「ドナー調整会合-日本はいかに関与すべきか-」

Dev Forum

2002年3月4日

 

   

 2002年3月4日、ワシントンDCにて、政府、実施機関、世銀グループ・米州開銀・IMF、企業、NGO、シンクタンク・大学、メディア等の経済協力関係者約30名が、ドナー調整会合において日本がいかに関与していくべきかについて、昼食を交え意見交換を行ったところ、概要は次の通りです。
 

目   次

【ポイント】
【本文】

1.ドナー調整会合  
-日本のより良き開発協力支援のために・世銀現場からの視点

2.あるJICA在外事務所員の懺悔録 
-ドナー調整会合はかくも難しい

3.出席者より席上及び直後に電子メールにて出された意見

(1)開発援助の目的について

(2)本省・本部と現地公館・事務所の関係のあり方について

(3)ドナー調整会合の実態について

(4)ドナー調整会合への対応の姿勢について

(5)人員体制について

 

 

【ポイント】

●ドナー調整会合では、新規や実施中のプログラムについて、非公式ながらかなり実質的な調整が行われている。これは、現地のドナー・コミュニティの動向を理解するとともに、日本の援助方針を示して効果的な実施を確保するための格好の機会である。近時はPRSP(貧困削減ペーパー)プロセスがオープンになっていることから、ドナー調整会合の重要性は一層高まっている。

●他方、我が国は、他の主要ドナー国と比較して、ドナー調整会合におけるプレゼンスが格段に低いのが現状である。現地での対応を容易にするための各種の方策が整備されつつあるが、未だ改善の余地は大きい。

●構造的な問題として、東京と現地、政府と実施機関、現地における大使館と実施機関事務所との間で、ドナー調整会合への関与についての責任とリソースが分散しているため、誰がイニシアティブをとるべきか必ずしも明確でないとの状況が存在しており、このような体制を早急に改革していくことが必要。他方、それを待たずして、バングラデシュにつき東京と現地の関係者のネットワーク化が進められるなどの前向きの動きが現場から出てきている。

●今後、組織上の改善(役割分担の明確化等)や人員体制の拡充等に向けて努力しつつ、既存の体制のもとでも、実施中の開発援助が少しでも効率的・効果的に使われるよう、東京と現地の双方の国別経協関係者がイニシアティブをとって情報・知見の共有を図り、ドナー調整会合を積極的に活用していくことが望まれる。

 

 

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【本文】 

1.ドナー調整会合
-日本のより良き開発協力支援のために・世銀現場からの視点

  世界銀行 欧州・中央アジア局 泉 泰雄氏

  プレゼン資料ホームページ (http://www.yasuoizumi.net)

 (1)今回の視点

  私は、世銀の中でも欧州・中央アジア局(ECA)という、中央アジア・旧ソ連・東欧・トルコの28か国を対象にした1800人のオペレーション部隊に所属している。ECAには他の地域局同様にカントリーユニットとセクターユニットがあるが、そのセクターユニット(ECAの場合は5つ)の1つであるPSD・FSD(民間セクター・金融)に所属している。ここは、総勢70人、コンサルタントを入れると100名の小部隊であるが、私はそのセクターマネージャーをやっており、過去3年半で対象国の半分程度を訪問した。

  今回のテーマであるドナー調整会合については、ワシントンと現場との調整、他の国際機関等との調整、そして現地での出席といった実務を行ってきたが、その中で日本がどこにも入っていない。一日本人として世銀の中で働いている中で、トップドナーかつ世銀の大株主である日本が一切出てこない現状に素朴な疑問を持ったので、今回この場で私見を述べたい。

 自分の話には様々な限界がある。開発課題の中では、貧困・教育・ジェンダー・農業開発等が多く取り上げられるが、民間セクター・金融といった課題はこれらの中では劣後するものであり、その中での日本のプレゼンスは典型的ではない点もあろう。また、日本から見るとアジア・アフリカとはことなり、遠い欧州・中央アジアといった国々なので、若干割り引いて考えて良いのだろうとの期待感は持っている。

(2)ドナーの活動

 開発協力について、ドナー各国は当然それぞれ独自の政策を実施している。また、国際機関への出資を通じた、また信託基金(トラスト・ファンド)を通じた開発・協力を実施している。

(3)調整の必要性

 しかし、各国とも支援の実効を挙げるとの観点から、独自の路線からの開発協力も継続しつつ、他のドナーとの調整・協調も盛んに行っている。この中で日本がいないのが大変気になる。

 支援に際して、どの部分が必要か何をやるかどうやるか何時やるか(通常は支援を表明してから時間がかかり、実施のスピードにもずれがある)、相手国のキャパシティは十分か(ドナーにいくらやる気があっても相手国のキャパシティの制約があり上手くいかないことがままある)、重複した場合にどちらがやるか、といった調整が、支援の実効を挙げる上で必要となる。

 そのために、ドナー調整会合が、95%現地ベース、若干ワシントンベースで開催され、意思決定機関ではないものの、原則ドナー同士、時には相手国政府関係機関も入り、支援の効果を上げるための実質的な調整が行われる。

 世銀は国別支援戦略(Country Assistance Strategy、CAS)を作成しているところ、必然的なものでないが、このCASはどうやら各ドナーにとっても一つのベンチマークになっている。この結果、世銀は多くの場合にドナー間の調整を行う役割を黙示的(implicit)に与えられている 

(4)世銀CASプロセス-政策決定過程での調整

 ここで、世銀のCASプロセスについて説明したい。世銀は、各国政府向けのプログラムについて2-3年毎に中期的な見直しを行っている。この際に、世銀として何を行うのか大筋を示した基本プログラムを決める。

 このプロセスは、最近は包括的開発フレームワーク(Comprehensive Development Framework、CDF)というアプローチもあり非常にオープンなものとなっている。かつては世銀と各国政府だけの密室の議論だったが、最近は当初段階から幅広いステークホールダーに声をかけ、NGOも参加する中で進められている。各担当部局で実際にCASを書いている人も、ドラフトを主要ドナー国・機関と交換しつつ、各ドナーが何をやりたいかという動向・意向を注視して、必要な調整を行いながらやっている

(5)世銀の立場の変化-ドナーとの協調の一層の必要性

 世銀がこのような転換をした理由は、端的に言えば、猛烈な予算・スタッフの削減が行われたからである。1980年代後半までは、世銀が単独でリードしていれば出来る時代であった。しかし、世銀の中から見ていても、今の世銀には予算も専門性もない。背に腹は代えられない状況の裏返しとして、このようなドナー調整を行っている。世銀が自らやる時代は終わり、むしろ、支援の実効性を上げるためには、各種の開発支援をやりたい各ドナー国・機関、NGOなどステークホールダーと一緒にやっていきたいという大きな変化がある。

(6)ドナー調整会合-実施中プログラム調整 

 それではドナー調整会合はどう行われるか。これは国により異なるが、現地ベースで世銀事務所長が黙示的に開催をアレンジする役割を期待されているというのが、現地ドナー・コミュニティの一般的な認識である。少ないところでは年に2回、盛んなところでは2週間に1回開催され、ワーキングレベルを含めて盛んに議論が行われる。これは意思決定機関ではなく、あくまで連絡調整機関であり、各ドナー国・機関のプログラム・プロジェクトが進行し、また進行していない状況などについて情報交換している。

