ワシントンDC開発フォーラム
DC Development Forum


国際開発ジャーナル2001年9月号寄稿

ワシントン便り 
「米ブッシュ政権の新援助政策と日本」

在米国日本大使館一等書記官・経済協力担当
紀谷昌彦

  米国では、8年間にわたる民主党のクリントン政権に代わり、本年1月に共和党のブッシュ大統領が就任した。パウエル新国務長官のもと、対外援助を担う国際開発庁(USAID)も、4月末にナツィオス長官が指名・承認され、政治任命のシニアポストが全面的に入れ替わっていくなかで、新しい政策が徐々に姿を現しつつある。

外交目的を達成するための援助プログラム
 4月25日、ナツィオス氏は米上院で承認を求めるに際して証言を行ったが、そこでまず明確にしたのは援助を外交目的のため実施するということである。「米国は大国として、外交目的を達成し、米国民の深い人道的な本能を表現するための対外援助プログラムを持たなければならないと信じる。それは、適切に用いれば、大統領が世界の出来事の方向性に影響を及ぼすための強力な手段となる。(中略)…対外援助プログラムは、良く運営すれば、大統領と国務長官が国益を増進することを支援できる。もし私が長官として承認されれば、私は誰のために働き、私のボスが誰であるかを明確にする。私が報告し指示を仰ぐのは、国務長官である。」

 軌を一にして、パウエル国務長官も5月10日の下院証言で次の通り述べている。「アンディ(ナツィオス長官)は毎朝欠かさずスタッフミーティングに出席している。朝8時半、全ての国務次官や次官補とともに、私のスイートの会議室に座っている。彼は国務省ファミリーの不可欠・不可分の一員であり、このようにわれわれはこの組織を動かしているのだ。」

 前政権下では、USAIDが開発分野の専門性を掲げ、自律性を求めて国務省と対立する局面もあったが、結果として援助に対する議会や国民の理解と支持を得る上でプラスとはならなかった。パウエル国務長官は国民の圧倒的な支持を得ており、その指揮下に自らを置くことは、予算などにつき好意的な配慮を得る上で得策でもある。5月にパウエル長官がアフリカを訪問した際にはナツィオス長官も同行したが、これは前政権下でほとんどなかったことであり、外交と援助の連携に一層の注意を払おうとの姿勢がみられる。

USAIDの「4つの柱」
 ナツィオス長官は承認後、2002年度予算案を説明するための5月6日の上院証言で、USAIDの「4つの柱( Four Pillars)」を発表した。これは、援助の実施方法の柱としての「グローバル開発アライアンス(GDA)」、そしてプログラムの柱としての「経済成長と農業」「グローバル保健」「紛争予防と開発救援(developmental relief)」から構成される。USAIDは、外交政策のツールとしての自らの効果を高めるため、主要な活動目的と方法を明示し、既存の予算項目を横断する形で柱を提示することとした。これは同時に、議会と国民にわかりやすい形でUSAIDの活動を説明し、支持を高めることも目的としている。

 さらに、組織面でもこれらの柱に応じた形で部局を再編する作業が進められている。具体的には、政策立案を担う局に予算調整権限を与えて強化するともに、GDA事務局及びプログラムの柱に相当する3つの局が新設・再編されることとなった。

 第一の柱として最も注目されるのが「グローバル開発アライアンス(Global Development Alliance, GDA)」である。これは、グローバリゼーションに伴い政府のみならずNGO、財団、大学、企業、さらには個人までが公的サービスを提供する主体となったという認識のもと、『21世紀のUSAIDの新たなビジネスモデル』として提示された。

 GDAにおいては、USAIDはベンチャーキャピタルのパートナーに似た戦略的アライアンス投資家としての役割を果たし、その資金や専門性を使って新たなアクターやアイディアを開発分野に招き入れることにより、新規投資を促進し、多くの便益を生み出す機会を求めたい、としている。特定の開発目的をターゲットにパートナーとアライアンスを組み、その目的を達成するためレバレッジを効かせて民間の資金と専門性を動員するとの発想である。

