「開発分野の政策研究・発信とネットワークの強化に向けて」

−大野泉・政策研究大学院大学教授との意見交換会−

 2002年2月22日、ワシントンDC・ODA改革ランチ幹事と国際金融情報センター(JCIF)ワシントンDC事務所の企画により、来訪中の大野泉・政策研究大学院大学(GRIPS)教授を招いて、開発分野の政策研究・発信とネットワークの強化に関する意見交換会が開催されたところ、概要は次の通りです。

【ポイント】

 

  • 開発フォーラム・プロジェクト」により、国際開発・経済協力分野の実務と政策研究の橋渡しをして、政策の成果やインパクトを重視しつつ、ネットワーキングにより各方面に分散した情報や知見を集約・発信したい。今後1−2年が正念場であり、一つでも具体的な成果につなげていきたい。
  • 第一の柱は、国際開発論議を踏まえた政策提言である。最近はPRSP(貧困削減戦略ペーパー)への対応援助のグラント化援助の最貧国への集中・中所得国からの撤退といった問題が重要である。我が国としても、共同歩調、補完、能動的関与といったアプローチにつき良く考える必要がある。
  • 第二の柱は、国別開発戦略の掘り下げである。我が国に知見があったり大きな役割を果たしている国については、PRSPに対して具体的にどうすれば良いのかというところまで踏み込んで提案・修正することが重要である。
  • 日本の知見を集約すれば良い成果が出ると思うが、世銀等と対話を行って日本の知見を理解させる「知的なボクシング」、「対外試合」が是非とも必要である。
  • 開発問題というと貿易・投資と独立して考えがちであるが、両者の政策一貫性を求める国際的流れがある。こうした開発と貿易・投資の関係に着目した形で政策提言が望まれる。

 

【本文】

  1. 開発分野の政策研究・発信とネットわークの強化に向けて

 (大野泉・政策研究大学院大学教授)

  1. はじめに

 自分は政策研究大学院大学に勤務しているが、それまではJICA、世銀、OECF、JBICに勤務し、本年1月から本大学で「開発フォーラム・プロジェクト」という研究プログラムの立ち上げに取り組んでいる。今回は、財務省と国際金融情報センター(JCIF)のMDBs研究会の活動の一環として、他のメンバーとともに当地を来訪している。

(2)「開発フォーラム・プロジェクト」

 まず、「開発フォーラム・プロジェクト」につき紹介したい。政策研究大学院大学自体は、開発を中心として途上国の官僚や日本の社会人に対する教育活動と研究活動を行っている。具体的には、大学の中の政策研究科において、各種の授業を行い、IMF、ADB、FASIDからのそのための助成を受けている。また、政策研究プロジェクトセンターでは各種の研究活動を行っているが、この中で「開発フォーラムプロジェクト」が本年1月に立ち上げられた。

 このプロジェクトは、国際開発・経済協力分野における政策の革新(イノベーションに)を目指し、この分野の実務と政策研究を結ぶブリッジ・ビルディングの役割を果たしたい。すなわち、政策研究を実務に活かし、実務を政策研究に活かすということである。その際、政策の成果やインパクトを重視したい。

 方法は、ネットワーキングが大事である。国際開発・経済協力分野に限らないが、日本の最大の課題の一つは、知識、情報、知見といったものが各方面に分散していることである。これは、日本のシステムが縦割りであることによる。、この結果、意見のとりまとめや発信に時間かかる。現在は、変革を行うべき時期であり、我々がやりたいのは、いくつかの特定のテーマを絞って、日本や世界のどこで誰が何を考えているかを整理し発信することである。

 その意味で、開発フォーラム・プロジェクトでは、多くの研究部門を揃えるのでなく、数名により構成されるユニットで、既存の大学、研究機関、政府、開発実施機関等、ネットワーキングを中心に情報を集約・発信し、様々なチャネルを使って伝達していくことにより、効果を出していくことを狙っている。

 具体的に何をやるかといえば、2002年の研究テーマとして、「ODA改革に関わる政策提言」、「国際開発動向の分析・評価」、「連携・アジアダイナミズム研究会」、「連携・ベトナム貿易産業政策に関する大学間共同研究」の4つを考えている。その他にもやることが多いが今後の課題である。4つのの研究テーマにしても、1年で終わるものではなく、長期的観点から取り組んでいきたい。