  ここでは、関連しあう内容を実施している機関同士の調整、特に実施のタイミングの調整が行われる。その際、各ドナー国・機関によって支援のスピードにかなり違いがあることに留意する必要がある。米国(USAID)は極めて早い。あっという間に人が動いて、米国が「やる」という時には既に「やった」と思わないとまずい。自分が関係した為替の決裁システムを例にとると、「やる」と言った時には既に実行部隊がいて活動しており、内容を見るとドナー全体の方向性とは全然違うことをやっていたりする。これに対し、EUは極めて遅く、「やる」と言ってから最低1年ないし1年半はかかる。

(7)ドナー調整会合-新規プログラム調整

 また、実施過程にあるもののみならず、各ドナー国・機関の新規プログラム・新規政策についても、CAS策定の文脈に限らず議論される。例えば、EUからは新規EU加盟国に対して法制面の統合を求めているといった議論が紹介され、受入国がEU加盟のプロセスの中でどこにあるかを説明するが、このような話については世銀にせよドナー各国にせよ誰も知らないことが多い。また、各ドナー国・機関が検討中の新規プログラムについても内々の説明がなされるが、それを通じてお互いに何をやりたいかという思惑が明らかになる。この結果、ドナー調整会合は、世銀がCASを作成するプロセスの中で、ボトムアップのインプットが行われる場ともなっている。

(8)ドナー調整会合-受入国政府代表

 更に、ケースによっては受入国の政府関係者も呼ぶこともある。これは、受入国側に参加してもらい、援助の実効性を上げるためである。例えば、ドナー間で議論して複数のオプションに絞り込んだ上で、公式の会合は別途やるとの前提で、受入国政府関係者ににがタマを投げて予め検討するよう依頼するといった場合がある。逆に、受入国政府関係者より、現地でのマネージメントを行っている観点から、世銀、米国(USAID)、英国(DFID)に対してほとんど同じだが微妙に異なる報告義務を課せられているのでドナー側で調整してほしいといった注文が出されることもある。

(9)ドナー調整会合-ECAのケース・参加者

 それでは、世銀の欧州・中央アジア局(ECA)の関係するドナー調整会合にはどのような人が参加するかといえば、もちろん国により、場合により異なるが、一般的には次の通りである。

世銀(所長以下テクニカルスタッフ全員、また出張中のスタッフ、コンサルタントも参加することもある)

USAID(場合により大使館からも)

EU(TACIS)

EBRD

各国代表(英国(DFID)、ドイツ(GTZ)、オランダ(KfW)、スウェーデン、スイスなど主要ドナー国代表が大体揃う)

各国の支援プログラムで契約しているコンサルタントの一部

NGO

更に場合により次の参加もある。

受入国政府代表(関連省庁)

世銀プログラムPIU/PMU代表(注)

(注)PIU: Project Implementation Unit, PMU: Project Management Unit。世銀プログラムを実施するために支援受け入れ各国政府が、その多くは主務官庁の中に設置する、独自の世銀プログラム実施ユニットあるいは、プログラム管理ユニットとでも呼ばれるもの。ここが、通常、世銀プログラムの実施についての、世銀からみた窓口となり、いったん中銀等のアカウントに入った Investment Loan, Technical Assistance Loan がこのユニットの特別勘定にはいり、プログラム上の運営・支出行為を行う。

(10)  ドナー調整会合-ECAのケース・調整の実際(事例1)

  ここで、具体例を2つ紹介したい。第一は中小企業支援の事例である。中小企業支援は、ECA諸国で人気のある産業・金融支援プログラムのひとつで、各ドナー国・機関とも注力分野となっている。

  ECA諸国では、1990年代に民営化という大きな課題がある程度進捗し、その後一部諸国はEU加入に向けて動いている。中央アジア諸国を中心に民営化が依然大きな課題として残っているが、その地域も含め中欧・バルカン諸国では、特に中小企業の民営化はほぼ終了したものの、そのあとの発展が思うように進んでいない。現在、各ドナー国・機関も中小企業支援をどうするか悩んでおり、ドナー調整会合でも検討課題となる。ある国で、もめたが最終的に棲み分けができた例を説明したい。

  米国(USAID)は、インキュベーターの設置とそのための技術協力を行う。EUは、地方開発プログラムとして各地域にビジネスセンターの設置・運営を行う(若干うまくいっていない)。英国(DFID)は、中小企業経営コンサルタントを派遣し、受入国政府の中小企業局嘱託として個別経営指導を行う(この分野は日本と重複している)。世銀は、工業規格・製品検査・輸出振興政策などの政策実施を担当する。決定した訳ではないが、実際上はそのような形でどんどん進んでいる。

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(11) ドナー調整会合-ECAのケース・調整の実際(事例2)

  第二に、金融セクター支援の事例である。先程言及したように、米国(USAID)は、送金・振替システム構築、資本市場整備に取り組んでいる。私見では資本市場整備など現時点では不要と思うが、いずれにせよ米国としてやりたいことがはっきりしている。EUは、金融サービス法制整備、EUのAcquis調整(注:EU加盟予定国がEU法制に合わせて国内体制を整えるための調整)を行う。英国など各国は、コンサルタントを活用し、世銀やUSAIDと一緒に、個別投資案件をフォローしている。世銀は、不良債権処理、担保物権法等法令整備・環境整備を行う(但し送金・振替システムと資本市場についてはUSAIDに思うようにやられて形ができていない)。

 (12)見えない日本の存在-現地大使館の存在

  以上の通り、ドナー調整会合は、インフォーマルとはいいながらもかなり実質的な議論が行われ、誰が何をやるかが明確になるとともに、参加する各ドナー国・機関はそれぞれ上層部に報告し、各自の援助実施に際してのインプットとなっている。そこで日本はと言えば、数カ国でドナー調整会合に出席させてもらったが、1回も出てこない。冒頭に断った通りあくまで一事例ではあるが、思い余って大使に会いに行って誰かに参加してもらうよう要請したところ、日程上不可能であり、また大使館スタッフの能力がないということを理由に、参加者を出してもらえなかった。そこで日本の実施機関の現地事務所を訪問したが、当地でのドナー調整は大使館がやることになったいるから出席しないとの回答であった。

  現地大使館・事務所では、受入国政府とのバイラテラルな議論・交渉に主眼が置かれており、世銀とは個別に現地事務所との接触はあるものの、ドナー調整会合には関心が薄い。出ても何になるのか、何も言うことはないという認識である。基本的には、本省・本部からの指示待ちというのが大部分である。

 (13)見えない日本の存在-ドナー・コミュニティから見て

  当然にして、ドナー・コミュニティは、日本に対して不思議に思っている。日本は最大のドナー国であるにもかかわらず、なぜ姿が見えないのか。世銀経由のみならず、各種プログラムを実施しているにも関わらず、現地ドナーとなぜ協議がないのか(開発効果の改善には関心がないのか)、日本の大使に会ったことはあっても、なぜワーキングレベルでの接触がないのか。

  また、日本の経済発展の良さを活かして、産業・経営・金融面で支援するということをなぜやらないのかという点につき、ドナー調整会合で何人もの人に指摘された。昨今世銀においては、保健、教育、貧困等の社会的問題のプライオリティが高くなってきている現実から、産業・金融部門が劣後するのは仕方がないが、自分の経験から見ても、日本は産業・経営・金融面でいろいろと貢献できる部分が多くあるとみている。また、なぜ日本はせっかく経済面で、これだけ世界をリードしているのに、また、経営手法としても、世界に誇るものをもっているにもかかわらず、この方面に支援をしないのかという疑問は、他のドナーからもよく聞かれる質問である。人道支援というものを第一に日本政府は掲げているのを否定するつもりはないが、ドナーというコミュニティから見た期待感が、この産業・金融面で高いということを認識してもらいたい。

