ワシントンDC開発フォーラム
DC Development Forum


ワシントン日本商工会会報(JCAW NEWS)5月号寄稿

ワシントンDC開発フォーラム
−組織を超えた人的ネットワークによる変革の試み−

[ある日のJICA米国事務所にて]

 5月8日の昼休み、ホワイトハウス近くのI Streetに面したビルの8階にあるJICA米国事務所に、ワシントンDC在住の邦人経済協力関係者が約30人集まりました。この日、ワシントンDC開発フォーラムの10回目のブラウンバッグランチ(昼食持ち寄りセミナー)「NGOとドナーとのパートナーシップを如何に構築すべきか−米国の政策と経験から考える−」が開かれたのです。最近まで米国NGO連合体に勤務していた研究者の発表を受けて、米国の政府・NGO関係のプラス面/マイナス面双方の教訓、開発NGOと国内NPOの連携、NGOを担う人材の育成、開発問題と市民社会に関する国民意識の啓発の必要性といった問題について活発な討議が行われました。そして、発表のレジュメは早速その当日に、発表・討議の記録はその翌週に、それぞれ電子メールでワシントンDC内や東京のみならずNY、パリ、ジュネーヴ、そしてアジアやアフリカなど途上国の開発・経協実務者約200人に直接送付されました。

[本年3月に本格的にスタート]

 ワシントンDCには、多数の経済協力関係者が、政府、実施機関、世銀グループ・米州開銀・IMF、企業、NGO、シンクタンク・大学、メディア等で開発の実務や研究に携わっています。その情報・知見を活かして個人の資格で自由かつ率直な議論を行い開発戦略に関する政策論議を深める(かつ出席者間の親睦を深める)とともに、記録を世界各地の関係者に発信して現実の政策立案・実施に反映させるために、ブラウンバッグランチの開催が構想されました。昨年9月、ODA改革へのインプットを主な目的に、月1回の「ODA改革ランチ」として小じんまりと試行的に始まりましたが、徐々に多士済々の論客が集まり問題意識も次々に広がって、本年3月には幹事を11名に拡大し、「ワシントンDC開発フォーラム」に改称して新たなスタートを切りました。現在のところ平均週1回のペースでこのブラウンバッグランチが続いています。出席者は基本的に邦人ということで、テーマは昨今国際的に議論されている開発の諸課題に対して日本の取るべき戦略と具体的方策が中心となっています。これまでの発表者は、当地の世銀グループや大使館、実施機関、企業関係者などの幹部・若手職員、そして東京や米国他都市の大学からの研究者など多種多様です。

[組織を超えて情報と知見を交換し世界に発信]

 このフォーラムの最大の特徴は、日本では往々にして陥りやすい組織毎の縦割り思考を排して、個人の資格で自由に意見を述べて政策論議を深めることを旨とし、それが実現していることです。これは、オープンな形での政策論議が日常的に行われるワシントンDCだからこそ触発されて可能になったのかもしれません。更に、ITの活用も大きな特徴です。ブラウンバッグランチの出席者の間では、時間が足りなかった場合には電子メールで討議が続きます。また、フォーラム幹事のボランティア作業により記録が作成され、電子メールやウェブサイト等を通じて東京や国際機関所在地、途上国等で経済協力の政策立案・実施を担う関係者に直接伝達されるとともに、世界各地の問題意識も当地でのテーマ選択や討議内容にフィードバックされます。ワシントンDCにある本フォーラムが触媒となって、組織の枠や地理的な制約を超えて、フェース・トゥ・フェースの対話とインターネットを通じたアウトリーチの組み合わせにより、政策論議を深め、広げることが可能となっているのです。

[これから?]

 貧困やエイズをはじめとする途上国の開発問題は、最も重要なグローバルな課題の一つであり、日本が果たすべき役割は極めて大きなものがあります。その中で、世銀やIMF本部、そして米国政府関係諸機関を前にしたワシントンDC在住の邦人経済協力関係者の果たし得る役割も大きいと思います。日本にある既存の組織や制度をスピーディーに変えることは難しい一方で、ITとナレッジマネジメントを活用して、このワシントンDC発で組織を超えた人的ネットワークを構築することが、日本の潜在力を引き出す大きな鍵となるかもしれません。

ワシントンDC開発フォーラム・連絡担当
(在米国日本大使館)紀谷昌彦