(3)2つの柱:国際開発論議を踏まえた政策提言と国別開発戦略の掘り下げ

 以上の4つの研究テーマは、2つの大きな柱に整理される。1つは、国際的な開発トレンドを察知しながらそれを踏まえてバイ・マルチの援助につきどう対応するかという、ODA改革に関する政策提言である。もう1つは、個別具体的な国別開発戦略を掘り下げて考えることである。当面はベトナムを対象国として考えている。

  1. 国際開発論議を踏まえた政策提言

 ODA改革に関する問題意識について述べたい。日本のODAは現在難しい転換期にあり、予算削減の中で、どのような形で効率的・効果的な開発援助を実現していくかが至上の課題になっている。組織のあり方や事業の見直しもしている。外務大臣の設置した第2次ODA改革懇談会も近日中に最終報告がまとめられる予定である。今後数年はいろいろと変わっていくのではないかと考えている。

 まさにどう改革していくのかについて、皆で知恵を出して考える必要がある。その際、日本全体の意見・ニーズの集約が大事である。第2次ODA改革懇談会では国民参加やNGO等が中心的に取り上げられており、それ自体重要であるが、中身の問題として国際開発戦略・方向性をどう考えるかも重要である。我が国は、国際開発金融機関(MDB)の大口のシェアホールダーであり、またバイのトップドナーである。国際機関が変わろうとしていく方向性を追うことなしに日本の援助の方向性を考えることはできない。そのような国際動向の中で、最近重要と思うのは、(a)PRSP(貧困削減戦略ペーパー)への対応、(b)援助のグラント化、(c)援助の最貧国への集中・中所得国からの撤退につきどう考えるかという3つである。

(a)PRSPへの対応

 PRSPプロセスは、約2年前に導入されたが、現在は既にメインストリーム化されている。ワシントンDCでは本年1月にPRSPレビュー国際会議が開催され。3月の世銀・IMF理事会、4月の合同開発委員会では今後の方向性について議論が行われる予定と承知している。PRSPプロセスについて日本の開発関係者の間で議論すると、参加型プロセスとオーナーシップを評価するとの点ではコンセンサスがあるが、根本的な考えに若干の違和感がある。例えば、貧困削減が本当に全てを包括するゴール(overarching goal)なのか。経済成長なくして貧困削減はない。しかし、PRSPでは貧困削減がゴールであり、これが所与の枠組みになっている。また、PRSP自体、当初はアフリカを中心とする拡大HIPC諸国での適用を想定したものであったが、IDAの効率性を担保するためということで70数か国に広がってきている。アジアにおいてもベトナム、カンボジア、バングラデシュ、パキスタン、ネパール、インドネシア等でこの動きが始まりつつある。PRSPは、開発予算の配分・支援のためのツールであり、財政支援、プロジェクト支援、モニタリングの方法などがPRSPプロセスで決まっていく。どのように関与していくか、アジアの場合には我が国のステークが大きく、かなり重要な話になる。特にインドネシアでは我が国に与えるインパクトは大きいと思う。我が国としても取り組みを真剣に考える必要がある

(b)援助のグラント化

 昨年の米国提案(IDA13次増資)に始まった昨今の援助のグラント化を巡る議論は、未だ決着がついていないが、どのように決着するにせよ、一定の社会セクターや、ポストコンフリクト国に対してどのようにグラントを供与していくのかは課題である。日本のODAは3−4割円借款であり、またOOF(ODA以外の公的資金供与)ということでアンタイドローンにより政府ベースの資金供与を行っている。我が国として、どう予算配分していくのか。BHN(ベーシック・ヒューマン・ニーズ)についてはマチュリティ(効果が出るまでの期間)が長いのでグラントにするという議論が通った時、我が国の援助は、社会セクターにシフトするのか、社会セクターはMDB(国際開発金融機関)に任せて、最貧国のインフラをコンセッショナル・ローンでやるのか等、詰めていく必要がある。

(c)援助の最貧国への集中・中所得国からの撤退

 我が国は、中所得国に対しても、中国・フィリピン・インドネシア・中南米等に多額の支援を行っている。中所得国に対しても、我が国の民間セクターの進出を補完する環境整備であれば融資を強化するのか。ODA改革をどうするかということを議論する中で、このような国際的な開発動向を見ていくのが勝負である。