 (14)今後を展望して-日本のより積極的なかみこみ

  以下今後の展望であるが、もう少しドナー調整会合を上手に使ったら良いのではないかと思う。ドナー調整会合は、インフォーマルな形での協議機関であり、現地ベースでのドナー・コミュニティの動向を理解するには、かなり有効な組織である。それと同時に、日本の政策の方向を、受入国政府を含めた現地の開発コミュニティに正式に示すに当たり、インフォーマルに協議し、また他のドナー国・機関との調整にも活用できる格好の機会である。これは、大使館等の政府のみならず、日本の実施機関やNGOにとっても技術的分野での協力・調整のための良い機会である。

 (15)見える日本-支援・援助の最終結果だけでなく、政策検討段階から

  顔が見える日本、顔が見える援助というが、供与物資・施設といった最終結果があるので見えるということだけではなく、政策検討の段階から見えた方がよいのではないか。CASプロセスはオープンになっており、またPRSPプロセスでも当然議論は展開できる。これらは支援プログラムを包括的に議論する良い機会であり、早い段階からの日本の政策表明・協力・コメントを行っていくことが望ましい。

  早い段階から積極的に関与することにより、日本自身が持っている開発支援ツールのみならず、世銀のPHRDなどの信託基金、更には人的支援(日本人職員コンサルタントの増員・活用)等にも幅広く活用でき応用範囲が広がる。

  ドナー調整会合への積極的な関与により、現地ドナー・コミュニティでの、日本からの支援内容の重さに見合う認識・信用を確立してほしい。また、他のドナー国・機関との現地ベースでの情報収集を、本省・本部サイドでの支援・協力政策立案や、各国間調整にも活用し、より効果のある政策実施を期待したい。

 

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2.あるJICA在外事務所員の懺悔録
-ドナー調整会合はかくも難しい-

世界銀行信託基金局 山田浩司氏

 (1)プロローグ

  自分は現在JICAからの出向で世銀に勤務しているが、1995年10月から98年5月まで、JICAネパール事務所で他のドナーから随分苦しめられた辛い経験をした。泉氏は他のドナーから見ての日本の課題を説明したが、自分はなぜ日本ができないのかという言い訳にも言及しつつ、今後どうしたらよいのか建設的な提案も交えて話したい。

  JICAに就職して2年6か月でネパール赴任となった。直前は予算要求が担当で、事業の担当は現場が初めてのスタートであった。自分のネパール離任後、JICA内で改善の機運が高まり様々な措置がとられたので、これから述べることは、現状を説明するというより、数年前の自分の経験に基づいて、なぜそのようになったのかという構造的な課題を抽出しようというものである。自分の努力不足もあり、政府を批判するつもりは毛頭ない。

 (2)ネパール基礎初等教育プロジェクト(BPEP)

  ネパールでは教育セクターを担当するように言われた。このセクターでは、基礎初等教育プロジェクト(BPEP)という、(ア)教育へのアクセスの改善、(ロ)教育の質的向上、(ハ)教育行政運営実施能力の改善を目標に掲げた国家プロジェクトが動いており、日本は学校施設のコンポーネントに無償資金協力で参加していた。世銀は融資により上記の3つの柱をカバーする支援を行っていた。その他、デンマーク(DANIDA)、UNICEFも関わっており、後のフェーズではEC、フィンランド(FINNIDA)、ノルウェー(NRAD)も参加した。このために、大きなドナー調整会合が開催されていた。

  日本は、具体的には学校校舎増設のための資機材供与を行っていた。ネパールは山あり谷ありのところなので、全ての校舎現場まで機材を運ぶのは難しく、各郡内に設定されたデポセンターまで日本が搬送し、そこから先は住民参加でやっていた。このため、バスや山羊(!)のチャーター代や、現場での熟練労働者の賃金・お茶代等のシードマネーが、世銀の貸付金から1校舎当り定額支給されていた。このように、プロジェクトの実施に際して純粋の日本の資金だけでなく世銀の資金も使われていたことについて、JICA本部では認識がなかったが、スケールアップすればするほど世銀との調整が必要になる構造になっていた。

  1998年の日本のODA白書を見ると、対ネパール無償資金協力が1年空白となっている。これは、1997年の日本・ネパール政策協議に際し、無償資金協力案件の瑕疵報告書をネパール政府が適切に提出していなかったので、全ての無償資金協力がストップしたことによるものである。その結果、1998年から始まる筈だったBPEP第二フェーズには日本からの協力がすぐに行われなかった。この過程で、日本の支援額がなかなか決まらなかったことから、世銀で手配するシードマネーの額を決めることが出来ず、世銀側がいらだちを深める結果になった。

 (3)本部派遣前オリエンテーション

→『ドナーとは普段からお付き合いしておきなさい』

  以上が基礎初等教育プロジェクトの概要であるが、赴任前から話を始めると、2年6か月の職員を赴任させるにあたっての本部での派遣前オリエンテーション(30分程度)では、「ドナーとは普段からお付き合いしておきなさい」、「事務所からなるべく外に出なさい」、「コミットできない場合はどのように上手く言うか」等の援助協調に関する一般的なアドバイスがあった。他方、他のドナーの援助メカニズム・国別援助計画等については全く説明が無かった。また、ドナー連携案件についても説明もなく、各種スキームの説明のみを受けて、あとは現地にいって勉強せよといわれた。

 (4)在外事務所(赴任直後)

→『あなたには教育セクターを担当してもらいます』

  赴任して初めて、教育セクターを担当せよと言われた。ネパールに行く前に勉強せず、なおかつ教育セクターだけでなく社会林業のプロジェクトも担当することとなった。ドナーとの付き合いをせよと言われていたが、専門家等の人絡みの案件が動く場合には、その案件調整に追われ、ドナーとの対話に時間を割くことは難しかった。

  JICA事務所でのファイリングも、プロジェクト別になっていて、ドナー調整会合やセクター別とはなっておらず、また議事録も見あたらなかったので、出ていなかったケースも多かっただろうと思われた。教育セクターの勉強をしなければいけないと思っても自分で勉強するための適当なツールは無かった。(現在はeラーニング等が進んでいるが、当時はそこまでのものは使えなかった。)

 (5)初めてのドナー会議

→『とにかく行けばいいから』

  そして、初めてのドナー会議に出席した。とにかく行けと言われたので、資料はないかと調べたところ、無償資金協力の「基本設計調査」の報告書くらいしかなく、それだけ目を通して出席した。DANIDAはアドバイザリーチームを5人をいれていたが、当時はそれも含め参加者のバックグラウンドもわからなかった。

  初めて出た会議は、施設を整備することが児童と教師の学習にどういう影響をもたらすかというプレゼンであった。最初のうちは、これがBPEPの中間評価で使われるという位置づけすらわからなかった。校舎増設に対する支援は世銀と日本が行っていたが、その調査はDANIDAが行っていた。日本の建物は単価が高いと言われていたが、それを正当化させられる程、教師と児童の授業に対する取り組み方に有意な影響があったことを説明する必要があったと思う。その調査をDANIDAがをやっていたのは日本として助かったという面もあるが、逆に日本として好ましくない調査結果が出ていたかもしれなかった。最終的には評価が記されておらず問題は生じなかった。
 

 

(6)世銀/DANIDA/UNICEF合同中間評価

→『皆の言っていることがさっぱりわからない』

 その後、中間評価についての議論が行われた。出席者には、教育コンサルタントとして雇われたネパールの大学教育学部の教授等、教育エキスパートだらけであり、自分は整備しかわからず、話の全体像がわからなかった。また、欧米の議論のスタイルとして、全体の枠組みから「議論のための議論」のような形で話が説き起こされるが、これにも慣れていなかった。

