・基盤作りを提言したい。
  • ただし、英国のNGO支援額の比率は米国よりはるかに小さいこと等に鑑みれば、米国との比較のみならず様々な可能性を考える必要がある。また、NGOや広く開発に対する国民の関心を高めること、高齢者を含む人材を活用すること、モデルとなる質の高いNGOを育成すること、NGOへの事業委託を通じてのキャパシティビルディングを図ること等も課題である。

【本文】

  1. NGOとドナーとのパートナーシップを如何に構築すべきか
    ―米国の政策と経験から考える―(NGO研究者・杉原ひろみ氏)

(1)はじめに

 私は1997年から2000年まで在ジンバブエ日本国大使館専門調査員として開発援助に従事し、現地NGOや欧米NGO、アメリカ平和部隊(ピースコー)隊員とプロジェクトレベルで仕事をした。任期満了後、住まいを米国ワシントンDCに移し、この3月まで米国開発NGO連合体組織であるインターアクションでインターンをしていた。現在は、「ODAの政策決定過程においてNGOの声が反映されるしくみ」について英米を事例に調査研究を行なっている。今日はアカデミックと実務の中間領域にいる私が、USAIDとNGOとのパートナーシップの形成過程を事例に取り上げ、今後、日本政府がどのようにNGOと協調関係を結ぶのが好ましいか提言したいと思う。

 プレゼンテーションの流れとしては、第一にNGOとは何か?という問いに対し、現在世界的に有名なNGOが誕生した歴史的背景を述べ、NGOの持つ性格および類型について簡単に説明する。その後、NGOと政府とのパートナーシップについて、最初にUSAIDとNGOとのパートナーシップを事例にあげ、USAIDがどのようにNGOを意図的に育成してきたのか、その特徴、問題点について考える。そして次に日本のNGOと政府の関係について、主に外務省のNGO育成策の現状と問題点に触れる。最後に日本に対する提言を行い、今日の出席者と一緒に、日本で今後どのようにNGOと政府が協調関係を結び、共同作業をしていけるのか、していくべきか、ワシントンから何が発信出来るのか考えていけたらと思う。

(2)NGOとは何か?

(イ)歴史的背景

 今日、世界的に有名なNGOがいつ、なぜ設立されたか調査したところ、(a)Save the Children UKは第一次大戦時にロシア飢饉に対する救済のため設立され、(b)Save the Children USは1929年世界恐慌時に大恐慌の影響を受けた人々の救済のため設立され、(c)Oxfamは第二次大戦時にナチスのギリシャ占領時の人道的緊急支援のため設立され、(d)Careは第二次大戦の戦後処理時(占領下日本への食糧支援目的も含)に設立され、(e)World Visionは朝鮮戦争時に同戦争孤児救済のため設立され、(f)多くの開発NGO・WWFAmnesty Internationalは1960年代の「開発の10年」を機に設立され、(g)グリーンピースや国境なき医師団は1970年代の「ベーシック・ヒューマン・ニーズ(BHN)」強調を背景に設立された(資料参照)。ここから言えるのは、NGOは政治経済の歪みの中で、既存の政府メカニズムが機能しなくなった時、政府・市民社会双方の要請により、設立・活発化するという史実である。また、60年代以降誕生するNGOは、当然と言えば当然であるが、世界における開発援助の潮流の中で時代の要請で生まれ、飛躍的に成長しているとも言える。

(ロ)性格

 次にNGOの持つ性格であるが、民間企業のように利益追求を目標にするのではなく、価値あるものに対する追求と、特定のイッシューに対する共感を行動に移すのがNGOの特徴と言えるのではないだろうか。例えば、アフガン人女性の社会で置かれている立場を改善させるために女性の識字教育の向上が必要だと痛切に感じ、それが一般市民や政府から共感を得て、実際に女性の識字教育や基礎教育を行なうことなどが挙げられる。特定のイッシューに対して価値を置き、行動に移すのがNGOの一般的な特徴であると言える。