 これらの国際開発論議に対して我が国が取るべきアプローチは3通りあると考える。第一は「共同歩調アプローチ」であり、国際的トレンドとして我が国の援助も同じ方向に進め、それに従って人とカネを配分する。第二は、「補完的アプローチ」であり、国際的トレンドは所与のものと考えるが、他国に欠けており我が国が優位を持つところについて援助を行っていく。PRSPの中にある農村インフラの支援に重点を置くといった方針はこのアプローチに属すると思う。第三は、「能動的関与アプローチ」である。これは、ゲームのルールの形成自体に関与していくものである。どのアプローチをとるのかはテーマにより異なっており、我が国としてどれか一つだけを選択するというわけではないが、よく考える必要がある。このような視点から開発フォーラムとしても取り組みを進めていきたい。

(ロ)国別開発戦略の掘り下げ

 もう1つは、個別具体的な開発戦略である。CDF、PRSPの取り組みについて具体的に中に入ってやっていきたい。先程言ったように、ある意味で80年代の構造調整融資と同様に、CDF、PRSPといった開発のアプローチが席巻し優勢になっている。これに対する取り組みをどうするか考える必要がある。成長と貧困のバランスをどうするか、実物経済のアプローチがなくて良いのか、といった課題について具体的な形で議論することが必要である。

 我が国としても、コメントや意見は、総論としてのプレゼンテーションでコメントや意見を何度も行っているが、それでは具体的にどうすれば良いのかというところまでは踏み込んでいない。我が国の主張については、一般論として、世銀でもDFID(英国際開発省)もわかったと言っており、コメントとして受け止めている。現在は、それでは何をしたいのかを分かりやすい形で明確に示す段階に到達している。この点は、総論をやる上でも重要である。すべての国を一度にできないとしても、日本にある程度知見があったり、大きな役割を経協で果たしている国については、実際のPRSPプロセスを修正(モディフィケーション)することも重要である。

 まずは、ベトナムを取り上げたい。ご承知の通り、ドイモイを始めた当初から、我が国は知的支援として、いわゆる「石川プロジェクト」がベトナムの中長期開発のために3つのフェーズに亘って調査を行ってきており、深いアウトプットがある。共産党幹部とつっこんだ話も行っており、また幾つかのサブセクターについてフォローアップの政策調査がなされている。直接GRIPSで関与しているのは、貿易・産業開発等についてベトナムの研究者、関係省庁とやっているプロジェクトである。その視点を活かして開発戦略へのインプットをしたいと思っている。

 具体的な視点としては、ベトナムは2006年にAFTA加盟する予定であり、経済自由化の圧力がある。これと同時に競争力をつけて貿易や直接投資を増やす必要がある。国際的統合のプロセスの中で、非関税障壁を関税化し、更に関税を下げていかなければならない。ベトナムは、2006年の時点でマレーシアやタイと同等に競争することは困難である。全部を一度に開放すると、つぶれる産業もある。例えば、関税の交渉について、どういった方針をASEANで議論するのか。いくつかの産業について投資誘致方法など深く考えられないか。そういった観点から調査研究をしている。このような国は、直接投資、貿易輸出の拡大という基盤がないと、均衡のとれた開発ができない。工業をはじめとする産業開発が課題である。これらの問題について、幅広い基盤を持った戦略ペーパーとして、開発戦略のあり方として提案していけないかと考えている。ベトナム政府自体がオーナーシップを持って取り組んでおり、名前もPRSPもPRGSP(growthを含める)と変えている。GRIPSという研究機関としての提言だが、JICA、JBIC、外務省、財務省、経済産業省等とも協力しつつ、実務的なルートを通じて反映させる可能性があるのかないのかについても相談させていただければありがたい。

(4)今後の課題

 当面は、我々として国際開発論議を踏まえたODA改革の総論と個別の国別の開発戦略に取り組みながら同じ関心を持つ人とネットワークをつくり情報、成果をホームページで紹介していきたい。そこを見れば、PRSP、ODA改革の分野の議論がわかるようにしたい。その際、それを踏まえてどうすべきかについての我々の考えも併せ紹介していきたい。お互い情報共有しながら発信研究活動を行っていければよいと思っている。

 日本は、いろいろな意味で知識が分散している。研究会を取ってみても、同じ分野についての研究会がいろいろあるのが現状である。ODA改革を取ってみても、第2次ODA改革懇談会が全体の方向性を議論する一方で、財務省・JCIFのMDBs研究会や、内閣府で経済協力の在り方を官民パートナーシップで考える研究会、経済産業省でもアジアとの関係で経済協力の今後のあり方を考える研究会など、色々なところで色々な良い議論がされている