 更に、BPEPについてネパール内で作成される報告書の分量が膨大であった。1000頁の文書を一週間前に渡されても読む時間はなかった。また、世銀の配布した文書に以前から「日本:1500万ドル」と書かれている一方、中間評価時の世銀の試算で、プロジェクト終了期間の6か月前に資金が不足する見込みとなっていたのでもしや1500万ドルと実際にその時点で日本が拠出していた無償資金協力実施額の差ではないかと思い随分心配したが、前の関係者も経緯がわからなかった。その後、日本が第二次小学校建設計画の基本設計調査を実施することを決め、それに基づいて次の交換公文を締結した際にさらに何億円かの数字がのったので、結果として問題にならなかったが、結局のところ経緯がよくわからなかった。

 更に、世銀のミッションとして来る人が「ジャパンファンド」といっていたが、当時は何のことかわからなかった。今は巡り合わせで、世銀でこれを扱っている部署に勤務している。

(7)JICA教育専門家

→『何かやっているようですね』

 このような中で、自分にとって家庭教師的なアドバイスを受けられる人がいれば良かったと思う。JICAでは、カリキュラム開発のための教育専門家が派遣されていたが、カバー範囲は中等教育だけ、ということになっていたので、初等教育については「何かやっているようですね」との反応で、アドバイスを受けるところまでいかなかった。(教育省の下部機関に勤務していたので、上手く動けば日本の得意技を生かし、中央省庁相手に政策支援を行なう他ドナーと連携協力を行なう余地はあるかもしれない。)

 なお、その専門家との関係で短期の専門家を派遣してもらおうと思ったが、そのタイミングはJICAの予算に左右される。東京の本部に働きかけたが、最初の年は予算不足で結果的には実施されず、次の年には予算が余裕あったので本部はむしろ歓迎との反応であったが、仕掛けた人は任期終了で帰ってしまっていた。それでも結局専門家の派遣は行われた。

(8)要望調査

→『そんなリソースが日本にあるのか?』

 その一方で、初等教育の政策に関わるため、政策アドバイザー型専門家派遣の要望調査を9-10月に仕込もうと思って取り組んだが、上司から「リクルートの当てがあるのか」と言われた。また、BPEPのキーパーソンを日本に研修で派遣しようとした時も、「受け入れ先の当てがあるのか」と言われた。結局、つてのつてで研修先を探したが、このような現場にいる人がさがすのはおかしい。

 BPEPは教員研修、学校等の様々なコンポーネントのあるプロジェクトだが、これについてJICA本部のどこが窓口になって同プロジェクトに対する支援策の検討を進めてもらえるかという問題もあった。当時はスキーム別だったので、無償資金協力事業部がセクターワイドアプローチ総括と考えて種種の報告を行なっていたが、受け取る方はそれをもらって当惑していたということを後で聞いた。無償しか扱っていない部署を通じて技術協力のアレンジを行うのは実際のところ難しい。勿論、現在は地域部ができ、この点は少しは改善されている。

(9)ローカルスタッフ

→『そんな急に「勉強しろ」と言われても』

 ローカルスタッフは、日本人派遣職員のロジ的バックアップが中心であった。日本人所員10人にローカルスタッフ7人がいたが、仕事の拡がりから見ると、10+7=10という感じであった。長く勤務しているローカルスタッフほどロジ(事務手配)が上手くなるが、主体的に動く人はいなかった。

(10)ドナーの苛立ち

→『JICAはいつになったら(無償資金協力に)コミットするのか』

 ドナーからは、何時になったら第三フェーズの無償資金協力にコミットするかを迫られ続けたが、JICAがそれを口にするのは難しい。無償資金協力の意思決定がJICAでなく外務省で行なわれていることを他ドナーに理解してもらうのは難しかった。日本側のスキームと世銀側のスケジュールが合致せず、日本側が建設校舎数を増やすほど調整が必要という構造だったにも関わらず、日本側の資金額がはっきりしなかったため、世銀側としてシードマネーはもう出せないというところまで議論が硬直してしまった。

(11)調査団

→『それは調査団の責任範囲外だ』

 自分のネパール在勤時に教育分野の調査団が2回派遣されたが、派遣時期についてはJICAの都合中心で、他のドナーと合わせることは行われなかった。一度、タイミングが合ってドナー会議の場に同席してもらうことが出来たが、調査団からは、「調査団の業務内容(TOR)に含まれていないので、自分たちは発言する立場にはない」と言われて、一体何のために調査団が来ているのか不満をもった。また、和文報告書作成まで随分時間がかかり、英文報告書の作成の予算はなかった。

(12)大使館

 →『私は忙しいから、報告だけして』

 大使館の経協班には3人いたが、当時関心の高かった保健医療分野に時間が割かれていて教育分野は見向きもされず、ドナー調整会合に出席するしてももらえなかった。また、大使館はJICA専門家とのつながりはあるが、専門家との関係で、正規の初等教育というよりは、コミュニティに近い識字・女性教育等のミクロの問題に関心が向けられていた。

(13)結局、何をどうすればよかったのか?

 まず、他のドナーの援助メカニズムへの理解があれば、自分も対応が違っていたと思う。

 また、現地ニーズにあった人材の配置が重要である。専門性もそうだが、派遣期間についても、2年半から3年でなくもっと長く見られる人が望ましい。

 現地事務所員をバックアップする体制も不可欠である。eラーニングが整備されつつあるが、それ以外も、青年海外協力隊員、JICA専門家、NGOなどと一緒に現地での勉強会をやればよかったと思う。

  メリハリのある国別援助戦略が必要である。日本は世銀に資金を出しているので、難しければ世銀にリードしてもらうべきであり、リソースのないところを無理してやるより、ここは自分がやるがここはまかせた、というメリハリが大事である。

  そして、現場での権限委譲、スキームの弾力的運用により、現場で何らかの調査する予算を自由に使わせてもらっていればよかった。

  更に、案件の有無に関係なく、日本のセクター担当者が誰なのかはっきりさせる必要がある。案件によって日本から出てくる「顔」が毎回違うのではなく、JICAの当該セクター担当者がフレキシブルに出張できるよう確保することが大事である。

  それをやった上で、あとは本人の努力である。

 (14)エピローグ

→『あれから4年が経過して』

  それ以後、国別事業実施体制、専門家公募制度、在外事務所派遣者の個別研修から国別課題別研修へのシフト、無償資金協力のソフトコンポーネント、PRSP対応(企画調査員、政策助言型専門家)、セクター開発調査・セクタープログラム無償、在外主導で使える事業予算(開発福祉支援事業)、分野別ネットワーク、他の援助機関への職員派遣等、次々と整備が進んでいる。これらの一層の活用を期待したい。

 

