ワシントンDC開発フォーラム
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「世銀IMF2002年春会合の評価と今後の課題」

 2002年4月24日、ワシントンDCにて、政府、実施機関、世銀グループ・米州開銀・IMF、企業、NGO、シンクタンク・大学、メディア等の経済協力関係者約30名が、世銀IMF2002年春会合の評価と今後の課題について、昼食を交え個人の資格で意見交換を行ったところ、概要は次の通りです。

【ポイント】

  • 開発委員会は、前月のモンテレイ合意を受けて、具体的実施が課題との認識のもと開催。開発効果とパートナーシップについては、オーナーシップ/政策/ガバナンスの満たされた国への支援強化、教育についてはミレニアム開発目標(MDG)達成への具体的行動の重要性を確認。今後、結果重視アプローチの具体化と、問題に直面する低所得国(LICUS)への対応を要検討。
  • 国際通貨金融委員会(IMFC)は、低所得国への対応につきマクロ経済政策関与に特化することを確認し、成長・公的資金管理・貧困/社会へのインパクトへの配慮に合意。先進国の市場開放と補助金撤廃、コンディショナリティの限定、HIPCの持続可能性についても議論あり。
  • 日本として、開発問題に関する内外への発信強化、制度支援強化、教育重視の流れにおける途上国教育委員会への支援体制整備、PRSPのオーナーシップ強化、ミレニアム開発目標(MDG)の位置づけの明確化等の課題への取り組みが重要。

 【本文】

  1. 2002年春の開発委員会の評価と今後の課題 
    (世界銀行日本理事室理事代理・吉田正紀氏)

    (1)背景

     今般の開発委員会全般、モンテレイから、更に今後という一連の流れでお話したい。

     今般の開発委員会は、メキシコのモンテレイで開発資金国際会議が開催されてから初めての閣僚級の会議であった。モンテレイ会議の評価はいろいろあるが、ドナーと途上国(援助受入国)が同じテーブルについて共通のプラットフォームに同意したという点が大きいと思う。開発のためには、途上国側には各国のオーナーシップ、政策、ガバナンスが重要であり、それが満たされる国に対しては米、EUなどドナー側から資金援助を行うとのコミットがなされた。ただし、当然ながらドナー側は途上国のガバナンスが重要との点が定着したと見ている一方、途上国側ではドナーがお金を出すコミットをしたという認識を持っており、両者にすれ違いも見られる。

     今回の開発委員会に先立ち、ウォルフェンソン世銀総裁は、これからは実施(implementation)が大事と強く主張している。開発のための方法論(modality)が形として出来上がり、今後はどのように実行するかが課題という認識である。開発委員会の議題は、正にこの方法論の論拠となる開発効果(development effectiveness)とパートナーシップについての分析、そして教育の2つが中心となった。

(2)評価と課題

 開発効果(Development Effectiveness)とパートナーシップについては、世銀事務局より過去の世銀による開発支援の効果を検証するペーパーが提出され、その中で開発支援の成功例を見るとオーナーシップ、政策、ガバナンスが重要との結論になっている。開発委員会では、このように過去上手く行った方法論が確認された。

 世銀としては、モンテレイ会議以降、オーナーシップ、政策、ガバナンスが十分に満たされた国がバイ、マルチの資金を効果的に自らのストラテジーに沿って利用していくという枠組みは、正に世銀が行っているCDF、PRSPプロセスの真骨頂であり、今回明確な位置づけが与えられたという認識だと思う。

 教育については、ミレニアム開発目標(MDG)から教育を取り出した形で、2015年までの達成に向けて具体的行動をとることの重要性が改めて確認された。

 今後注目すべき点としては、開発効果のペーパーの中で結果重視(result-oriented approach)、すなわち援助の結果を検証して政策にフィードバックする必要があるとの主張がなされていることが挙げられる(コミュニケ第6パラ半ば)。今般、世銀の中でこれを実施するためのチームが新たに立ち上がり、進捗状況を報告することになっている。これは、MDGと軌を一にするものとも捉えられる。

(a)Donor Input

(b)それを受け、各援助受入国がどのような政策を実行するかというCountry Input

(c)各援助受入国による初等教育修了率向上といったCountry Output

(d)各援助受入国での識字率向上といったCountry Outcome

を計測してのドナーのインプットを有効に行うためのフィードバックを行うということである。

 もう一つの点は、オーナーシップと行ったときに視野から消えてしまいかちな、問題に直面する低所得国(Low Income Countries Under Stress、LICUS)への対応である。以前のアフガニスタンなどのように国際的に認知された政権がない、あるいは機能していないため、世銀やバイも含め支援が全くストップしてしまっているような国については、オーナーシップといったところで限界があり、どのように支援していくかをを考える必要がある。今般の開発委員会では取り上げられなかったが、今後検討されていくことになろう。