 実例として、米国、国連、ゲーツ財団、ロックフェラー財団、薬品製造会社国際協議会のアライアンスによる「ワクチン・予防接種グローバルアライアンス(Global Alliance on Vaccines and Immunizations, GAVI)」を掲げている。2002年度予算案では、従来の各分野用予算のうち1.6億ドルをGDA方式で使用すると明示しており、今後具体的なイニシアティヴが次々と打ち上げられることが予想される。

 GDAというアプローチは、DACや世銀などを中心に議論されてきた「開発パートナーシップ」の考え方と、多様な関係者を動員する必要性を強調する点で共通しているが、途上国側のオーナーシップや開発問題の包括性には着目せず、個別分野で目に見える成果を上げることに焦点を当てている点が特徴と考えられる。

 「経済成長と農業」の柱は、持続可能な市場経済を築くため、経済成長と農業と環境を統合して取り扱うものであり、2001年度予算の8億7100万ドルから2002年度予算案では9億2800万ドルに増額された。基礎教育を含む人材育成や貿易投資環境整備もこの柱に位置づけられる。とくに、共和党にとって農業は票田であり、ナツィオス長官は減少傾向にあったUSAIDの農業関係予算・スタッフを増強する旨表明している。(他方、環境への言及はより少なくなっている。)
 「グローバル保健」の柱は、前政権から重視されているものであるが、2001年度予算の12億5900万ドルから2002年度予算案では12億7600万ドルに増額された。ブッシュ大統領は当初エイズに関する政策を明確にしなかったが、国連エイズ特別総会やG8サミット・プロセス、アフリカ要人往来といった流れの中で、5月11日に先進国中先鞭を切ってグローバル保健基金へ2億ドルを拠出する旨表明するに至った。エイズ対策には民主・共和党を通じて支持が強く、両党の有力議員により、2002年度予算で2億ドル、2003年度予算で5億ドルを拠出する内容の法案が提出されている。

 「紛争予防と開発救援」の柱は、人的災害と自然災害を一括し、緊急時に迅速な支援を行うとともに、従来の民主化プログラムを含め、紛争予防・解決に関連した支援を長期的な構造的予防策に至るまで統合して取り扱おうとするものである。2001年度予算の11億8100万ドルから2002年予算案では12億1700万ドルに増額された。ナツィオス長官はUSAIDの国外災害支援局(OFDA)出身であり、また国務省とUSAIDの連携が特に必要となる分野ということもあり、重点項目とされている。

 この関連で、議会による予算のイヤマークの排除も優先課題とされている。USAID予算には議会により使途の細目が指定されているものがあり、現場レベルで効果的な執行が阻害されていることから、ナツィオス長官はその改革を訴えるとともに、代わりに議会には成果をより頻繁に報告することをいとわないと述べている。

主要ポストを知日派が占める

 以上述べたブッシュ新政権の援助政策には、多くの新たな要素が見受けられるが、新政権として、議会や国民に対して従来との違いをことさらに強調する必要があるという側面もあり、実際にどの程度の変化があるかは今後の実施を待つ必要がある。ただし、外交政策との連携の必要性、開発パートナーシップの重視、国民へのアカウンタビリティ向上など、日本の経済協力の課題と共通する部分があり、今後の進展が注目される。

 日本は米国との援助協調を従来から重視してきている。ほかの先進国と比較して政策面でも類似点が多いのみならず、日米コモン・アジェンダの枠組みのもとで人口・保健分野等で具体的な成果を上げ、NGO強化、緊急援助改善等についても協力が進んでいる。本年6月のブッシュ大統領と小泉総理の会談では、グローバルな日米協力の重要性が共同声明のなかで確認され、今後その推進のための方策が検討される見通しである。USAIDの政治任命の主要シニアポストには、政策プログラム調整局長のクローニン氏(日米同盟に関する著作あり)、アジア近東局長のフォアマン氏(ネイチャー・コンサーバンシー日本プログラム部長を長年務める)などの知日派が多く、今後の連携強化が期待される。

(関連ウェブサイト)
USAID http://www.usaid.gov
米国務省 http://www.state.gov

(本稿は筆者の個人的な見解であり、外務省の立場を述べたものではない。)

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