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3.出席者より席上及び直後に電子メールにて出された意見

(1)開発援助の目的について

 ●    この種の議論をしていて感じるのは、日本の存在感、顔、声、意義は何処にあるのかということである。この点につき共通の理解、基盤が必要である。私が一番気に入っているのはサミュエル・ハンチントン教授による喩えだが、世界を一つのマンションに見立てるというものである。日本は最上階に位置しているが、せせこましく家具内装品も豊かでない。米国は一番ひろいところで眺望が良い。この喩えで言えば、米国(USAID)の援助は、他の部屋で何が行われようと余り干渉しないが、中で核爆発が起こったり、マンション全体の廊下・柱・構造・水道・下水・空調など全体に影響を与えることが行われると困るので、その範囲で自分の利益になるような関与するというものである。自分としては、そのような具体的(タンジブル)な説明があれば必要性が理解できるが、日本がなぜODAの分野で存在感を発揮すべきか、明快な説明がかけているように思う。政治的なレベルでタンジブルに説明して、日本という部屋にいかなる形で利益があるかを考える必要がある。憲法前文の国際的に名誉ある地位とは、マンションの管理費を払っていれば済むのか、管理組合の会合で積極的に発言する必要があるのか、管理組合の役員として影響力をもつ必要があるのか、また、この地位のために必要なODAの額と使い方はどのような形態が望ましいのかについて、これまでの議論の枠組みにとらわれずに、世論レベルでの議論を深める必要があると思う。

 ODAは、供与・出資国側の国益と無関係にあり得ない。自分は世銀でパリクラブを担当しているが、各国担当者の話を聞くと、UDSAIDや英仏の担当官は、それぞれ結局のところ何が援助政策かということにつき焦点を絞っている。米国は「中東和平」、英仏は「歴史的・地域的な結びつき」を重視している。これは、税金が使われているので当然である。日本としても、供与・出資国として国益を考え主張しても許されるものであり、例えばプロジェクト・プログラムを考える際に、例えば「東南アジアの平和と政治・経済の安定」と目的・焦点を明確にした上で、マルチもバイも、どの国でどのようなプログラムを組むのが目的達成のため効率的であるかを考えればよい。なお、日本は縦割りで若干混乱が生じているかもしれないが、マルチとバイは競合すべきものではなく、各国を見てもマルチとバイは補完的に動いているように思える。その部分について改善の余地があると思う。

 援助受入国の利益に資する土俵の上で、日本の利益をいかに実現すべきか、そのために必要な作業(例えば、日本の既存の社会・経済システムの中で被援助国に貢献できる知的資源を被援助国に理解しやすい形に変換する作業)に支援を集中投資できないかと考えれば良いのではないだろうか。例えば、イギリスがPFIやガバナンスの重要性を世界に発信することは、その分野でイギリス国内に蓄積されている知恵、つまりは英国籍コンサルタントが世界で活躍する領域を拡大する上で役に立っている。また、グローバルな共通利益(common interest)に貢献する形で日本が売れるものをしっかりと把握することが重要だと思う。たとえば、日本が1950-70年代の急激な都市化に対応する過程で蓄積してきた様々な知恵は、欧米が蓄積しておらず、かつ、急激な都市化に直面している被援助国からのニーズの高い分野であり、この分野の知識をわかりやすい形に変換する作業は投資効果の高い分野である。こう考えてくると、グローバルな共通利益の形成過程に積極的に関わること、できればリードすることが、日本の利益を、グローバルな利益又はグローバルな公共財の一部として組み込んでいくうえで如何に重要な作業であるかが見えてくると思う。

 日本政府は、「ドナー調整」と「顔の見える援助」を対立すると捉えているように感じる。「顔の見える援助」が日本にとって重要な課題である限り、ドナー調整が日本のプレゼンス強化と矛盾しないとの点につき説得力のある議論と共通の認識が必要である。一つの方向性は、効率的・効果的援助、ひいてはそれによる被援助国の日本に対する評価向上のためには、日本が比較優位のある分野に特化していく必要があり、それにはドナー調整プロセスが有用と説明していくことと考える。

 本当に利他的な援助なんてどこの援助国でもやってないではないか、との指摘があったが、「他国がやってないから日本がやる、他国ができないから日本がやる」というのはどうだろうか。それが、日本の援助の「顔」になり得ると思う

 大野健一政策研究大学院大学教授は「論座」(2002年2月号)に寄せた論考の中で、我が国は開発援助に対する二正面作戦をとるべきとして、「第一に日本がリーダーシップをとりうるし、またそれが期待されているアジアにおいて、各国の個性と産業的関心を推進するための諸政策を実施し、生産基地としての地域ダイナミズムを高めるべきである。第二に、貧困や環境といったグローバルな開発課題に取り組むにあたっては、欧米との協調を強化するとともに、従来の受け身的姿勢を脱し、国際機関の政策自体に影響を及ぼすための外交的・研究的努力が強化されなければならない」と書かれている。私は、氏の指摘は、日本政府、政府機関、そして援助関係者が真摯に受け止めなければいけないことだと受け止めている。第一の指摘、つまり「日本がリーダーシップをとりうる」ことにおいて残された時間は多くはない。また第二の指摘は援助に携わる私たちが逃げてはいけないことだと思う

 

 

(2)本省・本部と現地公館・事務所の関係のあり方について

 ドナー調整会合、ひいてはドナーコミュニティーにおける日本のプレゼンスの低さ(日本国内に向かって「顔が見える」--recipientから感謝されていますよ--という宣伝は最近一生懸命やっていますが)に関しては、様々な要因がそれこそ複合的に絡み合った、構造的な問題があると思われる。そのうち、ドナー調整会合への関与について、仮に誰かがやらねばならないと思っていても(この点後述)結果が伴わない理由のひとつとして、若干厳しい物言いになるが、日本の組織特有(でもないのかどうかは寡聞にして知らないが)の「総無責任体制」のなせる業である、という側面を指摘しておきたい。

 ●以下、現体制を、誇張、単純化、偏見、勝手な想像に基づいて描写すると以下のとおり。

 (1)東京と現地との関係では、本省(ここでは外務省と仮定)は、こっちは忙しくていちいち箸の上げ下げまで指示できないのに、現地大使館は指示待ちばかりで、積極的に動いてくれない、と不満を持ち、現地大使館は、こっちこそ通常の業務で手一杯なのに、10いくつものセッションがある専門的な会合に、裁量は狭いまま本省からの対処方針もないまま手ぶらで出ろ、とはどういうことか、と不満を持つ。これは、多かれ少なかれ、実施機関においても、本部と在外事務所との間でも起こっているのでは。

 (2)役所(ここでは外務省)と実施機関との関係では、外務省は、個別のセクターの話までいちいちフォローできないので、それこそ実施機関がオーナーシップをもってやってくれ、と思い、逆に実施機関は、十分な権限委譲もグランドストラテジーの提示もないまま、どう対応しろというのか、と思う。

 (3)現地における大使館と在外事務所との関係でも、大使館は、多忙な中、いちいちセクター毎の調整につきあってられず、実施機関事務所に専門性(エクスパティーズ)があるはずだ、と思い、事務所の方は、現地において、他のドナーとの間の調整は、まずは日本側諸機関間の調整が必要で、無償から技協から円借といろいろなスキームがある中、やはり大使館が前面に出ないと困る、と思う。

 それぞれの言い分はそれぞれ一理ある。気持ちも分かる。共通して言えるのは、本省も本部も大使館も在外事務所も皆、人員が不足しており、忙しいということ。本省から在外事務所に至るまで、各々バイの援助に関するコア業務に単純にオントップで、片手間にできるほど、ドナー調整会合への関与は生半可ではない(時間という要素だけでも一目瞭然)。しかし、全体として見渡すと、誰かがやらねばならないとは分かっていても、それは自分ではない、と誰も責任をとるようにはなっておらず、あるのは無限に続く責任のなすりつけ合いのみ。厳しいかもしれないが、これを「総無責任体制」と言わずして何と言うか。