 経済協力にどう取り組むのか。この議論を消化して、折角の良いインプットをもっと効果的に政策に反映させるプロセスがあっても良い。これらについて情報収集し紹介して議論の場をつくるために、「開発フォーラム・プロジェクト」を今般立ち上げた。同じ考えをもつ人と、長期的視野から考えたい。実務レベルで発信するためのどのような機会があるのか、どういった形で作業し、どう役割分担するかを考えたい。このようなハブが複数出てくるのは大いに結構だと思う。また、各ハブは一定の政策指向性を持っていても良い。ハブ同士がお互いに議論すれば、建設的な議論になる。最終方針も決まる。そのためのステップとして考えたい。

 今は始めたばかりで抱負を語っているだけである。一緒に仕事を進めるスタッフを集めている段階にあり、時間がかかるのはご了解頂きたい。しかし、今後1−2年が正念場であると確信している。一つでも良いのでタンジブルな成果につなげていきたい。

  1. 質疑応答で出された意見
  1. 中国の三峡ダムの世銀プロジェクトについて、100万人の住民のリロケーションが必要となるためストップしたが、そもそも従来より河の氾濫で数年おきに数百万人規模のリロケーションを余儀なくされており、それを防げるという効果を十分に考えていない。世銀は「リロケーション」という言葉を聞いただけで「ノー」と言うが、これでは思考停止であり、中身を具体的に見て欲しいと中国側の当局者は言っていた。
  2. インドで1998年に核実験が行われた際、世銀融資も組み込む形の数億ドルの発電所プロジェクトに関与していたが、米国がインドに一方的制裁を加え、世銀融資にも反対したため調印直前に世銀融資がストップした。このような形で政治がからむと企業としてはお手上げである。
  3. ガイアナの国営砂糖工場について、世銀融資が入札発表寸前にPRSPがからみ、世銀、IMFがPRSPと整合性がないということで融資がとまった。しかし、ガイアナは、自分の国には砂糖産業しかなく、雇用創出・貧困削減のための他の手段がないと嘆いていた。ガイアナのみでは動きが取れず、この問題に対して1年半経った今も答えが出ていない。お題目としての「貧困削減」はよいが、どうするかという点を抽象論でやると、現実の世の中にインパクトがない。

(→大野教授コメント:その通りであり、ルールの形成も純粋ではなく政治的要因がからむところ、それに対して我が国が何を言っていくのか考えたい。ガイアナの砂糖工場についても、砂糖しかない国で砂糖工場ができないと貧困削減にもどのような影響があるのか、貧困削減が大事といってもいろいろなやり方があるのではないか、という問題を提示していく必要がある。他方、個別の国を見つめて十分に知った上でないと提言はできない。援助人材は限られているので、その国を十分に知った上でつきあいながらやっていきたい。イデオロギーだけで方針を決めるのは問題である。いろいろな枠組みが出来て実施に移される中で、単にロジックだけで反論しても説得できず実効性もないできる範囲の中で、この国、あの国と取り組み、具体的な提案をしていくことが重要である。また、これが総論として跳ね返ってくる同じ問題意識を持つ人がネットワークになって連携し、それぞれが持っているチャネルを通じて同様のメッセージを発信することが大事である。)

(→大野教授コメント:付加価値の提供、知的発信の強化になるべくリソースを傾注できるようにしたい。発信のやり方について、論文は一つの方法ではあるが、逆にそれ以前のプロセスが大事である。自分は理論的研究者でなく実務家出身であり、アカデミックな深い洞察はない。深い洞察を持った研究者は別途いるので、自分としては、マーケティングのプロセスで、どのような研究が必要か、役に立つかを煮詰めて考えたい良い智恵を引き出して、実務プロセスでの発信、プレゼンテーションをしたい。最終的に論文や本は出来るが、これはあくまで副産物であり、逆にそのプロセスで政府、実施機関、他の研究者、NGOと一緒にやり、情報や知見を共有するところが大事である。

(→大野教授コメント:出向の戦略も含め、同感である。単に人数を増やすのみならず、世銀内での各ポジションをどのように考え、活用していくかが課題である。)