(ハ)類型

 第三にNGOの類型であるが、昨年12月の本ブラウンバッグランチで発表した時に説明した通り、一般的に受益型、契約型、主体型、アドボカシー型の4つの類型が考えられる(資料参照)。第一に受益型NGOである。これは、ドナーの資源・サービスを直接受益する、途上国の草の根組織、コミュニティをベースとした組織などが考えられる。第二に契約型NGOである。これは、ドナーからプロジェクトの実施を請け負って実施する組織を言う。第三に主体型NGOである。これは、主体性を持って組織の使命を実行する組織のことである。そして第四にアドボカシー型NGOである。これは、ドナーの政策や活動に影響を与えようとしたり、また政策形成過程に実際に参画するNGOを言う。1つのNGOがプロジェクト・プログラムレベルでいくつもの類型にまたがるケースもある。

(3)米国NGO(USAIDに資金依存するNGO)と政府とのパートナーシップ

 次に、米国NGOと政府とのパートナーシップについて、USAIDのNGO育成策に焦点を当て、その特徴および問題点を述べたいと思う。米国のNGOと言っても実にさまざまで、活動資金のほとんどをUSAIDに依存するNGOもあれば、一切依存せず、独自の価値観を持って開発援助活動を柔軟に行っているNGOもある。また教会組織の政府に対するアドボカシー活動も見逃せない。今日はドナーとNGOとのパートナーシップがテーマなので、USAIDに資金依存しているNGOに注目して政府との関係を述べたいと思う。

 最初に申し上げたいのは、米国の場合、NGOと政府とのパートナーシップは勝手に出来上がったものでないということである。米国NGOの成長は、政府・NGO双方で対話を繰り返し、微妙な協調関係を保ちながら双方が変革して現在があると言える。米国では、議会や民間財団、企業と言った多様なアクターが働きかけ合いながら、時間をかけて成長している。特にNGOの間接費等において、フォード財団やビルゲイツ財団、ヒューレッド財団など広く市民社会を支援している民間財団の果す役割は大きい。民間財団の場合、比較的資金規模は小さいが、NGOの立ち上げ資金や、ちょっとした研究助成などにも出資してくれるため柔軟性が高いと評価されている。その中でアメリカのNGOが成熟しているという事実を忘れてはいけない。そうした事実も踏まえ、USAIDがNGOをどのように意図的に育成したのか、それがもたらす弊害・問題点を指摘したいと思う。

(イ)USAIDのNGO育成策の歴史

 USAIDの場合、意図的にNGOを育成していった背景がある。アメリカ援助の歴史とNGOとの連携についてまとめると(資料参照)、NGOの成長時期は主として(1)「開発の10年」と言われた60年代、(2)BHNが謳われた70年代、(3)USAIDが本格的なプロジェクト支援を始めた80年代、そして(4)東西冷戦が終結し、USAIDの予算削減に伴う援助構造の変化とNGO対話の深化が行なわれた90年代、の4時期が挙げられる。

 その中でも、73年に改定した対外援助法において、BHN重視の路線を明確化し、貧困者層に直接届く援助方式として、“Poor targeting approach”と、そのための開発援助の諸段階における受益者の参加を保障すべきだとしている。当時の模様を知るNGO関係者にインタビューをすると、70年代当時、ハードなインフラ中心のトップダウン方式の援助に対するフラストレーションを抱え、NGOは主に地元議員を通じて政府に対してさかんに援助の在り方を変えるよう働きかけていった由である。

 その73年の対外援助法に基づいて、74年よりUSAIDが本格的にNGO支援を開始した。具体的には、74〜80年にかけてUSAIDは国内活動を行なうNPOで国際協力に参加する潜在性を持つ組織の強化に励んだ。例えば、PACTというNGOは72年、小規模NGOの組織強化のためUSAIDが設立したNGOである。つまり、USAIDが自らNGOを作り、そのNGOがアメリカの小規模NGOのキャパシティ・ビルディングを行ったのである。

 そして80年以降、USAIDは本格的にプロジェクトに対する資金協力を開始し、同年、間接費用の算出基準に関する法律も制定している。USAIDから資金協力を得るためには、USAIDのPVO(Private Voluntary Organizations)として登録しなければならず、アメリカNGOの総数がだいたい1500あまり、そのうちUSAIDに登録しているPVOは約420、更にUSAIDから実際に資金協力を得ているNGOはその半分と言われている。