(3)エピソード

 今回の開発委員会特に面白かったやりとりを紹介すると、オニール米財務長官が、「月曜朝の試験(Monday morning test)」という面白い議論をしていた。つまり、1週間勉強したことについて、翌月曜日の朝に、それを発展させて更になにが出来るか論じるというテスト受けたら答えられないということが良くある。つまり開発効果について物事がわかったつもりでいるが、それを実施に移そうとすると分からないことがたくさん出てくるということ。これまで開発に対する処方箋を描いては失敗してきたとした歴史があり、今回のアプローチが成功するものかは誰にもわからない。一般論ではなく個別の国の状況を十分に見る必要があり、皆が知った風になるのが一番危険であると指摘した。これに対し、これまで開発について積み重ねられてきた経験は信頼に足るものであるという反論もあった。また、世銀内部の議論では、途上国に対する処方箋はいろいろな構成要素を混ぜ合わせることにより結果が大きく違ってくるものなので、実際にやってみないと本当に成功するかはわからず、世銀は開発戦略について謙虚になるべきである、という意見もあった。

 また、教育について、我が国からは、教育問題はサニテーションなど一般社会インフラとは違う性格がある。教育特に初等教育は文化、人々の生き方と強く結びついていくものであり、画一的なアプローチではなく、慎重に対応すべきというコメントがあった。

2.2002年春の国際通貨金融委員会(IMFC)の評価と今後の課題
 (IMF日本理事室審議役・柳瀬護氏)

(1)低所得国への対応

 今般のIMFCを中心にしつつ、それを超えて、そもそもIMFが低所得国に対してどのように関わるかという問題についてご紹介したい。近年IMFでは、どのように低所得国に関わっていくかについて議論を積み重ねてきたが、最近ようやくIMFとしての立場が固まった感がある。それは、今回のコミュニケに示されている通り、「低所得国がきちんとしたマクロ経済政策を取れるよう上手にアドバイスする」というものである。この根底には、成長なくしては持続可能な貧困削減はあり得ないという認識がある。4−5年前にはIMFも社会セクターについて直接関与を深めるべきという議論もあったが、最近は減ってきている。その意味で、IMFと世銀の役割分担が明確化してきた。PRSPというきちんとした形で国際社会で共有枠組みが出来てきたので、貧困削減のためのIMFの役割は、そのマクロ経済面での進捗状況の確認・支援に特化していくということで大まかな合意がある。

 それでは、IMFが低所得国のマクロ経済政策に関与する際に何を見るかということであるが、この点はコミュニケ第12−13パラに簡潔に示されている。PRSPアプローチは極めて適切であり、IMFとしてPRGF(Poverty Reduction and Growth Facility)でサポートすべきという点を踏まえて、PRGFの運用に際して課題として残っているのは、(a)持続的成長の要素(source)を議論してIMFとしても専門性を高めること、(b)債務救済を受けて公的資金管理を十分に確保すること、(c)IMFが低所得国に対してマクロ経済政策を提示する際には、貧困・社会へのインパクトをきちんと踏まえて行うとともに、貧困・社会分析については他の機関と協力しながら行うことである。これらの点については合意が見られた。

 また、低所得国がマクロ経済政策を行う上で必要な基盤が備わっているかという点が大事であり、IMFとしても従来以上に技術支援を行う必要があるという問題意識も共有された。ケーラーIMF専務理事はアフリカに技術支援センターを作るというイニシアティヴを打ち上げており、現在世界各国からお金を集めている。

(2)先進国の市場開放と補助金撤廃

 他方で、低所得国が成長を実現するためには先進国の役割も重要である。IMFとして最近打ち出しているのが、先進国には資金提供に加えて市場開放・補助金撤廃が重要という議論である。ケーラー専務理事も機会あるごとに、先進国が途上国を助けるのであれば市場開放・補助金撤廃を通じて支援すべきと強く主張している。

 先進国では多額の補助金が農業部門に与えられている。この補助金を撤廃すれば、ODAを出す以上に経済効果があるのではないかと指摘している。

(3)コンディショナリティ

 IMFのコンディショナリティについては、経常赤字をどれくらいにせよ、財政赤字をどれくらいにせよ、国有企業を民営化せよといった条件の中で、従来相当不必要なものがあり、削減すべきではないかという問題について検討が行われてきた。

 これは理事会でも議論したが大体方向性が固まり、IMFが目的とするマクロ経済上の目的を達成するために必要な条件に限るべきであり、マクロ経済以外については世銀等他の機関に移行して、ある程度コンディショナリティを減らすべきということになった。その裏返しだが、途上国のオーナーシップが益々要求されることとなった。

(4)HIPC

 HIPCについても議論があったが、HIPCの中には債務救済をしても、再び持続可能性が問題となる国もあるのではないかという疑いが出てきた。IMF・世銀とも同じであるが、もう少し債務持続性(debt sustainability)の精度を上げる必要がある。


3.席上及び直後に電子メールで出された意見

(1)全般的評価

(2)国内世論との関係

(3)実施とキャパシティビルディング

(4)教育の扱い

(5)PRSPの扱い

(6)ミレニアム開発目標(MDG)とアジア支援

(7)その他

【参考資料】

世銀IMF・2002年春会合公式ホームページ
http://www.imf.org/external/spring/2002/index.htm

世銀・2002年春会合関係文書
http://www.worldbank.org/springmeetings/

IMF・2002年春会合関係文書
http://www.imf.org/external/spring/2002/imfc/list.htm

開発委員会での日本国ステートメント
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/ko140421g.htm

IMFCでの日本国ステートメント
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/ko020420a.htm

G7声明・行動計画
http://www.mof.go.jp/jouhou/kokkin/ko140420.htm

(以上)