(→大野教授コメント:まさに関与していくことが重要であり、日本の関係者の中で議論しているだけではダメである。「石川プロジェクト」自身は、本当に日本の知見を集約していると思う。石川先生ほどの知見はないが、GRIPSとしてもう少し売っていくために貢献できるのではないかと思う。正直なところ、「石川プロジェクト」はかなりお金をかけてやったプロジェクトであり、これをわかりやすくコンパクトにまとめて、世銀やIMFと議論していくことがもっと出来ていれば、ベトナムとの関係はもっと変わっていたのではないかと思う。ベトナムでは、従来日本は最大のドナーなので、独自に自由に援助することができたのかもしれないが、今はIDA対象国としてPRSPプロセスがあるので、そのプロセスが日本による援助に影響を与え得る。日本もこのプロセスに入らなければ困ってしまう。幸い、ベトナムも成長志向に関心を持っている。他のドナーの中でも、EUやUNDPは同様の問題意識を持っているようである。どのような形で議論をすればよいのか、PRSP部会を追加するのか、あるいはRPSPより大きな戦略を考えるのが良いかはわからないが、一番効率的に議論をしていきたい。これがGRIPS開発フォーラムプロジェクトの一つの貢献になると思う。自分自身、3月末にJICAの「石川プロジェクト」フォローアップ調査に連携させて頂く形でベトナムを訪問し、最終報告会・セミナーに参加するので、その機会をとらえて現地の我が方経協関係者のご意見を伺えればと思っている。)

(→大野教授コメント:システムの構築というと大きな話になってしまうが、同じトピックについて、政策研究を行うグループがいくつもあって良いと思う。例えば、PRSPについて、グループAでは特定の観点から分析・発信を行い、グループBでは違った観点から同様の活動を行う。重要なのは、それぞれ一定の政策志向を持つ人同士がネットワークを通して議論して意見を煮詰めることである。このように詰めた議論をしていくと、それを踏まえてアイディアや政策提言を日本政府等に売るという「市場」に出すことができるし、「市場」においてどれが現状から見て最も適切かという話になる。議論を煮詰める際には、市場開放を重視するグループと、産業保護を重視するグループが、最初から一緒になってもダメである。それぞれが自らのネットワークで意見を深め、ネットワークとして煮詰まったアイディアを提示し、それを日本政府が集約する形となろう。何かから始める必要があり、同じ志を持った人が、ハブになる人・組織を通じて情報を共有して意見交換をしていくことが大事である。時間がかかるかもしれないが、このような営みによって政策論議が深まるであろう。)

(→大野教授コメント:アフリカについても取り組みたいが、ベトナムですら色々ない問題、課題がある。ベトナムについては日本でも調査があり、同国のPRSPについて意味のある役割を果たせなければ、その他の国についても難しいとの認識のもと、まずベトナムから取り組むということである。GRIPSにはベトナムの貿易・産業開発に長く関与している研究者がおり、GRIPSの事業として短期的には効果がある。まずできるところからやりたい。アフリカについては、アフリカに取り組むグループがあってよいと思う。ベトナムの経験がアフリカにもレレバントかについては、次のステップとして検討できる。将来的に貢献できればしたい。現在は、自分に加えて数名しか研究者・スタッフがおらず、当面は制約の中で何ができるか考えたい。アフリカを考えるグループや、最貧国(HIPCs)を考えるグループができれば、知見を交換したい。)

(→大野教授コメント:フィールドとの関係についても、「開発フォーラム」がすべてのネットワークのハブになることは想定していない。テーマ別等に複数のネットワークのハブがあってよいし、役割分担がある。PRSPにおける産業開発の観点(成長志向)やODA改革に関する提言等を行っていく中で、仕事の関わりが出てくれば、他のテーマについてもネットワークを拡大していきたい。NGOとも、効果が出るところで連携したい。漠然と問題意識を共有しよう、ネットワークを作ろうといっても考えを深めていくことはできない。まずは、同じテーマに関心を持つ人が集まって小さく始め、大きく育てていきたい。)

(以上)

 

(参考)

GRIPS・政策研究大学院大
開発フォーラム・プロジェクト
(GRIPS Development Forum Project)

政策研究大学院大学(GRIPS)は、199710月に創設された、社会科学分野でわが国初の国立大学院大学です。教育・研究・情報発信の3機能を併せもつことにより、政策研究の高度化を図り、ハイレベルの専門家及び研究者を養成します。卓越した研究教育機関(Center of Excellence)として社会、文化の発展に貢献することをめざしています。