 このままでは、いつまでたっても活路は見えてこない。そうしているうちに、ドナーコミュニティーの間では、日本は来る、来ないにかかわりなく(別に統計がある訳ではないが、よしんば出席しても特段発言もしない場合が多いのでは)、少なくとも、積極的に貢献することもなければコミュニティーでの議論・コンセンサスを邪魔しない存在と認識され、果てには、セクター毎の現地におけるドナー調整会合にとどまらず、ステークホールダー間のコンサルテーション(これは世銀等仕掛ける側が世論形成をしたいときである)によって形成される「ドナー間の広範な支持」なるものが、日本抜きで、控えめに言っても日本も黙認したかのような格好になるようになっていく。この公式により、単に日本のプレゼンスが低くて日本人としてほぞをかむだけでなく、日本として種々の実害が生じてくることが分かる。

 従って、かかる体制にも、「聖域なき構造改革」が必要。本省、本部、大使館、在外事務所とアクターを分類すると、現在のピラミッド型の権限構造に鑑みて、この総無責任体制に対する究極的な責任はやはり究極的に権限が集中している本省にあると言わざるを得ない。一部心ある大使館ないし在外事務所が奮起して個別のケースで孤軍奮闘したところで、マンデートも中央からのガイダンスも支援もないままで、かつ、中央がそもそも関心を払わないと、正直者が馬鹿を見る、すなわち、かかる努力が報われない、次のステップへと活かされない、という事態を生む。その中央においても、実施機関本部よりも、やはり政策官庁の本省の責任は免れない。

 したがって、かかる「聖域なき構造改革」について、最終的には(手始めとして?)、本省自身が音頭をとるしかない本省-大使館、本部-在外事務所、役所-実施機関の間に思い切った権限委譲を行う必要がある。現在の体制の究極的な問題、つまり、なぜ本省はドナー調整についての司令塔として機能を果たす余裕がないか、という点を単純化して表現すると、(トラブルシューティングに追われるという宿命は如何ともし難いのでこの際割愛)本省は、大使館や実施機関が本来行うべき部分・また実際行っている部分にも重複等を省みずにマイクロマネジメントにかまけて、自ら大所高所の戦略を描く余裕を奪っている面は否定できないところが指摘できる。かかる部分にメスを入れることが突破口になると思う。

 そういった重複・無駄を思い切って取り払い、それぞれのアクターの役割分担を明確にする必要がある。思い切った権限委譲によって、大使館や実施機関に他のドナーと遜色ない程度のマンデートが与えられ、現地レベルでのクイック・レスポンスが可能になり、機動性が増した大使館・実施機関はより積極的にドナー会合に出席できるようになる。

 ●他方、ここで留意しなければいけない点として、2点挙げておきたい。

 (1)権限が委譲され、マンデートが増える、ということは、その分(もちろん、個々のアクター内の業務の合理化・ストリームライン化の努力は絶えず行いつつも)責任も、また、ある程度比例して業務も増える面もある。権限の委譲とは、(ある程度の)予算(決定権)の委譲(これが昨今議論されている透明性・説明責任の向上と矛盾しないようにすることは必要)でもあり、また、責任の委譲でもある。現地では、いちいち本省・本部にお伺いを立てる余計な作業が減る分、ドナー会合に積極的に出席することが求められる。大きな責任を負う分、現地でやるべきことにはプロの矜持を持って責任をもって完遂する覚悟が必要。さもないと、権限委譲を主張する資格はない。これは、役所と実施機関そのものの関係についても言える。(勿論、同時に、職員研修・オリエンテーションの充実等の方途は追求されるべし。)

 (2)大使館・実施機関(在外事務所含む)に拡大したマンデートが与えられ、現地ベース・実施機関ベースで判断・回答できる場面が増えることは結構なことだが、逆に、それが国・地域横断的にオールジャパンとして、不整合(結果としての「カラ手形切り」含む)を惹起させてはならない。そういった「暴走」が目立つようになると、それはそれで有害となり、古き良き中央統制の時代を懐かしむ声が出てこよう(丁度戦前の軍部・関東軍の「暴走」の結果、戦後「外交一元化」が叫ばれた如く)。権限委譲の推進には賛成であるが、他方、オールジャパンとしてのいい意味での「一元化」は維持すべき。さもないと、「総力戦」たるドナー間のしのぎを削る駆け引き・調整には太刀打ちできないどころか、バイの援助コア業務にも差し障りが出てくる。したがって、個々の局面における判断についての権限は委譲するものの、その分、本省(及び役割分担を明確にした上で実施機関本部)は、グランドストラテジーを描く余裕が出てくるはずなので、オールジャパンとして整合的に対応できるガイダンスをしっかりと出先に示し、また示すだけでなく、それをしっかりと浸透させることが求められる。(なお、日本としてのグランドストラテジーを描くにあたっては、「アパート論」において自らの役割を自認しているからこそ場合によっては大使館も出てくるアメリカと、我が国とのそもそもの異同等について、あるべき姿を含めて真剣に議論・決定する必要がある。この点は議論が拡散するのでここではこれ以上触れない。)

 ただし、以上の提言の前提として、本当にドナー調整会合への関与は誰かがやらねばならないのかどうかが問われる。本当に誰かがやらねばならないのであれば、それは日本自身が、という意味であり、すなわち、それぞれの役割に応じて、それぞれのアクター全てがやらねばならないのである。その結論に至るためには、そもそもオールジャパンで、ドナー間の援助調整に積極的に関与していく必要があるのか、といった点についてのコンセンサスが必要。これまでどおり個々の援助受入国政府との間の個別の交渉を積み重ねるバイの援助にかかる業務が円滑であればそれでよく、日本の援助投入量の大きい重点国では、日本抜きで何も決められないはずなので、考えも立場も異なるドナーのone of themとなってわざわざ苦労する必要はない(「現地ドナーの総意」、となると、「日本の顔」が見えない、少なくとも薄まる、と捉える見方も考えられないことはない)、という意見もあろう。仮に、日本として援助調整に巻き込まれる必要なし、との結論に達せば、それはそれでその旨、実施機関・大使館等へは明確に指示を出し、現在の中途半端な体制による余計な(と判断される)苦労を取り除く必要がある。現在散見されるように、仮に参加する場合でも「動向を注視して慎重に対応するべくハイレベルでない者を出席させる」といった、本腰でない対応は、ドナー調整対応・バイのコア業務、いずれに関しても、貴重な精力・リソースの浪費につながり、有害でさえある。積極的関与・没交渉いずれの結論に至るにせよ、効果的・効率的なODAの追求、という基本問題に行き着く。

 ドナー調整会合への対応に当たっては、「現地でのニーズや動向の把握」と「東京の本省・本部での支援の検討」を如何に効果的に結びつけるか、如何に円滑なコミュニケーションとナレッジマネージメントを実現するかが極めて重要である。更に、各分野につき誰が一番詳しいかを把握し、その人と連絡を取れるようにしておけば、迅速に対応できる。このための良い試みが、東京での「バングラデシュ開発援助ネットワーク」(事務局:JBIC)と、その直後に発足したダッカでの「バングラデシュ開発援助研究会」(幹事:大使館・JICA/JBIC事務所)である。このような形で関係者がネットワークを形成するための制度的障害はなく、要は関係当事者の意欲の問題と思われる。少なくとも主要な途上国においては、バングラデシュの例を参考にして、誰か勇気のある人が音頭を取って、このようなネットワークを次々と立ち上げ、本省・本部と現地公館・事務所の関係者間の連絡を密にすることにより、ドナー調整会合に効果的に対処してほしい。