(ロ)特徴

 USAIDのNGO育成策の第一の特徴は、USAIDが国際協力の実施アクタ―としてNGOを認め、育成し、そして戦略的にNGOとパートナーシップを結んでいる点である。その根拠として外務省が4月に発表した文書によると、NGO支援額のODAに占める割合は、米国の場合33.6%であるのに対し、日本は0.51%で、アメリカの援助におけるNGOの位置付けが分かると思う。また別の根拠として、個々のNGOに合わせて間接費の設定を行なっている点が挙げられる。プロジェクト経費、人件費、管理費といった広範囲にわたる予算補助をしている。これが逆に後で指摘する問題点にもつながるが、いずれにしても、間接費用を個々のNGOの状況に合わせて出すには、ドナー側はNGOの組織規模や形態、活動内容等を理解しないと出来ないことであり、中途半端にNGO支援をし、その延長線で間接費用を支出する程度の考えではとても太刀打ち出来ないことだと言える。

 第二の特徴は、USAIDがNGO同士の競争する市場を設け、インセンティブを働かせている点である。USAIDのNGOに対する資金協力は規模が大きく、その資金欲しさにNGOは頑張る。また、徹底的な情報公開と透明性の確保をし、書類審査過程に外部者も入れ、公明正大に審査が行われる。USAIDが求めるNGOとは何かという戦略とその目的が明快なため、さまざまなNGOが参入しやすく、結果としてNGO同士が競争するメカニズムが出来上がっている。

 第三の特徴は、開発援助に関わるアクタ―(政府、NGO、議会、財団、民間企業など)間で、情報の共有や問題の解決を行えるようなネットワーク団体・コンソーシアムやプログラムをUSAIDがセクター別・地域別・イッシュー別に設立し、積極的に資金・技術協力をしている点である。パートナー間の信頼関係を築く過程で必要な情報の共有や意見交換の大切さをUSAIDもNGOも認識し、そこに双方ともお金と人を投下しているのは特徴的である。

 第四の特徴は、人材の流動性があることである。ワシントンに来て実に様々なNGO関係者と知り合う機会があるが、彼らのバックグランドで特徴的なのは、国務省などの省庁やUSAID、議会に携わる職員からNGOへの人材移動が多いことである。これはワシントンの特徴だと思うが、政権が変わると失職する人がおり、その人たちの受け皿にNGOがなる場合もある。また、USAIDや世銀職員からNGOへ転職し、アクティビストとしてワシントンでアドボカシー活動を行うケースもある。

(ハ)問題点

 次に、USAIDが戦略的にNGO育成をした結果もたらされている問題点を述べたいと思う。これは私がジンバブエ大使館で社会開発分野における具体的プロジェクト形成を行なった際に感じたこと、また、ここワシントンでアメリカNGOと話をする中で感じたことなど、自らの経験に基づくものである。

 第一に、アメリカのNGOは、USAIDの求めるスタンダードやプロジェクトの目的を満たすことに一生懸命で、フィールドのニーズやそれに対する配慮に欠けている点である。これはジンバブエ大使館にいた際感じたことであるが、彼らは日本大使館に一見立派なプロジェクトプロポーザルを提出するが、現地のニーズや気象条件、地理条件を十分把握しておらず、現場にいた私には現実味に欠け、誰の何のためのプロジェクトなのか分からないものが多かったように思える。これは米国NGO内部の組織問題なのかもしれないが、中央集権型のNGOがまだ多く、アメリカ本部がイニシアティブを取ってプロポーザルを書くケースが多いのではないだろうか。

 第二に、NGOは、USAIDの予算・スキームサイクルで活動しているため、他のドナーやパートナーとの協働が難しい点が挙げられる。アメリカNGOはUSAIDから十分な資金提供を受けているため、無理して他のパートナーと協調しなくてもいいことが理由として考えられる。USAIDが飴とむちで、NGOを相当コントロールしている表れとも言える。

 第三に、NGOがUSAIDのコントラクターと化していて、独自性に乏しい点である。アメリカNGOの内部ミーティングに参加すると、NGOは創造的・革新的であり続けなければNGOでないと言いつつも、USAIDの複雑な調達システムがマイナスの影響を及ぼしているため、私からするとNGOはUSAIDのコントラクターと化しているように思える。その点はNGOも認めており、調達システムを改善し、創造的・革新的な活動ができるよう、米国開発NGO連合体(インターアクション)が調整役となり、NGO・USAID双方が集まって話し合いが持たれている。