「開発フォーラム・プロジェクト」は、20021月にGRIPSの研究プロジェクトの一つとして発足しました。数年後に国際開発戦略研究センター(仮称)へと発展的に解消する予定です。現在はその準備期間として、政府開発援助(ODA)・経済協力分野における政策研究・発信活動に着手しています。なお本プロジェクトは、文部科学省・外務省・FASID(国際開発高等教育機構)・JICA(国際協力事業団)・JBIC(国際協力銀行)の協力を得て運営されています。

1.「開発フォーラム・プロジェクト」の目的:

●学際的な政策研究機関としてのGRIPSの比較優位を生かして、国際開発・経済協力分野における戦略的かつ政策志向の研究調査を実施し、また内外に積極的な発信活動を行ないます。

GRIPSが有する幅広い知的ネットワーク(内外の政府機関、大学、研究機関、IMF・世銀・ADB等)を活用して、国際開発・経済協力分野における研究ハブ機能を確立・強化します。

●成果の質と政策へのインパクトを重視し、既存の研究方法や組織の枠にとらわれない新たな研究イノベーションをめざします。

2.背景と問題意識:

●政府開発援助(ODA)・経済協力は、日本の国際貢献や外交政策の主要ツールと位置づけられています。しかしながら、@情報公開の進展と国民の厳しい眼(効率性・透明性の要求)、A「量」から「質」拡充への転換を意識した近年のODA改革の動き、Bグローバルな課題の重要性(IT、環境、民間セクターの役割拡大、紛争解決など)、C貧困問題への世界的取組み、D開発協調の流れ、E国際金融システム再構築の議論の活発化等といった内外環境の劇的変化により、現在、重要な岐路に直面しています。

●このような環境変化に対応し、すでにODA改革懇談会(第1(1997~98)、第2(2001~02))、円借款懇談会(2000)をはじめとして、官・民・財界・NGOを含む多様な有識者・ステークホールダーにより、今後の日本の開発援助・経済協力のあり方、国際機関の打出した新開発戦略への対応などにつき、活発な議論が展開されています。特に昨今の緊縮財政に伴うODA予算削減や行政改革の流れは、これらの課題への緊急な対応を促すとともに、これらの知的努力を踏まえ、抜本的・包括的な政策検討を行なう絶好の機会を提供しています。

3.2002年度の研究テーマ:

ODA改革に関わる政策提言【新規】

ODA・経済協力のあり方について既存の議論を踏まえ、日本としての戦略的取組み強化の観点から、国別開発戦略、予算配分(重点支援地域・国、重点支援分野に関する考え方)、支援ツール、実施体制等のトピックについて検討し、改善にむけた具体的な提言を行ないます。

●国際開発動向の分析・評価【新規】

国際機関の開発戦略(世銀のCDF/PRSPアプローチなど)をめぐる議論をフォロー・評価し、日本のODA・経済協力への教訓を整理するともに、トップ・ドナーとして国際社会で大きな発言力を有する日本が、国際機関政策に対し積極的に関与すべき方向・内容について具体的な提言を行ないます。

●連携・アジアダイナミズム研究会【2001年〜、経済産業研究所(RIETI)】

日本・アジア諸国の経済発展、およびそれを支える通商産業政策と整合的な経済協力ビジョンを提示し、

ODA改革論議に参加・貢献することを目的とします。

●連携・ベトナム貿易産業政策に関する大学間共同研究【1995年〜(「石川プロジェクト」からの継続)、国際協力事業団(JICA)】

後発途上国であるベトナムに対し、国際統合下における現実的な産業育成戦略の検討、産業別提案を国民経済大学(ハノイ)との共同研究により行ないます。日本の知的支援のパイロットプロジェクトとして、諸機関のネットワーク構築とベトナム政府への政策インパクトを重視します。

(将来も、GRIPS単独あるいは他機関と連携して、緊急性の高いテーマを追求していく予定です。)

4.活動・発信方法:

●既存の枠組みにとらわれず、研究ニーズを最優先して、研究調査・交流、情報収集・分析、政府や国際機関への働きかけ、講演、セミナー、出版、知的ネットワークづくり、パイロットプログラム実施などの各種ツールを機動的かつ効果的に組合せます。

●予定されている出版物等は次のとおりです。

5.連絡先:

大野泉(政策研究大学院大学教授) E-mail: i-ohno@grips.ac.jp

鈴木明日香(同大学研究事務担当) E-mail: asuka@grips.ac.jp

162-8677 東京都新宿区若松町2-2TEL: 03-3341-0525FAX:03-3341-0220