 この関連で、日本の援助体制においては、世銀でいうところの「カントリー・ディレクター」(その多くは途上国現地の世銀事務所長)が不在であるため、円滑なコミュニケーション・意思決定とナレッジマネージメントを実質的に行う責任者が制度的に欠如していのではないかと思われる。外務省の組織を見ると、経協局国別計画策定室(長)は人員不足で個別国の全体像を把握することは困難であり、地域局地域課(長)は経協関連の情報・権限が不十分な一方で政務関係業務が多く、大使館経協班長も情報・権限が不十分であり、特に小規模公館ではサブというより調査団受け入れのロジ業務が中心というのが実態と思われる。当面は既存の体制を前提とする必要があるため、まずは大使館とJICA・JBICが連絡を密にしてイニシアティブを取ることが望まれる

 ドナー調整会合への対応については、外務本省のキャパシティを越えており、大使館で可能な限り行うというのが現状だと思う。ドナー調整のフォーラムの代表的なものとて、世銀が主催する支援国会合(CG)があるが、日本のODA予算が右肩上がりの時は、円借款の供与など、国内的な検討プロセスの梃子として活用してきた面がある。しかし、最近は予算削減に加えて、環境配慮や国内政治プロセスとの関係で案件あたりの手間暇かかるようになってきており、外務本省はそれに忙殺されている。アフリカなどではCGに加え現場のドナー調整会合が急増しているが、無償資金協力、技術協力担当部局は、元々こうした会合のタイミングに合わせた仕事をしておらず、参加するメリットを感じていない一方、円借款担当部局は、アフリカに新規借款が見込めない中で現地での会合をフォローする意味が薄れており、むしろ過去の債務処理(パリクラブ対応等)に追われている。本省の部局が国・地域別でなくスキーム別ということもあり、現地でのドナー調整の動きへの関与には、国毎に無償、技協、有償で分担して調整の受け皿となっているが、必ずしも積極的ではない。従って、こうした現地での動きに対しては、現地大使館の判断で適宜情報収集して相場観を持ってもらい、役に立つ情報があれば報告してもらう、というところが現在の対応状況である。

 ドナー調整会合とどのように付き合うか、何のために参加するか、現地への権限委譲という点については、情報収集・交換による現地の雰囲気やドナー・コミュニティにおける相場観をつかむという局面と、資金拠出のコミットメントを含む意思決定を行うかどうかという局面とを区別すべき。前者であれば、現地の判断で大いに参加していってもらい、細かく対処方針を東京と詰めずとも、柔軟に発言していけば良いと思う。他方、後者のように、現地公館・事務所に資金拠出の決定権限を委譲することには否定的である。

 資金の適正支出についての日本の納税者に対する説明責任は本省・本部が負うことになる。また、特に他ドナーとの協調案件は、過去に世銀やADBとの協調融資案件で問題となった事例もあるが、責任の所在があいまいになるおそれもあり、特に注意が必要である。資金拠出のコミットといった意思決定は東京の本省・本部で行うという原則を維持しつつも、日本のODAが現場の相場観とずれたものとならないようにするための情報収集の場として、ドナー調整会合に参加していけば良いのではないか。

 在外公館の経済協力担当官は、他省庁からの出向者や専門調査員など契約の人が多いため、外務本省担当官と阿吽の呼吸で仕事をするのは難しい。そうした中、外務本省の求める「ドナー調整にかかる情報収集依頼」は、誰の何のための情報収集であるのか、その背景にどんな戦略があるのかといった5W1Hが明確にないため、どのようにフィードバックしていけば良いのか分からないのが現状である。一方で、ドナー調整会合で文書になっていない情報がありながら、それをどう本省に伝達すれば活かされるのか見当がつかないもどかしさがある。(それに対し、むしろ現地・公館から5W1Hにつき示唆してもらう必要があり、ドナー調整会合が急増する中で、アイディアは現地からボトムアップで作っていく必要があるとの意見、方向性は東京で提示しないと現地では作業できないとの意見の双方が出された。)

 ODAの戦略について、マンションの喩えを使うと、日本は国際社会の一員としてアパート管理料を払う必要があり、それがODAを出す目的である、という位置づけという感じがする。従って、カネを出してしまうと、あとは現地でどうなるかは大きな関心事項とならない。米国のように、自分の部屋に不利益が及ばないことを目的にアパートの管理に口を出すのではなく、分担金であるという認識のため、結果についてフォローする気持ちが出ないそこを変えなければいけないという問題が存在し、中長期的には変えていく方向で声を大にして努力していくべきだが、短期的にそう簡単に変わるものでもない。そうであるなら、管理料という発想のもとであっても、多額のODAが途上国に出ていく現実を踏まえ、そのODAが効率的に使われるように工夫する努力が短期的には大事である。このためには、現地での調整プロセスを踏まえて、現地からの突き上げを行ってやっていく必要がある。本省からの調査訓令に援助戦略が織り込まれることを期待する向きはあると思うが、外から見ていると、外務本省の仕事は完全にキャパシティを越えていて、問題意識を持って在外公館・事務所に照会する能力も時間もないと思う。現地の公館として、このカネについてはこうすれば有効に活用される、こうすると他国と重複する等で無駄が出る、という示唆を本省に対して行い、それを踏まえて判断させるということが現実的である。

 改善策として、本部に例えばPRSP担当官を置こうという議論になりがちだが、機能しない。現状を見ると、日本政府・実施機関において、ドナー調整、PRSPといった問題について積極的に取り組み、知見があるのは、現場の事務所の人である。結局のところ、現地で自由にやらせてみるという方策が最初に来るべきである。

 ●    権限委譲の問題が鍵であると思う。現地事務所の意思決定の幅は相当狭い。また、ローカルスタッフの分野別専門性につき焦点が絞られていない。翻って見るに、本省・本部の側で、個別の被援助国につき現地事務所、現地スタッフに対して付託事項(TOR)が明確化されていない又はできないことに問題がある。

 個別セクターでのドナー調整について、事務所員が1人で抱えるのではなく、その所員を如何にバックアップするのかが重要である。定員・予算が増えないのは理解できるが、その制約のもとでも、前面に立つ事務所員をどうバックアップするかはいろいろ考えられると思う。例えばネパールの教育セクターは大学院でも研究テーマとして取り上げている人もおり、そういう内外の人的リソースのマッピングができていれば良かった。日本のみならず他国でも研究している人を知っていれば、その知見を活用して理論武装できた。

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(3)ドナー調整会合の実態について

 自分は東チモール支援に関わった。東チモール現地では、毎月現地ドナー調整会合が開催されたが、JICA事務所は立ち上がりから進出し、程なく在インドネシア大使館も現地に出張駐在官事務所を作って人を貼り付けた。自分から見ても、随分頑張っていた例だと思うので留意してほしい。

 ベトナムは非常に援助調整の活発な国の1つである。セクターごとに存在する十数個ある作業部会(WG)の幾つかで日本の機関が議長を務め、ドナー調整のリード役をやっている。このように日本の関与が活発な背景には、日本がベトナムで圧倒的な力を持っているため、世銀側からも日本に対して積極的にアプローチしていることや、(特にJBICの)現地事務所にそのようなマインドが強かったことがあると思われる。しかし、このような積極的な関与は、例外的と思われる。本部を含めた組織的なバックアップ体制は整っておらず、このようなことを他国の現地事務所を含めて広範に行うことは、人員等のリソース面で難しいと考えられているようだ。

(4)ドナー調整会合への対応の姿勢について

  ドナー調整会合等の会合は、赴任後の最初から全て理解できる性質のものではない。何回も出るうちに慣れてくるという性質のものであるので、とにかく積極的に参加し、国際社会における議論のボクシングの訓練を組むことが大事と考える。このような会議においては、重要なことが毎回決定されるわけではないので、わからないことがあってもすぐには困ることはない。ただし、逆に継続的に参加していないと、重要な場面で影響力があり意味ある発言ができない