(4)日本のNGOと政府とのパートナーシップ

 以上、アメリカをケースに政府とNGOのパートナーシップについて述べた。アメリカと異なり、日本の場合、ここでは外務省を指すが、NGO支援を開始したのは89年からである。ここ数年、本格的に育成・支援しなければならないと考え、ODA全体の予算は削減されてもNGO予算は右上がりになっている。しかし、政府とNGOとのパートナーシップは始まったばかりで、これから如何に構築していくかが課題となっていくと考えられる。

 その中で、政府・NGO・経済界が共同で緊急援助を行うためのシステム「ジャパン・プラットフォーム」の立ち上げが約2年前にされたが、このプラットフォームは、NGO側のイニシアティブによるものだと言われている。もしそれが本当だとすれば、政府とNGOのパートナーシップの成功例として画期的だと思う。こうした成功の第二段、第三段を出すためには、イニシアティブを取ったNGO、ピースウィンズ・ジャパンが、どのように政府や経団連に対してアイディアを提案し、説得し、最終的に受け入れられたのか、十分に検証し、応用する必要があると思う。

(イ)政府のNGO支援策

 今年度の外務省のNGO支援策は、(イ)NGOとの「連携」とNGOに対する「支援」、(ロ)NGOの「キャパシティ・ビルディング」(専門性・組織運営能力の向上)の二つを挙げている。NGOとの連携に関しては、NGO・外務省定期協議会の開催と、NGOとの共同評価の実施、支援に関しては、開発協力事業への財政支援の実施を行う予定である。そして、専門性・組織運営能力の向上に関しては、NGO職員向け研修プログラムの実施、およびNGOが行う分野別研究会(保健・医療、教育、農業・農村開発)への財政支援を行い、組織運営能力の向上に関しては、NGO相談員を全国各地のNGOに配置し、NGO専門調査員をNGOに派遣予定である。

(ロ)NGOと政府とのパートナーシップを構築する上での問題点

 次に問題点を述べさせて頂きたい。第一に、NGOにとってこれまで外務省のNGO事業補助金を積極活用するインセンティブが働かなかった点である。これまで事業における間接費用の支援がなかったため、NGOが外務省補助金を受けてプロジェクトを実施すればするほど赤字が出るしくみになっていた。今年度から間接費を10〜15%計上することが可能になった由であるが、10%だけで赤字が解消されるのか、またその10%という数字の根拠が何なのか明確に示さなければ、外務省の補助金制度の積極的活用、ひいては外務省−NGOのパートナーシップは構築できないと思う。また、外務省のNGO支援の選考過程が不透明であることも、インセンティブの低下に結びついていると思う。

 第二に外務省内部構造の硬直化と、省庁間の縦割りの弊害で、外務省および他の省庁との連携が取れていない点が問題点として挙げられる。外務省内部構造に関して言えば、主にNGO支援室と在外公館の連携がうまく取れておらず、その結果、日本と海外のNGO支援のつながり(情報やノウハウの共有など)がほとんどないことである。同じNGO支援としてつながりを持たせ、包括的に支援していくのが「開発援助」を中心課題と考えた時、当然の流れなのに、それがないのは援助の質や効率化の面から見ても問題である。他方、省庁間の縦割り行政の結果、ざっと挙げただけでも外務省とNGO、財務省とNGO、JICAとNGO、JBICとNGO間の協議会があり、そのたびに呼び出されるNGOの金銭的・時間的負担はかなりのものだと思う。省庁ごとに競争が行われ、質の向上が図られるならまだしも、そうでないのは問題である。

(4)日本政府に対する提言

 先ほどアメリカを例に政府とNGOのパートナーシップについて述べたが、USAIDの場合、30年もの時間をかけて戦略的にNGOを育成してきた。日本政府のNGO支援体制はまさに70年代のアメリカであると私は思う。そうした状況を踏まえ、日本政府に対する提言を申し上げたい。

(イ)NGOが成長しようと思うインセンティブの構築

 国際競争力のあるNGO育成を目標とし、例えば世銀がNGOに対して行う小規模無償と同スタンダードな国際コンペを国内NGOに対して導入してみるなどし、NGO同士が競争する環境を作り、徐々に国際競争力のあるNGOを育成することが大切ではないだろうか。