 ドナー調整において、自国の強み・比較優位を必ずしも客観的なものとして意識する必要はない。比較優位は誰もが認めるといった性質のものではあなく、政治的な配慮が効くものである。また、最初に特定のセクターで支援を始めれば、そのセクターをとれるということもままある。調整会合に出ていれば、日本として適当な支援案件が見えてくるので、まずバイで手をつけた上で、いくらでも相互調整をやればよい。現場からは本省レベルの話が見えないことがあるが、逆に本省からは現場レベルの話は見えないので、それを動かす必要があある。

 やや書生論になるが、ドナー調整会合は受入国のために、受入国のことを考えて,議論をしているのだろうか。例えば、教育関係について、ドナー国は自分たちで教師を雇い入れて配置するが、それを必ずしも受入国の大蔵省にきちんと報告し調整していない。援助の続いていうちはともかく、将来ドナー国が引き上げた後、教員予算は受入国自身の財政が負担することになるが、ドナー国が高い水準の賃金で教員を雇い入れたため、それが将来の財政のサステイナビリティにひびいてくる。ドナー国はそれぞれの援助にナショナルフラッグを立てたい気持ちはわかるが、受入国の中長期的な成長を視野にいれて、どの分野に援助を注入すべきかプライオリティをつけるための調整、議論を行うべきそうしたドナー調整会合の在り方を日本から訴えるべきではないか。

 「忙しい」ことを援助調整に参加しない言い訳としない1つの方策として、職員の業績評価の基準として、いかに円滑な援助調整に貢献したかを加えるという手段があると思う。忙しいことが一種評価の基準となっている国際機関のような職場にいると、被援助国側の負担を軽減するための援助調整にいかに積極的に貢献したか、或いは自分の機関の援助の効果をさらに高めるために他ドナーの援助をいかに引っ張り込んだかによって、職員の業績が評価されるようなインセンティブ・メカニズムが日本にあれば、責任の押し付け合いではなく、少しは「俺が俺が」という逆の流れになるのではないかと思う。現状では、ドナー調整会合への貢献や、現地市民社会・NGOとの対話といった活動は、全く個人の裁量に任されており、やらなかったからといってマイナスの評価を受けることはない。ドナー調整会合への貢献の濃淡は人により差が大きいとの指摘があったが、半ば強制的にそちらに向けさせるには、インセンティブメカニズムを導入することが有効ではないか。勿論そのためには、職員全員が同様の基礎情報と目標達成手段を与えられておく必要があるので、組織内のナレッジマネジメント、現場への権限委譲を進めるべきであることは言うまでもない。

 現地でドナー調整会合に参加していた時、最も感じていたのは、現場の判断で自由になるカネをもっと欲しかったということであった。短期の調査を行なったり、アドバイザー的なローカルコンサルを傭上したり、和文報告書を英文化したり、それができれば、他ドナーにフィードバックできるものが増えるし、1人で、或いは頼りにならないベテランローカルスタッフと一緒にドナー会議に出て感じる孤独感は多少はやわらぐと思う。「顔が見える援助」が盛んに言われているが、ドナー間調整の中で存在感を示すのは、何も会議の場で発言することだけではなく、もっと基本的なこととして、自分達の政策、援助プログラム、その成果と評価結果、今後の方向性を、報告書、パンフレット、セミナー、ウェブサイト等を通じて他ドナーにも公表して、情報をシェアしていくことが必要だと思う。これは、援助の成果を本部、そして納税者に説明するためにも是非とも必要である。

 ●    メリハリのある国別援助戦略というが、世銀の国別援助戦略(CAS)はかなり専門的な知識が盛り込まれており、日本側からインプットするのはなかなか難しいのではないか。国全体と各セクターの理解を踏まえて、大使館や実施機関の事務所で十分なリソースを使って日頃からの情報収集を行うことが前提となる。

 ●    一国に対して教育支援のみならず、障害者支援、農業支援、医療支援等もやっているところ、その全てが必要ないとはいわないが、日本として本当に総花的にやらなければいけないのか疑問に思う。実際上は、現地の大使館・事務所で優先順位をつけざるを得ない。予算が右肩上がりだったので手広く広げることが可能だったかもしれないが、今では分野絞り込みが必要である。北欧などは1受入国2セクターと限定して進めてきている。日本として同様にできないのかと思う。

(5)人員体制について

  日本の在外公館・事務所における経済協力に関わる人員不足を、日本の消極的なドナー調整会合への参加の一つの要因ではないかと考えている人が多いとの印象を受けたが、そうした日本の援助に関わる人員数と他の援助国の人員数について少し前になかなか興味深い研究がある。ジョージタウンの大学のキャロル・ランカスター教授は、Aid to Africa (1999)という本のなかで、援助額に対しする正規職員数の割合について、世界のドナーの中でも最低水準にあるため日本内外で継続的な懸念をもたれており、1995年の数字で見ると、米国の半分の職員が米国より15%多いバイの支援を行っているとしている。このデータは少し前のものだが、具体的に数字を用いることで「日本の政府援助職員数は他に比べて圧倒的に少ない」という主張に説得力を加えているような気がする。

 海外における政府援助人員の不足の対処策として、日本大使館、JICA・JBIC事務所におけるインターン制度の充実を図るというのは如何。JICAのインターンシッププログラムでは毎年40名ほど海外に派遣しているようだが、こうした制度をもっと幅広く実施することで、正規の駐在職員のバックアップが図れるのではないだろうか。「学生ができることなど高が知れている」と思われるかもしれないが、USAIDでも充実したインターンシッププログラムを持っているし、米国の学生でもできることをなぜ日本の学生ができないのか、というのが私の信条でもある。学生、特に海外で勉強している学生の「機会費用」などは極めて低いのではないだろうか。

 インターン制度のみならず、日本のドナー調整会合への積極的な参加には、日本の援助機関の雇用制度全体の見直しの必要性もあるのではないだろうか。例えば、「外務省、JICA、JBICの職員採用試験は日本でしか行わない」等の方針があるとすれば、卒業後の海外実習経験者(例えば米国のPractical Training)や、予算上あまり日本に帰国できない留学生を採用試験から遠ざけているような気がする。よりフレキシブルな雇用制度を登用することで、より多くの人材を日本の援助サークルの中に引き入れることができるのではないだろうか

 ドナー調整にコンサルタントを活用する手法は、北欧のドナーがよく使っていた。コンサルタントは意思決定は出来ないが、節目の会議となると現地の大使館の公使が出席して、きちんと発言されていた。このことは、普段の会議はコンサルタントに任せていても、きちんとファンディングや政策提言に関わる部分では、本国ではなく現地の大使館で対応していたということを示している。勿論、世銀と共同でミッションを実施していたDANIDAは毎回母国から本部担当者が来ていたが、フィンランドやノルウェー同様少なくともミッションの主催者ではなくオブザーバーとして参加していた日本は、発言すべき機会にきちんと出席して発言していれば、後はコンサルタントの役務提供を受ける形でも良かったのではないかと今にして思う。そうした予算すら、いちいち1件毎に本部に申請しなければいけない体制であったこと、加えて、コンサルタントをこうして活用すること自体が「専門調整員」という予算項目の中でややイレギュラーだったこと、この予算自体が小さかったこと等、使い勝手は良くなかったことを覚えている。

 (以上)

 

 

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