(ロ)政府内部でのNGOに対する意識改革

 省内部の政治的な問題にもつながると思うが、省内においてNGO支援をすることへのインセンティブが働かないことには、一部の部局がいくらNGO支援策を発表したところで根本的解決には至らないと思う。一部のフィールド・オフィス(大使館)では、NGOの相手は専門調査員や他省庁からの出向者にやらせておけばいいという考えをいまだに持っているようであるが、政府が機能しないアフリカ諸国では、各ドナーとも政府に代わってNGOを通して途上国の市民に援助をしているのが現状である。相手国政府のみを相手に外交や開発援助を行う時期は終わり、多様なアクタ―と参加型プロセスを経て、開発支援をしていくのが主流になってきている。従って、政府内部で、他ドナーが具体的にどのようにNGOと関わりを持ち、NGOを開発援助のキーアクタ―として扱っているか実態を知り、意識改革をしていく必要があるように思える。

(ハ)政策・制度研究を行う組織・プログラムの設立

 (a)援助に関わるアクタ―すべてが必要とする情報やノウハウの集約と研究、(b)NGOだけでなく「市民社会」に関する政策研究、などが包括的に出来る組織、またはプログラムの設立が必要であるように思う。例えば政策研究大学院大学の開発フォーラムなどの研究機関でそうした研究を包括的に行うことで、開発援助に広がりと深みが増すとともに、日本政府が目指す「質の向上」や「顔が見え声が聞こえる援助」が可能になるのではないだろうか。その際、大切なのは、役人、NGO、民間企業、大学等多様なバックグラウンドを持つ人材を投入することだと思う。

(ニ)きめ細かい研修のアレンジ

 個々のNGOの目的やレベルに応じたきめ細かい研修のアレンジをする必要があると思う。具体的に、会計や経営・リーダーシップに関する研修であれば、日本の起業家育成や国内NPO育成とオーバーラップする部分が多いと思う。そこからノウハウを移転する、もしくはアメリカのように研修プロバイダーを作り、NGOのキャパシティ・ビルディングを行うのも手ではないだろうか。一方、海外研修を行い、刺激を受ける必要があると思う。その際、個々のNGOのニーズを十分に汲み、レベルに合った研修を行う必要があると思う。日本のNGOが知りたいのは、海外のNGOがどういうプロセスを経て大きくなったのか、大きくなる要因は何か、政府からの資金をもらってみて実際のところ活動はどうか、政府のコントラクターになることに対してどう思うか、など具体的な経験や歴史、現地プロジェクトのケース・スタディではないだろうか。

(ホ)ケースブックの作成

 日本国内やフィールドで問題にぶつかったとき、問題解決を試みるツールとして、実例から学ぶものは多いと思う。例えばFASIDは1992年より「ケース・メソッド・セミナー」を実施しているが、そうしたセミナーを活用し、英米その他のNGOがこれまで行ってきたプロジェクト、経営、組織強化等の事例を集め、そのメソッドを使って整理して本にすることで、NGO関係者のみならず、援助関係者全体にとって役立つのではないだろうか。

(ヘ)国内NPOと開発NGOの連携

 開発NGOにとって、一般市民に開発援助を理解してもらうことが、草の根レベルでのサポーターを増やすことにつながり、国内ネットワークを持つNPOと連携する意義は大きいのではないだろうか。国内問題の延長線上に開発援助問題を考える、もしくは開発援助を行う根本的な問題を国内問題と結びつける等、国内問題と開発援助問題を切り離しては考えられないと言うことを一般市民に教育する必要性があり、その面で開発NGOと国内NPOとの連携は意義があるのではないだろうか。具体的には、国内NPOと開発NGOとの積極的な連携を「市民への開発教育推進」と言う観点から推奨し、具体的にプログラム・プロジェクトを行う開発NGOとNPOに対して、「ODA広報」予算で支援するなど、インセンティブを働かせるのも一案である。

(ト)職業NGOとしての制度・基盤作り

 日本経済の悪化に伴い、終身雇用制度も崩壊しつつあり、今後、人材の流動性が増すように思われる。その時、キャリア・ビルディングの一つとしてNGOがなり得るよう、きちんとした制度(健康保険・年金等で不利にならないような制度)・基盤作りをしていく必要があるのではないだろうか。

2.席上及び電子メールで直後に出された意見

(1)欧米NGOと比較しての我が国NGOのあり方

(2)国内世論との関係

(3)国内NPOと開発NGOの連携

(4)NGOの人材

(5)NGOの資金源

(6)NGOの能力向上

(7)その他

(以上)